[79065] グリグリ さん
とここまで書いていて、大阪府が大阪都になった場合も「呼称変更」でよいのかどうか疑問が生まれました。
やはり,単なる「呼称変更」では済まないケースであろうと思います。
“二重行政”の弊害を解決するということを主眼に置く「大阪都」構想であるなら,その核心となる内容は「大阪府による大阪市の吸収」ということになるのでしょう。この場合,「村→町→市」あるいは「府→都」という“横”の異動だけでなく,(建前上,上下関係があるわけではないものの)「市→都」という“縦”の異動が起こるわけで,かなり大きな制度変更になり,したがって単なる「呼称変更」の範囲内には収まらない,と考えます。
「東京都」の場合は,東京市の区域について“府県階層”と“市町村階層”の2階層にまたがって行政を担当する“新しい制度”の創設であったわけで,そこで法律であるところの「東京都制」が新たに定められるとともに,「府」ないし「都」は“国の地方官庁”で,その改廃や知事・長官以下の官吏の任免は「天皇大権」の1つ(大日本帝国憲法第10条)でありましたから,この部分については法律ではなく勅令「地方官制」も改正されて実現したものです。
「都制」とは,これら一連の手続きを経て導入された「(東京)都という制度」という意味だと思われます。単に「東京都制」という法律が施行されたという意味ではないだろう。
その後の「地方自治法」では,“既にある制度”として他の道府県と同列に扱われることになるわけですが。
「大阪都」の場合はどうなるか。
知事は国会に足場を持っておらず,国会の二大政党等とも全く無関係に,他の都道府県との連携もなく,あくまでも“大阪府単独”で動いているように見えますから,恐らくは「地方自治法」を変えてということはなく,この法律の範囲内で,ということにならざるを得ないのでしょうが,その中でどうやって「市」を吸収し「都」となるのか。
そう言えば,この人は元々弁護士さんですから“法律の専門家”であるのでしょうが,地方行政法という分野についてはどうなのか。
一連の市制・町制・村制の話題については,みなさんの詳細な考察があるのでそちらに譲るとして,とりあえず私はこう考えます。
・かつて存在し,現行憲法・地方自治法下では効力を持たない「市制」「町村制」という法律があった(←この2つ,最初に1888(明治21)年には“1つの法律”(法律第1号)として公布されていますが,1911(明治44)年の改正で別個の法律(市制:第68号,町村制:第69号)に分離しています)。
・この体制の下では「市」になることは法律「市制」を施行することであり,その意味で「市制施行」という表現は正当である。
・しかし,「村」が「町」になる際に新たに「町制」という名前の法律(←実際には存在しない)を施行するわけではない。その意味では「町制施行」という表現は正当ではない。
・ところで,当時の6大市には「区」が設置され,これを「区制」と呼ぶことがあるが,そのような法律は存在しない。
・一般的に1889(明治22)年に導入された基礎レベルの地方制度を「市町村制」と呼ぶ。しかし,「市制・町村制」とは通常呼ばない。なぜなら,これは法律名による呼称ではなく,全国を「市・町・村」に区分して自治を行う制度,というほどの意味で用いられていると思われる。
・「町制」「村制」「区制」も同様の意味で用いられていると考えられる。「市制」,あるいは「郡制」「府県制」は同名の法律が存在し,その区分が曖昧だが,同様に「市という制度」と捉えることも可能だろう(ただし,単独で「府制」「県制」と呼ぶ例はあまりないような気がする)。
・「~という制度」という意味での呼称であれば,法律である「市制」「町村制」「郡制」「道府県制」(←1946(昭和21)年に「府県制」から改称)「東京都制」が廃止され効力を失っても成り立ち得るものと思われる。
・現行地方自治法下において,それらの呼称は法律上の根拠を持つものではないかもしれないが,慣習的な呼称としては(自治体自身も含めて)広く行われているものであり,「正当でない」わけでは必ずしもない。
・だから,場合に応じては「市制」「町制」「村制」その他の呼称を用いることもあり得るだろう。
……何だか,書いていてさらによくわからなくなりました。
ただ,話の最初の方の「宿」「駅」「浦」等については,少なくとも近代の地方制度(たとえば「郡区町村編制法」以降)としては“そのような制度”があったわけではなく,末尾がどのような呼称であれ,「村という制度(村制)」や「町という制度(町制)」の中に含まれるものだと考えています。