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[80547] 2012年 4月 21日(土)20:16:43hmt さん
よく知らないまま利用していた電子地図 (1)序論
デジタル地図論議を興味深く拝見しております。今回の 電子地図スレッド を読んで 私が改めて関心を寄せたのは、電子地図の投影図法です。

実は、私も Issie さん[80538]
ディスプレイ上の電子地図はまた少し違った投影のしかたをしているような気もするのですが,どうなんでしょうね。
と同程度の認識を抱いていました。

この認識を、もう少し詳しく説明すると、次のようになります。
「紙の地図」では、用紙サイズ・表示すべき地域・事象に応じて適切な「図法」が選択される。
「電子地図」の本質は経緯度で蓄積されたデータだから、これを画面に示して我々の視覚に訴えるようにする手続(ソフトウェア)の中に「図法」が含まれているはずである。

電子地図が便利に使われるのは、多くの場合 狭い範囲の詳細な情報、つまり 紙の地図の世界で言えば「大縮尺図」なので、1枚の画面の中で地球の曲面による歪が問題になる程度は無視できるだろう。
しかし、電子地図はスクロールによって広範囲をカバーしている。一度に表示する画面内では問題にならなくても、シームレスを売り物にしている電子地図で、「図法」が問題にならぬ筈はない。

だいたいこの辺で思考が停止して、それ以上を深く考えることはしていませんでした。

[80540] futsunoおじ さん
真の縮尺が言えない一番の理由は電子地図の図法の多くが円筒図法であることでしょう。これが国土全体をシームレスで、かつ画面の枠に沿って東西南北方向を表示できる図法になりますから。

この記事で「円筒図法」というキーワードが出てきたので、これを「電子地図」と組み合わせて検索してみたら、日本デジタル道路地図協会(DRM)という団体による 地域メッシュコードに関する解説3 に行き当たりました。
ここには なかなか有用な説明があったので、これを紹介しながら、「よく知らないまま利用していた電子地図」に関連したコメントを綴ってみます。
[80548] 2012年 4月 21日(土)20:30:54【1】hmt さん
よく知らないまま利用していた電子地図 (2)円筒図法 つまり 等間隔の経線だが…
測量の基準を現在の「世界測地系」に変更した 測量法改正が施行されたのは 2002年4月1日でした。
満10年を経過したところだったのですね。

地図の規格に関連して「地域メッシュコード」がJIS X0410として定められていますが、これも自動的に世界測地系によるものに移行しました。ところが過去に販売された地図製品のサービスなどのために、日本測地系に準拠したデータの更新が必要なケースがあり、10年間限定の追補規格が設けられましたが、これも先日失効しました。
前回言及したサイトは、実はこの追補規格失効にあたり日本デジタル道路地図協会(DRM)が、そのHP上に公開した 解説 の一部でした。

「地域メッシュコード」は、[78328][78644]などで言及した 『地名集日本2007』 にも使われています。
メッシュ・コードは、行政管理庁告示第143号(1973年7月12日)に基づいた標準地域メッシュ(第一次地域区画)で、20万分1地勢図の区画に相当する。
具体的に説明すると、20万分1地勢図「東京」に相当する区画のメッシュコードは「5339」です。
「53」は赤道から40分刻みで北に数えて【0から数える】53、つまり北緯35度20分~36度を意味します。
「39」は東経100度から1度刻みで東に【0から】数えて39、つまり東経139度から140度の意味です。

このような地域メッシュは、緯度で40分・経度で1度というような一定間隔の経緯度(2次メッシュは緯度5分・経度7.5分で、25000分の1地形図の区画)で区画されているので、北に行くほど東西の実距離は短くなっています。

このことは、地球が丸いことから誰でも理解しているし、多円錐図法などで描かれた紙の日本全図が北の方では経線の間隔が狭まっていることでも実感されます。
では、電子地図はどうなっているのか? その答えが「円筒図法」です。

地軸と一致する中心を持つ円筒に投影して切り開いて平面にする。経線は等間隔の縦線で並ぶ。これが基本。説明図
[80544]にリンクされた Google Mapの最小縮尺の世界図、巨大なグリーンランドと無限の拡がりを持つ南極大陸。
まさにメルカトル図法は円筒図法の代表です。

ところが、Google Mapをこんな広範囲の地図として利用することは、まずありません。
1000km2もある大きな市の全域を示す機会も殆んどないのですが、試みに 札幌市 1121km2と 田辺市 1027km2とを比較してみました(市名で検索すると、その領域がピンクで示されます)。
スケールが違っていたら、例えば左下に出る標尺が「10km/5マイル」を示すように調節してください。

経線が等間隔の円筒図法ならば、2つの市の緯度の違いは地図面積で約 29%になります。実面積の違い 9%との相乗で札幌市の地図は田辺市より4割以上大きな姿で画面に現われる…という予想は、見事に外れました。
地図上の 10km標尺の長さを同じに揃えることはできず、市の面積も違うので概略の比較になりますが、札幌市は田辺市とはほぼ同じ面積の市であることが実感されました。

なぜ、こうなったのか?
それは「1枚の紙」に書いたメルカトル図法と、シームレスにつながっているが、実際に目にする画面はその一部分であるという違いが 巧みに利用されているからだと思われます。

つまり、スクロールによって南北移動する場合には、地球上の位置(緯度)に応じて地域メッシュの横幅(つまり経線間隔)が自動的に調節されるという仕組みをプログラムに組み込み、本来は「等間隔の経線」、従って「正積」という望ましい性質から 大きく外れてしまう 「円筒図法の欠点」を 事実上克服していると思われます。

[80540] futsunoおじ さん
北と南で表示サイズがあまりに異なると感覚的な違和感が生じますから、ソフトウエア上で表示する緯度に連動した縮尺補正機能があってもいいと思います。
が、既に実現しているということではないでしょうか。

DRMの「解説3 地域メッシュコードの特徴」にも、以上のことに対応する記載がありました。
要点だけ引用
------------------
ガイド2 電子国土は、ヨコ(東西)の間隔は一定で、タテ(南北)の間隔が北へ行くほど大きくなる円筒図法という地図投影法が用いられています。(中略)北へ行くほどタテ(南北)の間隔が長くなる円筒図法の特徴が表れています。
ガイド4A グーグル地図は、電子国土と同じく、円筒図法という地図投影法が用いられています。
ただし、(中略)電子国土と違い、右上【左下】に表示されている標尺が、襟裳岬も足摺岬も同じ表示縮尺になっているからです。次のヤフー地図も同様です。
------------------
[80554] 2012年 4月 23日(月)16:49:45hmt さん
よく知らないまま利用していた電子地図 (3)縮尺問題 Mapionの事例で検討
[80533] Issie さん
たとえば「4cmで1km」という“縮尺の概念”が通用しないわけで,地図の上で距離や面積を把握することが非常に困難
[80540] futsunoおじ さん
「ウォッちず」で見ると北の「宗谷岬」は南の「石垣島」より長さで30%大きく表示されており、計算上もこれに近い値になります。

“縮尺変更自由自在”は、地図利用者にとり恩恵大。“縮尺の概念”が薄れるという副作用?には目をつむりましょう。
それにしても、円筒図法そのままの「ウォッちず」では、長さで 30%も大きく表示されるというご指摘。
地図面積にすれば69%です。シベリアほど極端ではないにしても、わが日本も 南アジアから見れば「北の大国」に見える?

円筒図法を用いる電子地図では、縮尺が緯度の影響を受けるが、ソフトウエアによる画面上での補正が可能です。
しかし、[80548]で紹介した Google Mapでの事例は、札幌市と田辺市の地図を「同じ縮尺」で比較することができず、縮尺問題解決に着手していることは評価できるものの、まだ不完全な状態と思われました。

その点、Mapionは 縮尺問題を もっと上手に解決したように見えたので、少し検討してみます。

Mapionで特筆しておきたいのは、画面左下の標尺の長さが、10段階ある縮尺レベルのすべてに共通する長さ【PCの設定で異なりますが、私の画面では約27mm】になっていることです。

標尺の長さが、宗谷岬でも石垣島でも一定に保たれている ということは、Mapionにおいては 緯度に対応する縮尺調節が 完全にできている証拠であるように思われます。
Google Mapの場合は、同じ 10km標尺でも 札幌が 24mm、田辺が 22mmというように違う長さになっていました。

このように 縮尺問題を解決したかに見える Mapionの地図では、例えば「縮尺スケール 1/21000」というように、紙の地図で使い慣れた「縮尺表示」がなされています。
縮尺表示のレベルは、最大縮尺の 「1500分の1」から始まり、およそ3倍刻みで小縮尺の 「90万分の1」まで8段階。
それに加えて 150万分の1相当の「広域」、780万分の1相当の「全国」を加えた10段階です。
「2万1000分の1」は、地形図の「2万5000分の1」に近い縮尺として、紙の地図で把握していた距離・面積の感覚をそのまま活かして使えると言えるでしょう。

ここまではよいのですが、更に検討していたら Mapionの縮尺に 怪しい箇所があることに気がついてしまいました。
上記の “ Mapionは 縮尺問題を もっと上手に解決した” は買いかぶりだったかもしれないので、その事実を記して、皆さんの注意を喚起しておきます。

最初の疑点は、画面の左下に表示されている標尺の長さです。
縮尺にかかわらず標尺長さが統一されているのはよいことなのですが、画面上の長さは過小の疑いがあります。

私のPC画面上の標尺「27mm/700m」は 約25900分の1ですが、700mの 21000分の1ならば 33mmになるはずです。
そこで、「2万1000分の1」地図画面上で、ふじみ野市役所と同大井支所との実長を測ったら 116mm でした。地図
両者の距離は2574m【注】ですから、700mの標尺の長さは 約 31.5mmが正当で、やはり 27mmは過小でした。
【注】
[70290]でも紹介した国土地理院HPの 計算プログラム を使用。入力する経緯度はウオッちずで市役所と支所それぞれの主建物をダブルクリックして求めた。

2574mの距離が 私のPC画面上で その約2万2000分の1の 116mm に表示されたことにより、Mapionが公称する「2万1000分の1」という縮尺は、(この緯度では)ほぼ正しい縮尺であったことが確認されたとも言えます。
[80556] 2012年 4月 25日(水)16:05:45hmt さん
よく知らないまま利用していた電子地図 (4)縮尺に及ぼす緯度の影響
シリーズ電子地図 の第4回です。

仕組みがよくわからないまま便利に利用していた電子地図ですが、皆さんの論議 からの刺激を受けて、調べたり考えたりしたことを綴っています。

わかったのは 東西南北が正しく画面に表される 「正軸円筒図法」 に基づいているということ。
何故か 電子地図の画面には現れていませんが、経線は等間隔の平行直線に、緯線は経線に直交する平行直線になります。

丸い地面を無理やり円筒表面(切り開けば平面)に写すのが地図投影。無理を通せば どこかで 道理が引っ込む 結果になります。つまり、距離・面積・形・方位など地理要素のどこかに「歪み」が出るということです。

正軸円筒図法の場合、等間隔の経線と直交する緯線の間隔の取り方で、いろいろなしわ寄せの仕方ができます。

例えば北緯60度の緯線。その実際の長さは赤道の半分ですが、円筒図法の地図では 赤道と同じ長さに表されます。
経線間隔が2倍に広がっている北緯60度では、緯線の間隔も2倍に広げてしまえば、その地点での方位角や地物の形は正しく表示されます。
もちろん距離は2倍、面積は4倍になってしまいますが、世界の大部分は低緯度・中緯度ですから、高緯度における距離・面積の歪みには我慢しましょう。

メルカトル図法は、こんな考え方で成立しています。もちろん、16世紀以来の「海図」に広く使われたのは、これが角度の正しい図法であり、羅針盤を頼りにする時代の「等角航路」に利用できたためです。

[80538] Issie さんは、メルカトル図法を次のように説明しています。
「地球上に同じ大きさの小さな円がたくさんあると仮定した場合、…地図上でも全ての円がほぼ真円で表される」

“小さな円”だから“ほぼ真円”になるので、北緯約60度から83度以上にも及ぶ 巨大なグリーンランドの 形 ともなると、頭でっかちになってしまう メルカトル図法では正しい形になりません。

緯線間隔を調節すれば、円筒図法で面積を正しく表すもことも可能ですが、高緯度の形が極端に平べったくなってしまうので、普通に目にすることはありません。
地図帳などでよく見るミラー図法は、メルカトル図法に修正を加え 極までをカバーした円筒図法で、北極・南極はメルカトル図法の72度の1.25倍の位置に線で描かれています。

電子地図に戻ると、その真価が発揮される大縮尺図~中縮尺図では、画面内における縮尺の違いは無視できる程度になりますから、「形が正しく」表現されるメルカトル図法が適していることになります。

しかし、もちろん縮尺に及ぼす緯度の影響を無視してよいわけではありません。
[80540] futsunoおじ さん
「ウォッちず」で見ると北の「宗谷岬」は南の「石垣島」より長さで30%大きく表示されており、計算上もこれに近い値になります。
北と南で表示サイズがあまりに異なると感覚的な違和感が生じますから、ソフトウエア上で表示する緯度に連動した縮尺補正機能があってもいいと思います。

これは、まことに電子地図のポイントを突いた発言だと思います。

縮尺は、「地図上の経線間隔:地球上の経線間隔」ですから、円筒図法地図上の経線間隔が一定であるメルカトル地図では、地球上の経線間隔の緯度変化に対応して縮尺が変ります。緯度φにおける経線間隔は赤道のそれの secφ倍(cosφ分の1)になります。

石垣島の緯度約24度20分、φ=0.4247ラジアン、 cosφ=0.9112
宗谷岬の緯度約45度30分、φ=0.7941ラジアン、 cosφ=0.7009

両地点のcosφの比は1.300で、電子国土化されたウオッちずにおいて見られた 30%の違いは、メルカトル地図の影響がそのまま現れているものと理解できます。
[80755] 2012年 5月 3日(木)18:03:33hmt さん
よく知らないまま利用していた電子地図 (5)「紙の地図の電子画像化」から「スクロール電子地図」へ
広い意味での電子地図は、電子化よりも前の時代に作られた「紙の地図」を、そのまま電子画像化 することによって、ネット上での利用を可能にする仕事 から始まったものと思われます。
文書に譬えるならば、電子化と言っても、テキストコード情報ではなく、画像情報として提供された地図です。

このような電子地図の一例を挙げると、[63890]で紹介された 『横浜市三千分一地形図』 があります。

1945年の日本占領に際して米軍が持ち込んだ1万2500分の1都市地図(1946)[58792]、少し後の25万分の1米軍地図(1954)[63024] なども落書き帳の話題になりました。
テキサス大学のサイト では、これらを含めて電子化された過去の日本地図画像を見ることができます。

土地条件図 は、伊勢湾台風(1959)による災害をきっかけに国土地理院で作成が始まり、現在は電子国土の一環として情報が蓄積され、ハザードマップ作成の基礎になっています。
現在の電子国土になる前に「紙の地図」として刊行された『土地条件図』は、在庫品の市販と並行してネットでも公開されています[73207]作成区域
後者も「紙の地図の電子画像化」作品です。

明治初期に作られた地形図の前身である『迅速測図』。これを利用した 関東地方の 「歴史的農業環境閲覧システム」(HABS) が開発され、当時の土地利用状況をネット閲覧することができます。[65091][65097]

これは、紙ベースの『迅速測図』をそのまま電子画像化したものでなく、GIS(地理情報システム)によって位置情報を介して現代の白地図に昔の情報を盛り込んだものです。従って、昔の地図を利用したものではありますが、「紙地図の限界」に制約されない、新しいスクロール地図に変身している点、特筆に値する存在です。

せっかく電子地図のことを語り始めた機会なので、限られた地域を紙の上に表現した昔の地図の電子版について、少し言及しました。

さて、今回のシリーズが対象にしている「Mapion」や「ウオッちず」など、現在利用されている電子地図サービス。
実は、その初期段階がどのようなものであったかについて、私も正確なことは書けないのですが、基本的には「紙の地図の電子画像化」という状態から出発したものであったと思います。
従って、1枚の地図がカバーする範囲には自ずから限りがありました。「ウオッちず」の場合、およそ2万5000分の1地形図を4分割した範囲毎のpngファイルが存在しており、隣接領域に移る時には別ファイルが呼び出されたように記憶します。

日本全土とか、極端な場合は外国までとか 広範囲に及ぶ移動を、スクロールなど「地図の境界」を感じさせないやり方で可能とするシステムが実現したのは、2005年にデビューした Google Mapsであったと思います。

Google Mapsについて言うと、2005年6月当時に地図が整備されていたのは、アメリカ・カナダなど一部の地域だけでした[72524]。地図との切替ができない日本において、この落書き帳で話題になったのは、空中写真画像(衛星画像と呼んでいました)でした。[42658]にリンクした Google Mapsを楽しむ

落書き帳は、翌月(2005年7月)になると 日本国内の地図が使えるようになったことを記録しています。
[43058] ゆう さん
以前は衛星画像だけだった日本国内が、ゼンリンの地図が表示されるようになってます。
これまでの地図サイトとは違う、軽快な図郭の移動が日本の大縮尺地図でもできるようになりました。
それから、地図や衛星画像の左下に縮尺目盛がつきました。

先にリンクした記事集にも、ドラッグ操作やスクロールという言葉が使われていました。
従来のファイル切替方式と違って、継ぎ目を感じさせない軽快な図郭移動で全国・全地球の中から望みの地域を画面に表示することができる「スクロール電子地図」が、この時に登場したものと思われます。

今回の電子地図論議の初期から問題になった「スケール」表示も、この時に登場しています。
しかし、南北方向へのスクロール移動に連動して「物差しが変る」という点については、[80540][80544]より前には 発言がなかったように思われます。

2005年11月の Yahoo!のスクロール地図登場を報じる記事[46695]に示されているように、Google以外の電子地図サービスるも次々に「紙の制約」から脱し、それは同時に空中写真画像その他の情報が利用可能な「GIS体制」に移行したことを示しているようです。

使いづらいよデジタル地図[80531]というように 現実には改善すべき問題点も存在すると思われます。
2011年7月末で終了が予定されていた「2万5千分1地図情報の閲覧」[77607]も、閲覧継続の御要望多数を理由として、「当面の間」のサービスが継続されています。
しかし、電子地図の大きな流れとしては、GIS体制への移行で進んでいるのが現実であることが感じられます。
基盤地図情報サイト  地理空間情報活用推進基本計画


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