北海道庁官制の戦前体制は、前報
[71731]のような経過による50年を経て、1947年に施行された日本国憲法・地方自治法の戦後体制に移行します。
ここで国の地方官庁である「北海道庁」から、地方自治体の「北海道」への大転換がありました。
支庁の性格も、本庁の出先機関であるという点では従来通りながら、地方官庁から自治体の機関へと大きく変りました。
新しい法令体系の下、従来北海道の支庁の存在根拠になっていた「北海道庁支庁ノ名称位置及管轄区域ニ関スル件」という明治30年勅令第395号
[71731]は消滅しました。
代って、戦後の支庁の存在根拠になったのは、地方自治法155条第1項でした。
普通地方公共団体の長は、その権限に属する事務を分掌させるため、条例で、必要な地に、都道府県にあつては支庁(中略)及び地方事務所、(中略)を設けることができる。
つまり、戦前のような北海道特有の制度ではなく、東京都の島嶼部や島根県の隠岐に設ける支庁と、いわば「同じ制度の下の支庁」になりました。
“同じ”と言っても、それは地方自治法レベルで“同じ”というだけで、条例レベルでは「都道府県ごとに別の制度」という方が実態には合っているでしょう。
ともかく、この新しい支庁制度は、1947年5月3日から1年以上を経た1948年10月20日から、「北海道支庁設置条例」(昭和23年条例第44号)という形で施行されました。
支庁とは? に全文が掲載されています。
変遷情報 のこの日付には、3町村の支庁変更情報だけが示されていますが、すべての支庁がこの日を境に新制度に移行したことになります。
ここだけ時代が先行しますが、これ以後、現在まで支庁変更の事例はなく、実施が近いとされている支庁再編に伴なう2件
[65633] が61年ぶりの事例になります。
天塩郡幌延町 留萌支庁から宗谷(総合振興局)管内へ
雨竜郡幌加内町 空知支庁から上川(総合振興局)管内へ
1948年に戻ります。
日本国憲法第92条や地方自治法第1条で述べられている「地方自治の本旨」からすれば、条例で設置される新しい支庁の所管区域は、市部・郡部を区別する必要などなくなったはずでした。
市部に対してはある程度の自治を認めながらも、こと郡部に対しては、北海道庁が専制支配することができた戦前体制の道具であった従来の支庁とは違うものなので、これは当然のことです。
ところが、民主主義的な考え方は、そう一朝一夕に身につくものではないのですね。
現実に制定された北海道支庁設置条例の別表に記された所管区域は、従来と同じく「郡部だけ」でした。
この時の「ボタンの掛け違え」が、その後60年以上にわたり、北海道当局には「地域たる支庁」と「条例の支庁」の使い分けを余儀なくさせる結果となり、落書き帳では
北海道の支庁は市を所管しているのか? という話題を生んだのだと思います。
昨年、条例改正の機会に、支庁である総合振興局の管轄区域に市を加えて、この掛け違えを正そうという試みがなされました。
しかし、残念ながらこの改正は実現しませんでした
[71685]。その理由は、公職選挙法にあったようです。
衆議院(小選挙区選出)議員の選挙区を定めた公職選挙法第13条には、“別表第一に掲げる行政区画その他の区域”とあります。その区域とは、府県に関しては原則として市・郡であり、必要に応じて町村などの下位区分が記されています。
「支庁管内」という区域が記されているのは、北海道と東京都だけです。
東京都は島嶼部での郡の代わり?
[71480]であり、北海道は「役に立たない郡」
[71695]を無視した結果と思われます。
ともかく、北海道支庁設置条例を、「北海道総合振興局設置条例」の別表第1(北海道公報掲載
[71685])のように改めると、公職選挙法に影響を与えてしまうということになります。
公職選挙法別表第一を、他の府県並みに市・郡単位の記載に改めれば解決する問題でしょうが、法律改正が間に合わず、今回のボタン掛け直しは実現しませんでした。
明治30年(1897)に生まれ、110年以上も使われてきた北海道の「支庁」。
親方である本庁の変身に伴ない、支庁の性格も変化しましが、現在も「行政機構」のままである点は変りません。
「中間階層として役に立たない郡」に代って広域指標には使われるものの、「府県」のような実体を備えた存在に進化しようもない「支庁」は、「地名もどき」の存在に留まっています。
総合振興局や振興局になった後、この「地名もどき」の使われ方はどのようになるのか?
「支庁」という言葉が表舞台から消えて、従来からも使われてきた「○○管内」に統一されるのでしょうね。
明治時代の用例、堺県管内
[17181]、埼玉縣菅内
[37601]、宮城県管内
[42730]、滋賀県管内
[64158]、岡山県管内
[65091]などには、「県」という1字が入っていましたが、地名もどきとしては長すぎる「○○総合振興局管内」という使い方になることは、まずないでしょう。