大阪書籍の教科書指導書に「都道府県市区町村」のURLが記載されているという情報
[57274]を発端として、著作権という切り口からの反応もありました。
ネット社会の慣行に詳しいわけではありませんが、私の理解するところを記してみます。
慣行と法律、著作権法の「複製」
人々が社会生活を営むためにはルールが必要で、互いに認めた慣行が発生します。
そして、慣行だけでは生じてしまう矛盾や対立の解決や、国の政策を盛り込むために法令が定められます。
例えば、文化の発展のためには、既存の著作物を参照・利用することが必要になりますが、その際に、引用や複製などの手段が用いられることがあります。この場合、文化の発展に寄与した創作者(著作権者)の利益と、市民社会全体の利益とのバランスを図る政策として、著作権制度が定められています。
インターネットの社会は、その歴史が浅いだけに、「慣行」によって処理されている部分が大きいように思われます。もちろん、争いが生じれば、既存の法律、例えば著作権法を「使えるところには使う」ことになります。
著作権の英語「Copyright」という言葉の意味通り、著作権者(創作者)の利益を確保する代表的な仕組みは、「複製権」です。
明治初期の代表的な著作者であった福沢諭吉は、「西洋事情」の中で「Copyright」を「版権」という言葉で紹介し、その必要性を訴えました。
著作権法でいう「複製」とは、
印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること(第2条1項15号)
です。「有形的再製」となっています。メモリーに電子的・磁気的など無形的に(人間の五感に直接働きかけないデジタルコードで)コピーされただけではまだ複製は完成せず、画面上のソフトコピーや紙面上のハードコピーが形成されたり、音楽が再生されたりした時点で複製が行なわれたものとするようにも読めます。
「都道府県市区町村」のURL記載問題
URL自体は、参照すべき著作物がウエブ上に存在する場所を示す記号であり、“思想又は感情を創作的に表現したもの”(著作権法第2条1号)ではありませんから、著作権の対象である「著作物」ではありません。
教科書指導書に記載されたURLやサイト名は、他に列挙されていると思われる参考書籍のタイトルと同列の扱いと推定します。
著作物でない以上、 URLを記載したからといって「著作物の複製」にならないことは明らかです。
では、教科書指導書にURLを記載するような場合につき、社会の慣行はどのようになっているのでしょうか?
[58837] むっくん さん によると、
不法行為でないこと等の確認のために本や雑誌の発行者側でHPの作者側に連絡をとるのが一般的であるようですが
とあります。
連絡をとる慣行はあるが、それは、出版社側の自衛手段であるということでしょうか。でも、 URLを記載しただけで、本当に不法行為になるおそれがあるのかな?
読者として想定している教師に、このHPの存在を知らせることが、
営利目的で、本ホームページが提供している情報を許可なく、無断で直接的あるいは間接的に利用することを禁じます。(トップページの注意事項)
というオーナーの意向に反した行為であるとして、出版社を責めることができるでしょうか?
指導書の出版には営利目的もありますが、HPの提供情報を教師が利用することは営利目的でなく、営利出版物による間接的利用を禁じた注意書き違反とまでは言えないのではないかと思います。
URLの記載だけでなく、もし出版物中にHPが提供した「創作的表現の複製」があれば、もちろん著作権侵害になりますが、そのような事実は示されていません。