[57481] 88 さん
藩政村や城下町の時代になると資料が乏しく、また、その中でもどの資料を採用すべきものか悩ましい(判断するほどの材料も少ない)ことも多いと思います。
初めまして、okiと申します。地理と地図は子供の頃から好きで、かなり前からROMっていました。どちらかというと歴史地理的な分野に興味が強く、Issie先生やhmtさんの卓見には敬服しています。
皆さんに刺激を受けて、藩政村と現在の町丁大字区域との対応関係を地図上に表現できないかと考え、可能な資料を集めて悪戦苦闘しているのですが、なかなか思うようにはいきません。
この間の、88さん、むっくんさんなどの議論を読んでいて、ひょっとして私でも少しはお役に立てるかもしれない、と思って投稿することにしました。すでにご存じのことも多いでしょうが、お読みいただければ幸いです。
明治以降の自治体と藩政村との関係を考える場合、「幕末以降市町村名変遷系統図総覧」など、これまでにあがっているものを除くと、基礎にすべき資料としては以下のようなものが考えられます。以下で○をつけているのは、ネット経由で閲覧可能な資料です。
江戸時代末期の資料
1.天保郷帳
2.天保国絵図(○)
3.地名研究必携
明治初期の資料
4.旧村旧高取調帳(○)
5.郡区町村一覧(○)
6.地方行政区画便覧(○)
7.新旧対照市町村一覧(○)
以下、簡単に説明しておきます。
まず郷帳というのは、「江戸幕府が国絵図とともに作成・提出させた帳簿。郡ごとに村名とその石高を書き上げ,一国単位でまとめたもの(平凡社百科事典より)」です。江戸時代に何度か編纂されていますが、その最終版が「天保郷帳」で、年次は天保5(1834)年です。
影印本が出版されていますが、大きな図書館にしかないと思います(東京でも、国会図書館以外では都立中央図書館にしかないようです。大学図書館は別ですが)。
「天保国絵図」は天保郷帳と対になる絵図で、蝦夷・松前、琉球を含む全国の絵図が、国立公文書館のHPで閲覧可能です。urlは以下の通りで(これは滋賀県)、JPEG2000で閲覧する方が便利です。
http://jpimg.digital.archives.go.jp/kouseisai/map/shiga.html
天保郷帳がなくとも、この国絵図を見れば、その時点の村名を知ることが可能です(絵図なので、書体は筆による崩し字であり、活字ではありません。古文書解読の能力がなければ、「素のまま」で読むのはかなりシンドいと思います。しかし、以下の旧村旧高取調帳などで当りを付けた上で見れば、ほぼ読解可能です。これは古文書解読能力のない私の経験から言えることです)。
「地名研究必携」は、長野県地名研究所の滝澤主税氏が天保郷帳以降の自治体の変遷を整理された大作で、天保郷帳記載村名、天保~明治大合併以前、明治大合併時、昭和大合併時まで、昭和大合併時、に分けた記載があります。サンプルは以下の通り。
http://www.geocities.jp/chimeikenkyui/chimeikenkyuu.htm
この本は大図書館以外には所蔵していないと思いますが、入手もしくは閲覧できれば、かなり役に立つと思います。
次に「旧村旧高取調帳」は、「明治政府が編纂した江戸時代の末期時における全国村名目録で、明治初年における近世村落の概要を知ることのできる資料」です。掲載されているのは明治2年(1869)頃の村名で、現在は地名として消失したものも含まれている、とのことです。
近世史家で明治大学教授・学長であった木村礎氏が校訂した刊本がありますが、これをもとに歴史民俗博物館がデータベースを作成しており、同館のHPから検索可能です。
http://www.rekihaku.ac.jp/up-cgi/login.pl?p=param/kyud/db_param
このDBでは、村名だけでなくその石高も知ることができますが、一つの村が複数の領主に宛行われている場合(これを相給といいます)、同一の村が領主の数だけ検索されます(これがどういうことなのかは、例えば「山城国 乙訓郡 久我村」で検索すれば分かると思います)。そのため、単純に全国の村名を知るためには、データを取り込んで加工する必要がありますが、総件数が97,359件に達するので、結構大変なものがあります。
また、この資料で把握できるのは「石高」の付された村だけです。三都はもちろん、主な城下町の町名は載っていません。町場には田畑がなく、年貢徴収がなされないためです。逆に、石高がつけられるのは「村」だけでなく、在郷「町」、港や漁師町である「浦、浜」、宿場町の「宿」、「新田」など色々なものがありますが、煩雑なのでここでは詳説しません。
それ以外にも、藩政村の特性に起因する色々な問題があり、私自身がかなり前から整理しているのですが、まだ全国の藩政村を一意的に把握するには至っていません。
「郡区町村一覧」は、ご存じの方も多いと思いますが、内務省地理局が明治11(1878)年時点で全国の郡区名およびそこに属する町村名をとりまとめたものです。この時点の町村名を確認できるとともに、旧村旧高取調帳と照合することで、この間に合併・名称変更等のあった町村を確認することができます。国会図書館のデジタルライブラリーで閲覧が可能で、urlは以下の通りです。
http://kindai.ndl.go.jp/index.html
「地方行政区画便覧」も内務省地理局の編纂物で、デジタルライブラリーから閲覧可能です。市町村制施行直前の明治19(1886)年時点の郡区町村名を知ることができます。また、戸長役場所在町村と、そこに属する町村、戸長役場単位での人口が記載されています。
「新旧対照市町村一覧」もデジタルライブラリーから閲覧可能です。文字通り、市町村制施行直後に、新しい市町村とそこに属する旧町村を整理した資料です。本来、このような資料は地理局が刊行すべきだと思いますが、どういうわけか「東京都和泉橋警察署著作」となっています。同署の署長が府県庁等に問い合わせた結果をまとめたもので、各府県の官吏も警視庁警視にデタラメな資料を提供することはないでしょうから、それなりの信頼性はあると思います。
資料紹介は以上の通りです。
枝村や新田の扱いなどに関しては、私の意見がありますが、長くなったなので次の機会に回したいと思います。
では、今後ともよろしくお願いいたします。