飛び地のことを長々と記しながら、私は飛び地の定義には触れずにきました。
トポロジーでは、2つの領域の相対的な位置関係を対象とするにしても、人文地理的な用語の「飛び地」は「本体」と対比され、主従関係にある使われ方がされています。
では、「本体」とは何か?
過去記事を見ると、市役所・町村役場などのある地域を指すのが主流になっているようですが、
[11959][41297]等で指摘されているように、便宜上から村外に設置されることもある役場
[19799]を基準にすることは、適切とは思われません。
「本体」とは、主たる居住地のある地域ぐらいでいかがでしょうか? 簡単に言えば、人口の多い方が本体。
ところが、前回
[69023]ちょっとだけ登場した天草市倉岳町(天草上島)の、
棚底湾対岸 に関して、次のようなやりとりがありました。
【以下引用】
[67253] ペーロケ さん
【香川県と高知県と淡路島とからなる白桃国で南あわじ市が首都だとしても、香川地域も高知地域も】
飛び地にしていいと思います。現に
[60435]般若堂そんぴんさんご指摘のここ、誰がどう見たって飛び地ですね。
[67256] N-H さん
いや、グリグリさんの定義からすると、これは飛び地ではないということになりますね(役所のある本体とは陸続きでないから)。
【引用者注: グリグリさんの定義
[67237]は、“陸続きでない場合は海または内水面(湖沼)を通ってもよいが、それでも他の自治体を通らないと到達できないもの”となっており、市役所のある天草下島からならば、海を通って到達できる。】
[67257] ペーロケ さん
グリグリさん理論では
あくまでも位相幾何学的に連続するかどうかだと思います。
が重要ということなので、陸続きの領域がある場合は、海を飛び越えるのではなく、陸続きで移動する方が優先され、その際に別の自治体を通らないといけない、という意図だろうと思います。それを、役所が別の島(すなわち、本体じゃない)の領域にも拡大解釈したわけですが、グリグリさんは本体が云々ということはおっしゃっていませんよね?
そもそも、本体っていう概念もあまりシックリ来ません。(以下略)
【引用終】
この議論、直感的には飛び地肯定説に傾くのですが、天草市の本体は(市役所基準でも人口基準でも)天草下島ですから、こちらからの視点ならば、否定説に軍配が上がります。
つまり、問題の地域は、倉岳町など天草上島内の地域から見れば飛び地ですが、天草市の本体である天草下島内の地域からは飛び地でないということなのですね。
“(天草市の)本体に対する飛び地”という筋を通せば後者になるが、地理的に近接した前者を無視した考えには納得せず。
つまり、“倉岳町など天草上島内の地域に対する飛び地”という概念を取り入れる必要があると思います。
天草市のように、陸続きでない複数の地域からなる領域を、仮に「本体」と「分体」という言葉で区別すれば、問題の地域は、“分体の飛び地”ということになります。問題の地域も小さいながら分体ですから、正確に言えば、“(天草市の)主たる分体(であるところの天草上島地域)の飛び地”ということになるでしょう。
陸続きでない複数の地域が一つの領域を構成するのは、極めてありふれたことです。
日本そのもが島国だから、当然これに該当します。本州が本体であり、北海道・九州・四国などの主要な分体があります。分体のうち、小さなものは離島と呼ばれています。
[11853] 太白 さんが例示したデンマークは、コペンハーゲンがあるシェラン島が本体ですが、本体よりも面積が大きい分体であるユトランド半島は、大陸の一部です。両者の間にはフュン島(古都オーデンセ所在地)があり、これも主要な分体です。もちろん面積最大の分体はグリーンランドです。
大陸にある島国の分体として赤道ギニアも例示されていますが、歴史上の顕著な事例として、イギリスがありました。
1066年、イングランドを征服して王朝を開いたのはノルマンディー公。英語読みの名はウィリアム1世。
イギリスの本体はグレートブリテン島ですが、
1180年の図(百年戦争 背景) を見ると、イギリス王家は、ノルマンディー地方だけでなく、フランスの大半に及ぶ巨大な分体を領有していたことがわかります。
急にスケールが小さくなりますが、長崎県平戸市も、本体が島にあり、分体の田平町が九州本土にあります。
上記やりとりの中で、
[67257] ペーロケ さん (以下略)と書いた部分
仮に平戸市が波佐見町を編入した場合は、波佐見町域が飛び地になるんでしょうが、佐々町だったら飛び地じゃなくなるのも変ですね。
この場合、佐々町は、九州本土の分体に対しては飛び地になりますが、平戸市本体の飛び地ではありません。
内陸の波佐見町は、平戸市本体に対しても飛び地になります。
【追記】「棚底」という地名について
本文で“棚底湾対岸”と書きましたが、リンクしたMapionも、ウオッちずも“柵底湾”と記載しています。
しかし、25000分の1地形図の図名は「棚底」(たなそこ)であり、棚底開拓地、棚底川などの表記もあるので、棚底湾が正しいものと推測しました。