平塚市や宝塚市等の「塚」の字についての疑問から発した話題、意外に盛り上がっています。
過去記事
これまでに明らかになったことを整理してみます。
漢字の本筋としては、「つちへん」がなく「丶」がある「冢」という字A が“正字”とされていました。
「冢」の“俗字”である「つちへん」のある「塚」という字B が(日本では)普通に使われていました。
平塚市(1932)や宝塚市(1954)が誕生した時代には、当然この字が使われたと思われます。
1981年に常用漢字が制定され、いわゆる康熙字典体の「丶」がある字B に代って、「丶」がない「塚」という字C が採用されました。
常用漢字表の
前書き には、“この表は,固有名詞を対象とするものではない”と記されています。
従って
[65903]にあるように、
自治体がその字体に特別なこだわりを見せない限り,常用漢字表への移行とともに“自動的”に標準字体である「丶のない塚」に統一された
とは考えにくいのですが、“法令,公用文書,新聞,雑誌,放送など,一般の社会生活において,現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安”とされる常用漢字の影響力が、固有名詞にも及ぶ事実は否定できません。
当事者である市民や市役所の使う地名は、旧字体を使用するという格別の信念を持って行動しない限り、次第に常用漢字体C に移ってゆくのが自然のなりゆきです。ましてや、地名は市民や市役所だけのものでなく、全国の人が使うものですから、地元の意向だけで旧字体B を墨守するわけにもゆきません。
常用漢字制度以外に、パソコンの普及による入力手段の影響もあるかもしれません。
常用漢字体C =「丶」がない「塚」は、JIS第一水準に入っており、普通のIMEにより「つか」から容易に変換入力できます。
旧字体B =「丶」がある「塚」は、 JIS第一水準・第二水準には含まれていないものの、IBM拡張文字コード表に含まれており、シフトJISコードFA9Cが付与されているので、多くのパソコンでは入力可能と思われます。しかしIMEによる標準的かな漢字変換でサポートされていなければ、普通の人は使いません。
# この落書き帳では、プレビューしてみたら文字化けして使えないことがわかりました。
かくして、常用漢字制定から28年目の現在、「丶」がない常用漢字体C の地位は圧倒的なものになりました。
市勢要覧
[65935]で「丶」がある旧字体B へのこだわりを示していた宝塚市当局でさえも、戸籍関係証明申請書書式の例
[65930]では、常用漢字体Cを使用することになりました。
結局、固有名詞を対象にしないと逃げた常用漢字表のために、一般の市民・国民の間だけでなく、市当局の内部でさえも、地名の表記が不統一になってしまったという事実が明らかになったわけです。
このような不統一は不都合なことでしょうか?
いやいや、もともと生きものである「地名表記」を「統一」するなど、望むべくして不可能なことである思われます。
「丶」があってもなくても、他の地名と誤認混同するおそれがなければ、よいではありませんか。
「丶」ありの旧字体Bにこだわる人はそれを貫くもよし。但し、ネットでは文字化けしたり、検索対象から脱落するおそれがあるのでご注意を。