[74130] じゃごたろ さん
さてこの「中部横断道」ですが、南北に建設されているのに「縦貫」ではなく「横断」という名称はなぜでしょうか?
視点の違いでしょうね。
太平洋側と日本海側を結び,本州の脊梁山脈を“横切る”のだから,私はごく当たり前に「横断」だと思っていました。むしろ,「縦貫」と呼ぶ方が違和感ありまくり。
「縦貫」と言えば,国鉄(JR)で「日本海縦貫線」という呼称が用いられることがありますね。神戸・大阪を起点に 東海道→湖西・北陸→信越→羽越→奥羽 とつないで青森まで結ぶ運転系統に対する呼称。これがすんなり理解できるのは,列島の長い軸に沿って延びるラインを呼ぶからだと思います。これを「横断」と呼ぶのは,ちょっと変(この方向を「列島横断」と呼んでいる例に遭遇することもままありますが)。
「地図は北が上」が当然なわけでは決してありませんから,南北軸が“縦”であるとは限りません。まずは,この図式から離れることが必要です。
ネギやナマコを見たとき,どちらの方向を「縦」「横」と認識しますか。たぶん,多くの人は“身体の軸に沿った長い方”を「縦」と認識し,それに直交して分断する方を「横」と認識するだろうと思います。
この感覚をそのまま日本列島のように細長い国土に投影すれば,択捉島から北海道→本州→四国→九州→南西諸島 と延びる軸の方を「縦」と認識するのが自然であるように思われます。「日本海縦貫線」という呼称は,まさにこの感覚によるもの。
その視点から見れば,太平洋側と日本海側を結ぶ線はおのずから「横断」ということになるのではなかろうかと思います。
それに対して,たとえば“南北に長い”長野県だけを取り出した場合,今度は北信の栄村から千曲川・犀川をさかのぼり,善知鳥峠を越えて伊那谷を突き抜け南信南端の根羽村へ至るルートの方が「縦貫」で,飛騨高山から安房峠を越えて信州に入り,松本→上田→軽井沢を経て碓氷峠を越えて上州に抜けるルートの方を「横断」と呼ぶ方が感覚的には自然に思われます。
結局のところ,川の左岸・右岸と同様,どこに視点を置くかによって変わってくることであり,地図の“上”を北に固定して考えるものではないように思います。
※追加の補足
「合従連衡」という故事成語があります。
中国の戦国時代末期,戦国七雄と呼ばれた主要国の中で,強大化し他を圧倒している 秦 に対して残り6国がどうすべきかという問いへの答えに由来します。
1つは残り6国が連携して西の秦に対抗しようというもの。秦に対して東に位置する6国が“縦”(従)に手を結ぶので「合従(がっしょう)」。
もう1つは,6国がそれぞれ別個に秦と手を結び,他に対して有利な立場に立とうというもの。西の秦と東の各国がそれぞれ横(衡)に手を結ぶので「連衡」。
で,これを盛んに説いて回った思想家(?)たちが諸子百家のうちの「縦横家」。
実際には6国が南北に並んでいるわけではないけれど,イメージとしては 南北=縦,東西=横 という図の上に成り立つ言葉ですね。
視点によっては,そのような空間認識もある,ということです。