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海上における地方公共団体の境界について

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[66057] 2008年 8月 16日(土)15:08:01【1】88 さん
海上における地方公共団体の境界等について
海上の都道府県境を巡る議論は、3年ほど前の話題でした。私も投稿していながら失念していました。
まず、余談からですが、
[46750] LFB さん
青函トンネルの場合は事情が複雑で、・・・(引用者中略)・・・「特定海域」として領海が3海里(通常12海里)に制されているため、真ん中が公海となっています。・・・しかし、固定資産税の課税のため、海底部については昭和63年2月16日の閣議決定で北海道松前郡福島町、青森県東津軽郡三厩村(当時)にそれぞれ編入されたとのことです。
この閣議決定を受けた自治省告示を官報情報検索サービスによりご紹介します。 
○ 自治省告示 第二十三号
青函ずい道に係る未所属地域を市町村の区域に編入する処分
 地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第七条の二第一項の規定により、昭和六十三年三月一日から、青函ずい道のうち北緯四一度二〇分四五秒七七〇八、東経一四〇度一八分三二秒六〇九八の点から真方位五六度四五分四〇秒及び真方位二三六度四五分四〇秒に延ばした線以北の部分を北海道松前郡福島町に、以南の部分を青森県東津軽郡三#村にそれぞれ編入することとされたので、同条第三項の規定により告示する。
 昭和六十三年二月二十四日
自治大臣 梶山 静六
「三#村」の「#」は、「厩」の異体字です。
地方自治法第7条の2は、次のとおりです。
法律で別に定めるものを除く外、従来地方公共団体の区域に属しなかつた地域を都道府県又は市町村の区域に編入する必要があると認めるときは、内閣がこれを定める。(後略)
ウォッちずでこの緯度・経度を確認するとこの地点になり、ここで北海道松前郡福島町と青森県東津軽郡三厩村が接しています(海底ですが)。
――――――――――――――――――――――――――――――
さて、本題です。[66022] グリグリ さん
隣接定義
これに関して、「海と川をめぐる法律問題」(1996年3月30日初版発行、編著:成田頼明・西谷剛、発行:財団法人河中自治振興財団、発売元:良書普及会)と、海上保安庁HP内の管轄海域情報管理~日本の領海~を主たる資料として述べます。
[66032] hmt さん と少し重複しますが、既に原稿を執筆中でしたし、補足する部分も多々あるのでご容赦を。

●海の種類
H8.7.12条約第6号「海洋法に関する国際連合条約」(国連海洋法条約)により、国際法との関係で国際的視野の下で定まるべきものとなっています。
種別説明所有権説明
内水領海の基線の陸地側の水域沿岸国の主権が及ぶ
領海領海の基線からその外側12海里(約22km)の線までの海域沿岸国の主権が及ぶ
接続水域領海の基線からその外側24海里(約44km)の線までの海域(領海を除く)(*1)
排他的経済水域領海の基線からその外側200海里(約370km)の線までの海域(領海を除く)並びにその海底及びその下(*2)
公海その他
(*1)沿岸国が,領土・領海の通関上,財政上,出入国管理上(密輸入や密入国),衛生上(伝染病等)の法令違反の防止及び違反処罰のために必要な規制をすることが認められた水域
(*2)(1)天然資源の開発等に係る主権的権利(2)人工島,設備,構築物の設置及び利用に係る管轄権(3)海洋の科学的調査に係る管轄権(4)海洋環境の保護及び保全に係る管轄権、が認められた水域
上述の海上保安庁HP内の管轄海域情報管理~日本の領海~にこれらの違いが図入りで紹介されています。
「海洋法に関する国際連合条約」については、健論会東京大学東洋文化研究所田中明彦研究室もご参照ください。

主権が及ぶのは、領海まで、つまり、基線から12海里までです。
ただし、「特定海域」(宗谷海峡、津軽海峡、対馬海峡東水道、対馬海峡西水道及び大隅海峡(これらの海域にそれぞれ隣接し、かつ、船舶が通常航行する経路からみてこれらの海域とそれぞれ一体をなすと認められる海域を含む。))は、領海は、12海里ではなく、それぞれ、基線からその外側3海里の線及びこれと接続して引かれる線までの海域です。つまり、これらの箇所では「公海」を挟んでいます。

●領海の所有権・利用権
上記でも少し述べましたが、海は国の所有であるというのが戦前から現在に至るまでの学説・判例の一致した見方です。
海は古来より自然の状態のままで一般公衆の共同利用に供されてきた公共用物であって、国の直接的支配管理に服し、特定人の排他的支配の許されたもの
としています(最高裁昭和61年12月16日判決(民集40巻7号1236頁)。所有権が国に属する「国有」とは言っていませんが、「民法上の所有権の対象でない」ということで、国有の根拠は特に問う必要がない、ということです。

●領海と地方公共団体の区域について
これが今回のポイントになりますので、前述文献をそのまま引用します(p.6~7、体裁は一部引用者が変更)。
○学説・判例の動向について
古くは見解に対立があったが、今日では、学説・判例ともに、地方公共団体の区域には接続海面も含まれるというのが通説と見てよい。(能代簡裁昭和48年4月3日判決(刑裁月報5巻4号545頁―青森・秋田の海面境界にかかる刑事事件)
○領海法による領海の拡大と地方公共団体の区域の変更について
領海法の制定によって、地方公共団体の区域は自動的に拡大したと見るべきで、特別にこれをいずれかの地方公共団体に編入する手続きは要しないと見るべきである。しかし、現実には、まだ区域として明示されていないし、その実益もこれまでにはあまりなかったが、これからはその必要性が生ずるものと思われる。管轄権の問題だけに止めておくのか、地方公共団体の区域にとりこむのかという問題もある。海上は無人地帯なので、居住者がいることを前提とした対人規制はいまのところないが、今後、海上構築物、海底ハウス等に人が居住する可能性がないわけではない。課税権、機関委任されている各種の行政事務の執行権、計画権等の面でその必要性が生じてくるかもしれない。
○地方公共団体による管轄権行使の態様と限界
国法が存在しない場合に、地方公共団体が条例を制定して立法管轄権を行使しうるかどうかという問題がある。海上保安庁が一元的な執行機関としてすべてにあたるのか、地方公共団体が権限行使のための行政体制をもっているのかどうか。現在では、離島でさえ救急業務等はお手上げの状態である。広域連合という形で広域対処する可能性はある。

●海に対する適用法規について
それぞれ区域に指定されている箇所により、海岸法港湾法漁港漁場整備法などの諸法により管理されています。個別法により区域指定されていない箇所は、いわゆる「法定外公共物」であり、国有財産法により、現在では海は都道府県の法定受託事務として管理されています。

●地方自治法第9条の3の「公有水面のみに係る市町村の境界変更」について
地方自治法第9条の3 公有水面のみに係る市町村の境界変更は、第七条第一項の規定にかかわらず、関係市町村の同意を得て都道府県知事が当該都道府県の議会の議決を経てこれを定め、直ちにその旨を総務大臣に届け出なければならない。
「逐条 地方自治法 第4次改訂版」(松本英昭著、平成20年2月25日第4次改訂版3刷、学陽書房)によると、この条文に言う「公有水面」は、次のとおり定義されております。
河、海、湖沼の外、用排水路、池、沢、運河等公共の用に供する水面又は水流で、その地盤が国の所有に属するもの(後略)
また、同書によると、次のような解説があります。ここもポイントになるので、長文ですがそのまま引用します(p.114~115)。
「公有水面のみに係る市町村の境界変更」とは、公有水面のみに係る市町村の境界が古図、判決その他の記録によってすでに明らかである場合は、これを変更することは可能であるとしたものであるが、他に公有水面のみに係る市町村の境界を変更する必要が生ずるのは、当該公有水面の埋立てが行われ、埋立地が二以上の市町村の境界によって分断され、不合理な形で二以上の市町村に分属することとなるような場合である。それは水域において従来の境界がたとえ合理的な根拠を有していても、これを埋め立て、利用することとなるとそこに新しく作られるべき地域社会の一体性の保持、その他行政上社会上の必要に基づいて、また、公有水面である場合とは異なった観点に基づいて、別個の境界が定められるべき場合が少なくないと思われる。このような場合には公有水面である間に、従来の境界を変更することができるものとされたものである。
これは、例えば関西国際空港の埋立てに際し、従来海のときには対岸の本州側の大阪府泉佐野市・泉南郡忠岡町・泉南市の陸上部の境界線をそのまま海上に伸ばした線が「海における3市町の境界」であったものを、その所属のまま埋め立てたのでは、泉北郡忠岡町・泉南市の埋立て部分が泉佐野市で接続している連絡橋を介してしか従前の陸上部の市町域と接続できないことから、埋立て前に本条の規定により、関西国際空港の区域をすべて泉佐野市の所属とした後に埋立てを行うようなことを想定している規定です。実際には、このようなことは起こらず、従前の海の所属どおり(図面化されたものはないが、陸上部の境界をそのまま海岸線に垂直方向に伸ばした線を海上における境界とみなした)、そのまま埋め立てて関西国際空港となり、3市町に属しているのはないでしょうか。もっとも、町名だけは「泉佐野市泉州空港北」「泉南郡田尻町泉州空港中」「泉南市泉州空港南」と、一体化できるよう、調整した模様ですが。(参考地図過去記事集)

なお、上述の地方自治法第9条の3にあるように「都道府県知事が当該都道府県の議会の議決を経てこれを定め」「直ちにその旨を総務大臣に届け出なければならない」ですから、決定するのは都道府県知事です。
陸上部の境界変更は、地方自治法第7条、特に第8項により、「総務大臣の告示によりその効力を生ずる」ですから(拙稿[][54044][55225])、この第9条の3による海上部の境界変更の規定は、陸上部の規定より簡易な方式であると言えます。
―――――――――――――――――――――――――
以上の整理です。
・領海の所有権は、国が所有している。
・領海の外の接続水域・排他的経済水域・公海は、所有権は国は持っていない。
・領海は、領海法(現「領海及び接続水域に関する法律」)の制定により、接続海面も地方公共団体に含まれる。このため、海上部で各地方公共団体同士は「接している」。しかし、現実には、まだ区域として明示されていないため、どの地方公共団体同士が接しているかを確認する手段がない。
・公海を挟む箇所では、公海が領海の外であるため、国の所有ではもちろんなく、地方公共団体の区域にも含まれない。つまり、接していない。津軽海峡のような「特定海域」に関連する箇所でも、公海を挟むため、接していない。
 例えば、「北海道と青森県」「対馬市と壱岐市」「鹿児島県本土と屋久島」「鹿児島県本土と種子島」などの例では、隣接してそうでありながら、その間に「日本でないところ」があるため、隣接していない。
 また、鹿児島県や沖縄県では同一県内でありながら、東京都小笠原村などでは同一村内でありながら国の主権が及ばないところ(排他的経済水域や公海)をはさんでいるため、「飛地」のようになっている。
 北海道と青森県では、冒頭のとおり海底では接しているものの、海上部では接していない。
――――――――――――――――――――――――――――――
参考法令等
海上保安庁HP管轄海域情報の管理~日本の領海~
領海及び接続水域に関する法律(S52.5.2法律第30号)
排他的経済水域及び大陸棚に関する法律H8.6.14法律第74号)
[66064] 2008年 8月 17日(日)03:26:0188 さん
青函トンネルの境界点について
[66061] hmt さん
念のために付言すると、1988年の自治省告示なので、日本測地系による経緯度と理解します。
失礼しました。
海上保安庁海洋情報部の経緯度変換プログラムにより変換すると、
日本測地系世界測地系
北緯41度20分45秒7708北緯41度20分55秒143
東経140度18分32秒610東経140度18分19秒962
ですので、再度ウォッちずでこの緯度・経度を確認するとこの地点になり、青函トンネルと位置が合いました。ここで、北海道松前郡福島町と青森県東津軽郡三厩村が接しています。

#「日本測地系」「世界測地系」について知りたい方は、例えば国土地理院HP内の世界測地系移行の概要をご参照ください。
[66802] 2008年 9月 17日(水)23:21:4088 さん
海上の地方公共団体の境界について 1/2
[66732] hmt さん
今から述べる、さまざまな資料に先に気がついておけば、[66057] の投稿はもっとうまく整理して述べることができたのに、と、私自身悔いております。
[66732] hmt さんの記事の、地方自治法第五条への観点を読んでから、文献を再確認し、また、追加発見しているのですから、私自身調査が不十分・手戻りです。
――――――――――――――――――――――――――――――
■その1
参考文献:「逐条 地方自治法 第4次改訂版」(松本英昭著、平成20年2月25日第4次改訂版3刷、学陽書房)
同書は、当初は長野士郎氏(自治事務次官を経て後の岡山県知事)が興し、歴代の自治事務次官が引き継ぐ形で著者となっており、松本英昭氏も同様です。自治省・総務省が協力したとありますから(監修ではない)、地方自治法の公的解説の決定版といってよいでしょう。

まず、導入部として。地方自治法第1条の3で地方公共団体の種類が述べられていますが、一般に、地方公共団体が成り立つためには、三つの要素がなくてはなりません。
(1)地域的・空間的構想要素(場所的構成要素)一定の地域を画した区域を有すること
(2)人的構成要素その一定の区域内に住所を有するすべての者をもって、その住民すなわち、団体の構成員とすること
(3)法制度的構成要素その地域の範囲内において、その住民によって構成される団体に対して国法に基づいて法人格が与えられ、事務を処理する権能(自治権)が認められること
(2)が規定されているのが第10条(住民の意義及び権利義務)であり、(3)が規定されているのが第2条(地方公共団体の法人格とその事務)でしょう。
ちなみに、(1)(2)のみであれば、国内の一定の地域を単位とする集団は、各国においても、また歴史的にも、数多く見られるところです。

さて、本題に戻って、(1)地域的・空間的構想要素(場所的構成要素)とされているのが、地方公共団体の区域です。
(区域)
第五条 普通地方公共団体の区域は、従来の区域による。
ポイントになりますので、長文ですが、前掲書の同条の解説を引用します(体裁のみ引用者が適宜修正)
「従来の区域」とは、本法施行当時の従前の都道府県及び市町村を、そのまま地方自治法上も都道府県及び市町村として存続させることとされたので、地方公共団体の名称(第3条第1項)と同じく、その区域についても本法施行当時の従来の区域によることとしたという意である。
市町村の区域は、その地域内の河川湖沼の水面はいうまでもなく、その地域に接続する領海及び上空、地下に及ぶと解されている。その限度は自治権の及び得る範囲である(行判昭12.5.20)。
[運用]本条に関しては別に運用の問題はないが、市町村の地先の水域等は、やはりその区域に含まれるものとして取り扱うことが適当である。いずれの市町村の区域であるか判然としないときは本法第9条の2及び第9条の3の規定を活用すべきである。
ちなみに第9条の2は「市町村の境界の決定」、第9条の3[66057] 拙稿でもご紹介した、「公有水面のみに係る市町村の境界の決定等」に関する規定です。

「行判昭12.5.20」を具体的に確認できていないのですが(web上で現在発見できず)、領海法(現在は領海及び接続水域に関する法律)の制定はS52年である一方、判例はS12年ですが当時の「領海」の考え方が不明です。しかし、現在の第五条の区域の考えを何らかの観点から補足説明する判例であろうと推測します。なぜならば、前述の図書は改訂を重ねながらも、この項目は現在も紹介されているわけですから。

■その2
「沿岸域と条例~法律と条例の接合による沿岸域の総合管理」(pdfファイル)
8/74ページ(論文のページではp.5)
これは千葉県庁職員が、千葉大学大学院(社会科学研究科法学専攻)へ研修に行っての論文の一つです(参考:千葉県職員能力開発センター 政策研究『ふさの風』)。
長文ですが、これもよくまとまっているので、引用します。
(4)国と地方公共団体の区域
 国及び地方公共団体の区域に海域は含まれるのか。また、その区域はどこまで及ぶのか。
 国際法上は、領海、接続水域、排他的経済水域、公海といった区別があるが、領海以外の接続水域等は、限定された特別の管轄権を行使できるに過ぎない。よって、国の一般的な管轄が及ぶ範囲は、領海までである。そして国の主権が及ぶことから、「領海は、国内法上、領土の一部として国の立法、司法、行政の三権が当然に及ぶと解してよい」とされており、国の行政権は領海まで及ぶ。
 一方、地方公共団体の区域に海域は含むのであろうか。
 地方自治法5条は「普通地方公共団体の区域は、従来の区域による」と定めており、「従来の区域」が明らかではないのでわかりにくい。ただ、「昭和36年の地方自治法の改正によって、公有水面と埋立地と市町村の区域に新たに生じた土地について、境界変更や所属の確認をなす規定(地方自治法9条の3、9条の4、9条の5)が設けられ、現在では、海域が地方公共団体の区域に属することは、立法的に明白になったと一般的には理解されて」いる。よって地方公共団体の区域に海域は含まれる。
 なおこの規定は、必要に応じて線引きをなしうる制度があることを意味するに止まり、全ての海について具体的に地方公共団体の区域が定められているわけではない(例えば東京湾について、東京都と千葉県との区域境界は決まっていない)。必要に応じて区域を定めればそれで足りるからである。
27/74ページ(論文のページではp.24)に、各参考文献が記載されております。ここで紹介されている文献のうち、来生新「海の管理」雄川一郎ほか編『現代行政法体系9 公務員・公物』に、詳細な解説があると思われます。図書館へ行くまでの時間が不足し、確認できていませんが。
また、同ページで、境界の決定方法として、最も一般的な原則として「等距離線主義」を含む7つの方法がある、と紹介されております。これは、海上に限らず、陸上部の湖沼等での境界についても同様な方法のようです。この7つの方法については、本投稿でもすぐ後に出てきます。
同じく、同ページでは私が[66057] の投稿時に参考とした「海と川をめぐる法律問題」も紹介されています。

■その3
S56.1.10公害等調整委員会公示第1号長崎県知事がした砂利採取認可処分の取消裁定申請事件
海域の砂利採取区域が、「佐賀県の行政区域か長崎県の行政区域か」について、長崎県の主張は、次のとおりです。
本件砂利採取区域は長崎県の行政区域に属する。すなわち,
ア 公有水面上における地方公共団体の境界の定め方には,陸上境界延長主義,垂線主義,見通し線主義,みお・浅瀬・タールヴェーグ主義,平行線主義,中点連結主義及び等距離線主義があるが,これらの中で等距離線主義が最も一般的な原則であるとされている。
イ 長崎県は,佐賀県宛の文書の中で再三にわたり,「本件砂利採取区域は長崎県の行政区域と判断される。」旨述べたのに対し,佐賀県から何ら異議が出されていない。
以上のことから,処分庁は,本件砂利採取区域を長崎県の行政区域と判断し,本件処分をしたものである。
この争点は、この事件の裁定としては決着はしませんでした(他の理由で裁定却下のため)。ですので、この件はあくまで参考です。

次稿に続きます。
[66803] 2008年 9月 17日(水)23:21:40【2】88 さん
海上の地方公共団体の境界について 2/2
[66801]の続きです。

[66732] hmt さんにご指摘をいただきましたが、領海法(現在は領海及び接続水域に関する法律)の制定年との齟齬(同法はS52年に制定、H8年に改正して「接続水域」を追加した)から、「接続水域」の定義としては、そのまま能代簡裁昭和48年4月3日判決に当てはめられるものではないことは、ご指摘のとおりです([66057]を投稿するときにネットではひととおり探したのですが、情報がありませんでした。)。

私自身、この点については判例の「接続海面」と領海及び接続水域に関する法律の「接続水域」を混同して記述していました。失礼しました。
改めて前回資料と今回資料を含めて検討しなおしてみますと、能代簡裁昭和48年4月3日判決は、領海法制定前かつ海洋法に関する国際連合条約批准前ですが、「地方公共団体の区域には接続海面も含まれる」というのは後にいう概ね内水までか、または領海まであたりでしょうか。

―――――
[66732] hmt さん
現在でも地方自治法第5条では“普通地方公共団体の区域は、従来の区域による”となっており、海上に及ぶ可能性については全く触れておりません。
とありますが、「海上に及ぶ可能性については全く触れておりません」であるから「海上に及ばない」ではないと思います。一般的に、法の趣旨として、「書いていない」は、「書いていない」に過ぎず、その域を出るものではありません。それを超えたことは、必要であれば各政省令等を含め他の箇所に書いているか、「判例」によって固まるものであるかと思います。

区域に関しては、「逐条解説地方自治法」では、「その限度は自治権の及び得る範囲である」とありますが、例えば地下は大深度は除く、という趣旨でしょう。地下に埋設する場合、土地の所有権等を取得して行う必要があるのか、大深度でそこまでは必要が無いのか、により「範囲」が固まると思います。

―――――
[66732] hmt さん
なお、漁業法136条は、“漁場が二以上の都道府県知事の管轄に属し、又は漁場の管轄が明確でない”ケースが存在することを示しています。
これは、海上における都道府県知事の管轄権というものが、重複があり得ない「都道府県の区域」とは明確に異なるものである何よりの証拠でしょう。
これは、漁業法第136条では、
(管轄の特例)
第百三十六条 漁場が二以上の都道府県知事の管轄に属し、又は漁場の管轄が明確でないときは、農林水産大臣は、これを管轄する都道府県知事を指定し、又は自ら都道府県知事の権限を行うことができる。
であり、「漁場」は、そもそも一の都道府県や一の市町村の範囲に完結するとは限りません(2県にまたがる漁場もあり得る)。また、漁業権は港湾の中に設定されているほど、陸地に接近したところもあります。
例えば、2県にまたがる1の漁場であれば、本来管轄は2知事の「共管」になるところ、申請者からするとその都度2知事に申請して許可を得るのは不便極まりなく、また、漁場が一体である以上、許可する側もA知事が許可してB知事が不許可にする、ということは不自然で、このため、農林水産大臣がそのうちの一人を指定したりするのではないでしょうか。
都道府県の「区域」の重複云々とは別の話だと思います。

―――――
[66732] hmt さん
更に言えば、都道府県知事は 少なくとも漁業権の設定に関して海上の管轄権を持つようですが、市町村については、そもそもどのような行政事務に関して海上に管轄権があるのでしょうか?
また、確かに、管轄権は自治体の区域とはまったく関係がありません。自治体の区域であっても、その長が管轄権があるとは限りません。漁港漁場整備法や港湾法(他にも諸法あり)の適用範囲であればそれぞれの規定によりそれぞれの管理者が管理しますが、その他のいわゆる普通の海、正確に言うと「一般海域」であれば、都道府県知事が管理しています。
大阪府の条例を参考に述べます(他府県のものよりも、根拠が条例中で明確であったので例とするだけで、他県でも同様の条例があります)。
まず、海(海域)は国有財産である、というのは[66057] 拙稿でも述べたとおりです。

国有財産法(昭和二十三年六月三十日法律第七十三号)
(事務の分掌及び地方公共団体の行う事務)
第九条
3 国有財産に関する事務の一部は、政令で定めるところにより、都道府県又は市町村が行うこととすることができる。
国有財産法施行令(昭和二十三年八月二十日政令第二百四十六号)
(事務の分掌及び地方公共団体の行う事務)
第六条 各省各庁の長は、法第九条第一項 の規定により国有財産に関する事務の一部を部局等の長に分掌させようとするときは、あらかじめ、事由を付し、取り扱わせる事務の範囲及び取り扱わせる者を財務大臣に通知しなければならない。
2  法第九条第三項 の規定により都道府県が行うこととする事務は、次に掲げるものとする。
一  次に掲げる国有財産の取得、維持、保存、運用及び処分。ただし、次項各号に掲げる事務を除く。
カ ニ、ホ及びトからワまでに掲げるもののほか、国土交通大臣の所管に属する国有財産(法令の規定により国土交通大臣が自ら取得、維持、保存、運用及び処分することとされているものを除く。)
「イ」に漁港漁場整備法、「ニ」に港湾法の規定があり、この「カ」は一般海域に関する規定です。
大阪府一般海域管理条例(平成十二年三月三十一日大阪府条例第二十五号)
(趣旨)
第一条 この条例は、国有財産法(昭和二十三年法律第七十三号。以下「法」という。)第九条第三項及び国有財産法施行令(昭和二十三年政令第二百四十六号)第六条第二項第一号カの規定により維持、保存及び運用(以下「管理」という。)を行う一般海域の占用等の許可等に関し必要な事項を定めるものとする。
海域のうち、漁港は漁港漁場整備法第25条により漁港管理者(市町村、都道府県)が、港湾は港湾法第2条第4条第33条により港湾管理者が、一般海域は先ほどの大阪府の例と同様に都道府県知事が管理者です。

―――――――――――――――――――――――――
一つ、観点として大きなポイントを述べておきたいことがあります。
「国土地理院」は、「陸上部」という観点が中心です。海上保安庁は「海上部」という観点が中心です。
例えば、[66064]拙稿でも使用した、日本測地系に基づく経緯度を世界測地系に変換するツール。国土地理院が提供する陸域ツールと、海上保安庁が提供する海域ツールとで、分かれて推奨されています。
陸上部の面積を国土地理院が公表しているように、海上部の面積はもし公表しているのであれば海上保安庁であると考えられます。いろいろとweb上で調べた限りではやはり見つかりませんでした。
宇高連絡船に約10年乗務したという人(航海士とかではない)から、「海図には海上部の県境が載っているのでは?」という示唆をいただき、地図を入手してみたのですが、やはり一般の国土地理院の地形図と同様の記載しかありませんでした。
――――――――――――――――――――――――――――――

これら一連のことから鑑み、結論として次のとおりであると考えます。
・内水及び領海は、各都道府県、各市町村の区域に含まれる。
・具体的には境界を決める必要性がないので、現実には、各地方公共団体で協議して決定した一部の箇所以外は、ほとんど各地とも「境界未定」の状況にあると思われる。
・現実の管理面としては、諸法令により管理権者が管理している。

余談ですが、瀬戸大橋の一部である下津井瀬戸大橋は、岡山県と香川県に架かっていますが、所有者である本州四国連絡橋公団(現在は所有者は独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構)が、橋梁の一般海域の占用許可(香川県一般海域管理条例に基づく)を、香川県に対しては下津井瀬戸大橋の中央部までの申請をし許可があることを、とある資料で確認しました。おそらく、岡山県側にも同様の申請を行っているものと思われます。
[66950] 2008年 10月 7日(火)00:02:2988 さん
海上の地方公共団体の境界について 続編
[66853] [66856] [66863] hmt さん
これまでの対話から、海上に地方自治体の区域はあるか?という問題について、私は「地先の海」と「海洋」とを区別してみたらと考えるようになりました。
私のイメージでは、「地先」とは、[59343] 拙稿で述べたように、地番が付いていない土地等を示す場合に、「○○番地先」と表現するのが本来の使用方法だと感じています。特定の地番でおさまらない広範囲であれば、大字名や小字名を使用して「字△△地先」もあるでしょう。いま「感じています」と書いたのは、「地先」の使用方法を述べた規定を確認できておらず、縁あって不動産関連の表現に種々ふれているうちに得た「経験」に過ぎないからです。
私の感覚では、「地先」は、陸上部の農道・水路の無番地を示す表現から鑑みて、海上に当てはめるとしても感覚的にはそれほど陸地から遠くへは離れないのではないか、と感じてます。
hmtさんは今回、「地先の海」と「(地先の海を除く)海洋」という区分を示されました。また、次のようにも述べられました。
「地先の海」が含まれる水深約200m以下の海(大陸棚)は、固体地球の表面という観点からすれば、本質的には陸地の延長部です。
・・・
「内水及び領海」の範囲は、このような海底地形とは無関係に設定されているので、内水の範囲内でさえ、駿河湾や富山湾のような深い海があります。
地学・地理学・地質学的(強引ですが後に述べる言葉と対比するために「自然科学的」としておきます)に言えば、これらの視点が自明なのかもしれません。
一方、海上における境界は、自治体の境であれ、領海と公海の境であれ、極めて人為的な「社会科学的」な視点です。人間が都合の言いように、便宜上引いた線に過ぎません。

hmtさんの言われるところの「地先の海」が、「内水+領海」と一致すれば、私のイメージと一致しそうです。いずれにせよ、意見の相違はかなり小さいと思われます。

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私が[66803] でご紹介した、瀬戸大橋のうちの下津井瀬戸大橋の一般海域における占用について。 [66863] hmt さんは、
国道30号に指定されている岡山市と高松市とを結ぶ道路のための橋梁ですから、申請海域は、前記政令「チ」の“一般国道の用に供する国有財産”に該当します。・・・要するに、先ず具体的な占有目的(橋梁架設)と場所とが示され、それに応じて海域の管理者がきまるという構図が見えます。
香川県が「坂出市櫃石地先海域」に、岡山県が「倉敷市下津井田之浦一丁目地先海域」について それぞれ占有許可を出した結果として、両県が隣接することになった。
という見解を述べられました。
もし瀬戸大橋が建設省(当時)の直轄国道であったとしても、海域は一般海域としての国有財産ですから、一般海域の管理者である都道府県知事に対して、国道の所有者である建設省が占用許可申請をすることになります。あくまで、一般海域は所有者(大家)は国(運輸省)、管理人は都道府県知事(賃貸契約もできる権限がある)、借家人が国(建設省)という構図です。
実際には下津井瀬戸大橋を含む本四架橋の所有者は当時「本州四国連絡橋公団」であり、現在は「日本高速道路保有・債務返済機構」ですが。
これらから、私は次のような見解を持っています。
 (1)本州(児島)が岡山県(倉敷市)であり、櫃石島が香川県(坂出市)であることから、この間に「内水」でもあることから県境(市境)があることは潜在的に当事者は認識していた。
 (2)しかし、両県・両市が積極的に境界を定める差し迫った必要も無く、いわば海上部は「境界未定」の状況であった。
 (3)本四架橋に伴い、海域の管理区域を明確にして必要な許可手続きをとる必要があった。
 (4)このため、岡山県・倉敷市と香川県・坂出市が協議し、境界を決定した。
 (5)この境界に基づき、本州四国連絡公団が必要な申請手続きをした。香川県側の一般海域については、国有財産法及びこれを受けた香川県一般海域管理条例に基づき、一般海域の占用許可手続きを行った。
(1)~(4)は推測です。(5)は資料確認済みです。(4)については、これが推測どおりであれば瀬戸大橋の架橋記念誌か何かを探せば出てきそうですが、未確認です。
もっとも、本来は国が行なう事務を県が委託されただけなのに、「県の区域」になったと言えるのかという疑問は残ります。
・・・
香川県と岡山県とが隣接した理由が、隣接海域にある国有財産占有許可を両県が出したからということになると、法定受託事務に無関係だった坂出市と倉敷市とは、どのような理由で隣接しているのか?
これらの疑問は、私の見解であれば違和感は無いでしょう。やはり、一般海域に関しては「境界」があってこそ、管理権の境が明らかになると考える方が自然なのではないでしょうか。

(余談ですが、単なる誤記でしょうが「占用」と「占有」は意味が異なりますので念のため。)


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