市町村内の「町」と「字」の名(「町丁字名」等と呼ばれるようです)に関しては既に
アーカイブズ があり、今年になってからも名古屋市の住所に関する疑問を契機として、
多くの記事 が寄せられています。
オーナー グリグリさんをして、“「字」は鬼門”
[47769]、“長年の疑問”
[48271]と言わしめたように、日常的に使う地域区分でありながら、「都道府県市区町村」のレベルと異なる、判りにくい問題を抱えているようです。
過去記事がたくさんあるので、私なりの観点から整理した上で 多少の意見を述べます。
現行法令との関係については、既に
[41581]88さんと
[48373] Issie さん が詳しく紹介されています。
これを大胆に要約すると、次のようになります。
総務省所管の地方自治法(主な対象は住民)では
市町村の区域内の町若しくは字の区域
と使っており、これからすると「町」と「字」の両方があることになります。しかし、それらの定義も両者の区別も書いておらず、「町」も「字」も 法律の制定に先んじた存在(a priori)です。
また、「字」は「大字」又は「小字」を含むと解釈されています。
住居表示に関する法律も、地方自治法の考えを踏襲しています。
一方、法務省所管の不動産登記法(対象は財産たる土地)は19世紀末に起源をもつ古い法律ですが、
土地の所在する市、区、郡、町、村及び字
と使っています。
88さんの解釈によると、
不動産登記法では、「字」だけです。「町」の表現は全く出てきません。
とありますが、上記条文中の「町」は、「郡」の中にある「町」(「市区町村」の一つである町)だけでなく、「市」や「区」の区域内にある「町」も含んでいると解釈できそうです。
こちらでも、「町」や「字」は新たな定義を必要としない“所与のもの”として使われていることは同様です。
なお、地番区域を定めた不動産登記規則では、
市、区、町、村、字又はこれに準ずる地域
と記し、(上記5種以外の名称を持つ?)「準ずる地域」の存在を示唆しています。
その実例としては、「丁」
[47319]・「地割」
[19408] [19438]の類だけでなく、「○○一丁目」の類があるのでしょうか。
更に古い法令に遡ると、大区小区制時代の明治9年に 内務省が定めた「地所名称区別細目」において、
村と称するものは 郡中の区分にして 字を管轄し農民の部落を為すものなり
町と称するものは 郡中の区分にして 商民の市街を為すものなり 字を轄すること村に同じ
字と称するものは 村町中の区分にして 数十百筆の地を轄するものなり
と定義しています。
村は農村の部落、町は商人の市街という区別で、「村」や「町」はいくつかの「字」を統轄するとあります。
明治9年当時には、「町」は「村」と同格の存在であり、現在のように「町丁字」として「字」と並べられる「下位区分」ではありませんでした。
しかし、多数の「町」が連続する大きな市街地の「町」は、明治11年に「区」の中に取り込まれ、更に明治22年以降は全国各地で誕生した「市」の中へと取り込まれてゆき、独立した小さな市街地のまま自治体となった“田舎町”とは異なり、「字」と同じような「下位区分」となる運命をたどることになります。
このようにして、「自治体としての町」と「下位区分としての町」が分化してゆきます。
「字」は「筆」を統轄する区域とした定義が示すように土地中心主義の言葉であり、住民中心主義の定義がされている「村」と「町」 (町村でな村町の順であることが農業国だった時代を表わしています) とは少し異なりますが、これとても新たな定義というよりは、以前から使われていた(
[6639] f さん)「字」という言葉を、新政府の土地制度の下で表現したものでしょう。
このように、明治初期に定義された「町」と「字」とは異なるレベルの用語でしたが、語源的には「字(あざ)」は「畦(あぜ)」からきている(
[40551]地名好きさん)のだとすると、田に境界線の形(丁)をつけた「町」という文字と、本質的には同じ言葉ということになります。
「大字」という地域区分は、町村制の実施を前にした明治21年(1888年)の内務大臣訓令で登場しました。
[37482]でも引用しましたが、次のように書いてあります。
合併の町村には新に其名称を選定すべし
旧町村の名称は大字として之を存することを得
「大字」という言葉は、明治大合併による行政村の誕生に際して、旧町村の名称を新たな「字」として残す場合、同じ「字」という言葉が、従来からの存在である(a priori)「字」と共に階層的に使われるようになるので、混乱を避けるために「上位階層の字」という意味で作られたと理解されます。
従来の「字」は、そのままでよいはずですが、わざわざ「小字」という言葉を作った地域もあるのは「大字」と対比するためでしょう。