[74152] Issie さん
[74151] hiroroじゃけぇ さん
[74148] みかちゅう さん
hiroroじゃけぇ さんには申し訳ないですが、宇高航路の廃止を聞いても、「相当な衝撃」を受けたわけではありません。ただ、一昨年玉野に行ったときに30分間隔で運行していたのを見て、「宇高フェリーは頑張ってるな」と思っていたので、南海の徳島~和歌山航路より先に廃止するのはちょっと意外、というのが実感です。
徳島県民は、明石大橋の開通以前から宇高航路はほとんど利用せず、本州との連絡には南海フェリーを使うのが通例でした(県西部の池田周辺は別ですが)。私自身も、国鉄時代の宇高航路に数回乗船した程度です。
また、マスコミの反応を見ても、地元の
四国新聞や
山陽新聞では相当な話題になっていますが、高知新聞は「
高知県への影響 限定的」と冷静ですし、徳島新聞や愛媛新聞に至っては、ネット上には記事すらありません。あくまで、香川~岡山間に限定された話題に留まっているようです。
もっとも、問題の構図から影響が宇高航路だけに限定されるとは考えられず、早晩南海フェリーにも同様の事態が生じるでしょうから、関心は強く持っています。
そこで、まず事実を把握するため、宇高航路の利用動向の推移を整理してみました。
| 高松 ~ 宇野 | | | | 徳島 ~ 阪神 | | |
年度 | 航送台数 | 指数 | 輸送人員 | 指数 | 航送台数 | 指数 | 輸送人員 | 指数 |
1987年度 | 1872933 | 100.0 | 3968221 | 100.0 | 463763 | 100.0 | 2399414 | 100.0 |
1989年度 | 1321540 | 70.6 | 2115234 | 53.3 | 457235 | 98.6 | 2274320 | 94.8 |
1993年度 | 1265260 | 67.6 | 1892514 | 47.7 | 407545 | 87.9 | 2243778 | 93.5 |
1998年度 | 1084372 | 57.9 | 1594939 | 40.2 | 208593 | 45.0 | 1140354 | 47.5 |
1999年度 | 1048466 | 56.0 | 1496924 | 37.7 | 179953 | 38.8 | 856919 | 35.7 |
2000年度 | 1049396 | 56.0 | 1507044 | 38.0 | 189316 | 40.8 | 665183 | 27.7 |
2001年度 | 1058140 | 56.5 | 1591385 | 40.1 | 191731 | 41.3 | 661203 | 27.6 |
2002年度 | 1086692 | 58.0 | 1624349 | 40.9 | 193891 | 41.8 | 600566 | 25.0 |
2003年度 | 1023783 | 54.7 | 1490050 | 37.5 | 190548 | 41.1 | 579706 | 24.2 |
2004年度 | 977827 | 52.2 | 1382687 | 34.8 | 185974 | 40.1 | 558142 | 23.3 |
2005年度 | 964259 | 51.5 | 1329778 | 33.5 | 185694 | 40.0 | 567233 | 23.6 |
2006年度 | 952910 | 50.9 | 1312225 | 33.1 | 181538 | 39.1 | 541395 | 22.6 |
2007年度 | 939847 | 50.2 | 1299100 | 32.7 | 181052 | 39.0 | 526570 | 21.9 |
2008年度 | 851313 | 45.5 | 1199655 | 30.2 | 169945 | 36.6 | 497290 | 20.7 |
| | | | | | | | |
2008年度第2四半期 | 239562 | - | 337763 | - | 50259 | - | 150445 | - |
2009年度第2四半期 | 137975 | -42.4 | 227719 | -32.6 | 68625 | 36.5 | 181175 | 20.4 |
表の初年度である1987年度は、瀬戸大橋が開通した1988年4月の前年度です。参考のために徳島阪神航路の推移も示しています(阪神航路といっても、本州側の発着地は和歌山で、徳島側発着地は1999年4月に小松島港から徳島港に移っています。ちなみに明石海峡大橋の開通は1998年4月です)。
(※データは四国運輸局のこの
ページ所載のファイルから抜き出しています。車両の航送台数はトラックと乗用車、バスとの合計値です)
表から明らかなように、宇高航路の利用者は瀬戸大橋の開通に伴って大きく減少しています。ただ、08年度の旅客輸送人員が87年度の30%の水準であるのに対し、車両航送台数は46%に踏み止まっています。両者の差をもたらした主因が、瀬戸大橋の通行料金の高さにあることは言うまでもないでしょう。
徳島阪神航路の場合は航送台数が87年度の37%、旅客輸送に至っては21%という水準ですから、これと比べても宇高航路が健闘していたことは間違いありません。
この記事によれば、88年以降も航路収支は黒字だったそうですから立派なものです。その影には相当な企業努力があったと思います。
問題は高速道路の1000円政策が導入された09年度4月以降です。年度を通しての数字はまだ出ていませんから、最新統計である第2四半期(7~9月)の数値で代用します。
09年度第2四半期における宇高航路の車両航送台数は、前年同期に比べ、実に▲42%も激減しています。旅客輸送人員も▲33%の減少です。おそらく、09年度を通じてこのような数値なのでしょう。
87年から08年までの20年をかけて▲55%の減少であったものが、たった1年で▲40%も減少すれば、普通の私企業が対応できないのは無理もありません。今後も高速道路料金を抑える国の方針に変更がないとすれば、傷が大きくならないうちに事業撤退を選択するのは当然と言えます。
では、明かな総選挙目当ての人気取りであった前内閣の高速料金値下げ政策が悪いのか、それとも現政権のそれが原因か。しかし、非常に高額である瀬戸大橋(のみならず本四架橋全体)の通行料金を値下げしてほしいというのは、四国4県こぞっての願望だったはずです。
先の表からも分るように、宇高航路の航送台数が08年までの水準を維持し得ていたのは高速道路の料金が高かったからで、それを値下げすれば自動車が本四架橋に流れ、フェリー会社の経営を圧迫し、最悪の場合航路廃止に至ることは自明だったはずです。もしも、フェリー会社の経営維持のため、他の高速道路の料金を引き下げても本四架橋だけは従来通り維持する、などという政策が採用されれば、四国各県の行政も住民も黙ってはいないでしょう。
結局、あちらを立てればこちらが立たずです。しかし、きわめて冷徹な言い方をすると、行政と住民が本四架橋の建設を選択した時点でフェリー会社の命運は尽きていたのであり、開通後は地域経済や利用者、そして従業員に与える悪影響を最小限に保ちながら、一定の時間をかけて会社の安楽死を図るのが、Issie さんの仰る「総合的な交通政策」というものではなかったかと思います。本州と四国との連絡を陸上交通化するのが本四架橋の本来的役割であり、それが両者間の海上交通を無用のものにするのは当然ですから。
今回の航路廃止が突然に思えるのは、昨年3月からの唐突な高速料金引き下げ政策が引き金になったからですが、四国の行政や住民が高速料金の引き下げを望んでいるのであれば、フェリー航路の廃止はそれに伴う犠牲として甘受するしかないでしょう。あとは、激変緩和措置として、自治体段階の補助金で廃止期日を若干引き延ばすくらいの対応しかないと思います。
個人的なことを言えば、私は港町の生まれであり、自分では自動車を運転しないので、高速道路が伸びるより海上航路が維持された方がよっぽど良いと思っています。本四架橋に関しても、四国と本州の間に3本の橋を架ける必要などまったくなかったと思います(別に瀬戸大橋だけでも私は構いません。南海を利用すれば良いだけのことです)。しかし、現実に3本の橋をつくってしまった以上、これを活用する方策を見つけるしかないでしょうし、それが本四間の海上交通を圧迫するのは必然です。本四架橋は、四国の行政と住民が強く望んだ結果建設されたものです。その果実を享受するなら、マイナス面も併せて引き受けるしかないと思います。
結果として、徳島阪神航路も早晩廃止されるでしょう、残念ではありますが。