横浜市では最寄り駅と高台の住宅地を結ぶ短距離のバス路線が新設されることは時々ありますが、最近(10月11日)試行運行が開始された
港南区日野ヶ丘路線バスがあります。試行運行というものの普通の路線バスと異なるのは、「とりあえず2か月のみ運行し、本運行は乗客人数次第」ということです。というわけで、今後の見通しについて考えていくことにします。
1、日野ヶ丘(日野四丁目)などの立地
地下鉄上永谷駅から歩いて15分位の高台の住宅地だが、通勤などは歩いて5~7分程度の環2や鎌倉街道の停留所からバスで京急の上大岡駅に向かっていると考えられる。既存のバスは頻繁に運行されているし、上大岡までの所要時間もそんなに変わらない。運賃も地下鉄のほうが10円安いだけだからだ。また、公務員住宅のほうは上永谷駅からは離れるので徒歩で上永谷駅利用は少なそう。
確かに既存の駅やバス停からやや離れているかとは思うけれど、あえて新設路線を引くほどのところか?とも思うところです。ただ、上大岡駅から高台へ向かう路線はそれなりに乗客がいるのも事実。行政主導で上永谷駅発着にしたら大コケしそうにも思えますが、上大岡駅への需要なら十分。
2、利用客の見込み
試行期間中は1日13往復で、「1日300人以上現金またはパスモ・スイカで利用」が本格実施への条件となっています。しかも「敬老(無料)パスの利用は認めるが人数に数えない」と明言しており、カネを払ってでも乗る気があるかということをしっかりチェックしています。乗客は多いけれど無料パス利用の年寄りばかりで運賃収入が少ない、という事態にならないように牽制しています。地元の町内会などで「試行期間中はカネ払って乗れ、本運行に持ち込めばタダで乗れるはず」と高齢者に徹底しているのかも。また、上大岡駅~吉原の鎌倉街道上の停留所間の利用客もカウントされるようなので、「300人以上」の基準達成自体はそんなに困難なものではなさそうです。
3、運行時間帯
7~20時台を45~55分間隔で運行し、お昼ごろと夕方の運行がないという変則的なダイヤです。1時間間隔でわかりやすくするのが望ましいとは思いますが、上大岡駅側で折り返しの時間調整をする都合でしょうか。本運行の際には日野側で時間調整をする場所ができるかもしれません。本数は限られていますが朝や夜の運行もしているため、一応は通勤需要にも対応できるようにしてあります。
お昼の運休時間帯(上大岡駅発が10:58の次は13:50までない)のは運転士の休憩のためでしょうか。試行運転に割く人員は最低限のものにするために削られていると考えられます。お昼前後の乗客は少なめにはなりますがほとんど空ということはなく、本数削減で運行経費圧縮よりも「不便だ」という印象がつくというマイナスのほうが大きそう。
夕方(上大岡駅発が15:25の次は17:55までない)のほうは…「小学生の下校時にバスが通ると危険だ」とケチがついたのかと一瞬考えたのですが、朝の登校時間帯は普通に運行されています。夕方というのは買い物帰りの客が増える時間帯なので、ある意味稼ぎ時とも言える時間帯です。ここに空白時間帯ができるのは上大岡駅のバス乗り場のキャパシティの問題なのか、ただでさえ運行本数が多い時間帯のために運転士が確保できないことが原因なのか。いずれにせよ、利用客にとっては不都合な話です。
4、運行事業者
上大岡駅周辺だと既存の事業者なら横浜市営・神奈中・京急・江ノ電の4つがあります。各社とも高台住宅への小型バス路線の実績はありますが、今回の試行は神奈中が担当しています。コミュニティバスでは地域のタクシーや貸切バス事業者が安値で運行を引き受けるケースもしばしばありますが、そうなると上大岡駅のバスターミナル乗り入れは認められるかどうか。金沢区では金沢文庫駅~レイディアントシティ(マンション)の路線を京急バスではなく新規参入の大新東が運行していますが、駅前バスターミナル乗り入れをしていません。スペース的に無理とは思えないのに乗り入れができない金沢文庫の実情を見ると、上大岡もダメでしょうねぇ。
本運行に移る際にいくつかの事業者に打診するものと思われますが、上大岡駅の発着場所が確保できない限り既存事業者以外にやらせるのは利便性は落ちそう。上大岡駅から離れたような場所に停留所を作ってしまうくらいならば既存のバスで十分です。
5、運賃
本運行では行政が財政支援をするわけではないので、地元が運行委託をするという形にすればどうにでもなりますが、一般の路線扱いで運行することを考えているようです。そうなると既存の事業者が運行する限りは210円均一で敬老パスの使用可、ということになるでしょう。
かつて横浜市西区の小型バス路線「たまちゃんバス」で高齢者の運賃を有料化した途端に乗客ががた落ちした(その後廃止)、という失敗を繰り返さないかは気になるところ。
6、まとめ
新規参入の事業者が採算性に多少目をつぶって、ここの1路線だけ運行実績を作ることのうまみも少なそう。地元の神奈中バスが試行運行を行っていますが、上大岡駅~日野四・六丁目地区に利用を限っていない(鎌倉街道沿いのみの利用を認めている)という比較的ゆるい基準を提示しているのを見ると、そのまま本格運行をするつもりでしょう。既存事業者ならどこもそんなに条件は変わらないと思うので、あえて別の事業者に代えるとは思えません。
このまま神奈中がやるとして周辺の小型バス路線と比較すると、6~21時台運行で30分ないし45分間隔になるでしょう。