現在、
「希少地名 (一般)」コレクションにおいて「ワンド」の地形の種類は“湖の湾入部”と“川岸の入江”に分類されています。果たしてそれが妥当な分類なのか、そして、「ワンド」を地名コレクションとして集める価値のあるものなのか、という疑問を私は持ちました。以下に考察します。
まず「ワンド」には(1)自然に出来たワンドと(2)人工的に整備されたワンドの2つ(
[30741]愛比売命 さんも推測されておられます)があります。具体的には、
(1-a) “水制”を造成した後に自然に「ワンド」となるもの(詳細は後の「淀川ワンド」で説明します)
(1-b)“川岸の入江” や“湖の湾入部”
(2)将来的に多様な生態系を持つワンドとなるように河川敷に作られた池
と分類されます。(2)の人工的に整備されたワンドは現在
多自然型河川づくりの整備手法の一つ([30741]愛比売命 さん)
として位置づけられているため、国土交通省によって現在積極的に作られています。
それでは最初に大阪府の欄にある「淀川ワンド」(
[29921]牛山牛太郎 さんによる)を考えます。
「淀川ワンド」は100%自然に出来たわけではありません。「淀川ワンド」の出来るまでを見てみると、
1.川の水路を固定すると同時にその水深を維持するために、川の流れに直角に石を積んだT字型の枠みたいなもの(水制)を築き、
2.長い年月の経過で、水制に土砂がたまって、本流沿いにたくさんの池が誕生する。これらの池がワンドと呼ばれるようになる。
以上のような過程((1-a)に分類される)で「淀川ワンド」が出来ました。
詳しくは淀川河川事務所(国土交通省)の
HP1や
HP2の整理番号438を参照願います。
さて本論に入りますと、建設省〈現在の国土交通省〉の資料(淀川工事事務所河川環境課「平成のワンドづくり」~人と自然にやさしい川づくりセミナー論文集 1992.12.1/東京)を引用しますと、「淀川ワンド」におけるワンドとは
水制に囲まれた本流沿いにある池
と定義され、水制とは、
流水の制御または河岸および海岸の洗掘防止を目的として設けられた工作物
と定義されます。
これらの厳密な定義からすると、「淀川ワンド」の地形の種類は“川岸の入江”ではなくて“河川敷の、川とつながっている(もしくは雨が降ったときのみにつながる)小さな池”と表記するほうがよさそうです。
第2に
[30733]でYSK[両毛人]さんが紹介された茨城県北浦にある
金上ワンド(北浦町)、山田ワンド(北浦町)、吉川ワンド(北浦町・麻生町)、蔵川ワンド(麻生町)
についてですが、「ウォッちず」を見る限りでは、「淀川ワンド」同様に護岸のために水制を造ってはありますが、単に水制があるだけなので自然に出来た“湖の湾入部”((1-b)に分類される)とするのがふさわしいと思われます。
第3に山梨県の平野ワンド(
[30306]倉田昆布[昆布in]さんによる)については「ウォッちず」を見る限りでは、護岸のために水制を造った形跡もありません。しかし、人工的にワンドを造成する方法として入江をひろげてワンドにする方法(広い意味で(2)に分類される)もあります。ただ、河口湖の入江をひろげてワンドにするというのは考えにくいため、自然に湖にできた“湖の湾入部”((1-b)に分類される)と考えるのが妥当であると思われます。
第4に笠岡市の「湾頭」(
[30752]みかちゅう さんによる)は過去に“河口の入江”((1-b)に分類される)であったものと推定され、現在はワンドではないと考えられます。また、三浦半島の海岸のワンド(
[30742]今川焼 さんによる)は場所が完全には特定できませんでしたので何に分類すればいいのかが分かりません。
最後になりましたがここ5年で現在(2)の手法による「ワンド」が全国で激増しています。「ワンド」を集めるとしたらおそらく(1)に分類される“自然に出来たワンド”に限定することが必要であると思います。そこでおそらく(2)に分類される、荒川にある五反野ワンド,小菅ワンド(
[30742]今川焼 さんによる)は地名コレクションに採用しないほうがよいと考えられます。
補足1
[30742]今川焼 さんによると
淀川のワンドというのは、いくつものワンドの総称
とのことですが、「淀川ワンド」(
[29921]牛山牛太郎 さんによる)としてまとめてよぶことが果たしてふさわしいのかを検証します。
まず、淀川は大きくかけて2度の変貌をとげています。1度目は1887年(明治20年)デレーケによる構想です。1874年(明治7年)~1896年(明治29年)、1897年(明治30年)~1910年(明治43年)、1907年(明治40年)~1922年(大正11年)、1939年(昭和14年)~1968年(昭和43年)の4期にかけ淀川流域に主として水制を作る工事が行われ、これらの工事後の水制に土砂が堆積して淀川流域に数多くの「ワンド」が出来ました。2度目は1971年(昭和46年)に高水対策を主目標としての構想です。この工事では多くの水制を除去したために淀川流域の多くの「ワンド」が失われました。
ちなみに淀川流域の「ワンド」の数を年度別に記すと、
1968年(昭和43年)…約500
1975年(昭和50年)…約130
1992年(平成4年)…約70
現在…約45
となります。
このように、土木工事により年々淀川流域の「ワンド」の数が変化することからすると淀川流域の「ワンド」の総称として「淀川ワンド」を用いざるを得ないと私は考えます。
補足2
淀川河川事務所の
HP(GIF)に淀川流域に現在約45あるワンドのうち7つのワンドが記載されていたので以下に紹介します。
(ア)
樟葉(くずは)ワンド
(イ)
点野(しめの)ワンド
(ウ)
鳥飼(とりかい)ワンド←この図での中央部付近の北緯34度46分11秒,東経135度35分11秒付近です
(エ)
庭窪(にわくぼ)ワンド群
(オ)
夜雲(やぐも)ワンド
(カ)
平成(へいせい)ワンド
(キ)
城北(しろきた)ワンド群
ただ、このうち(カ)の「平成ワンド」は(2)の手法による「ワンド」として平成になってから作られました(
大阪市淀川区HP)。そのため、「平成ワンド」は人工ワンドと呼ばれています。
補足3
(1-a)に分類される水制由来のワンドは、既出である淀川河川事務所(国土交通省)の
HP2に記載されている河川流域をさがせばいいのではないかと私は考えます。具体的には、
十勝川、石狩川、尻別川、藤琴川(米代川水系)、米代川、最上川、北上川、阿武隈川、鬼怒川・小貝川・烏川・江戸川(利根川水系)、釜無川・笛吹川(富士川水系)、千曲川(信濃川水系)、犀川(信濃川水系)、黒部川、常願寺川、手取川、梯川、安倍川、天竜川、矢作川、木曽川・長良川(木曽川水系)、大谿川(円山川水系)、旭川、高津川、太田川、吉野川、那賀川、石手川(重信川水系)、肱川、物部川、仁淀川、四万十川・後川(渡川水系)、六角川・牛津川(六角川水系)、筑後川・早津江川・諸富川(筑後川水系)、菊池川、山国川、番匠川、大淀川
です(ただし、河川名と同一の水系に属する水系を省略して表記しました)。
以上、拙書込みにお付き合い下さいましてありがとうございました。
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