徳島市内で吉野川を渡河する県道に、2012年4月に開通した「
阿波しらさぎ大橋」(東環状大橋)という橋があります。この橋は
ケーブルイグレット橋という世界初(現時点で唯一)の構造をもった橋です。
最大の特徴は、桁の部分より上は斜張橋としての性質をもち、それより下は
ケーブルトラスト橋(斜張橋を上下ひっくり返したような見た目の橋。名前のとおり構造的にはトラス橋に近い)としての性質をもつというハイブリッドな構造の橋です。ケーブルイグレット橋の解説に「斜張橋」という言葉が使われていることから、基本的な設計思想としては斜張橋に近いですが、適用範囲としては道路橋における斜張橋とエクストラドーズド橋の中間を狙ったものではないかと思います。鉄道橋だとエクストラドーズド橋の採用例が増えてきていますが、道路橋の場合、長大スパン(支間長)となる橋で何らかの理由で主塔高さを抑えなければならない場合に、エクストラドーズド橋よりも有利なのかも知れません(橋梁工学の専門家でないのでよくわかりませんが……)。
なお、もしこの橋が第四回クイ図五番勝負問一の解答として出てきたら正誤判定がどうなるのか微妙なところですが、設計思想は斜張橋から派生しているので正答扱いでいいのではないでしょうか、というのが個人的意見です。
ところで、新幹線の橋梁で斜張橋が採用されているのは北陸新幹線の
第二千曲川橋梁(上田ハープ橋)しかありません。新幹線鉄道橋の場合、高速走行時の安全性を確保するため軌道の変位量の制限が厳しいのですが、建設当初から走行する列車の荷重によって橋桁がたわむ懸念があったということです(列車の荷重は自動車の荷重よりはるかに大きい)。実際、軌道のメンテナンスは大変なようです(
参考)。そんなわけで、長大スパン化が可能でより桁のたわみを抑えられるエクストラドーズド橋の鉄道橋への設計手法が確立された後は採用されなくなってしまいました。斜張橋の形は美しいので地域のランドマーク的な存在になりますが、鉄道に限ってはオペレーション側にとってのデメリットが多く、おそらく新幹線で今後採用される可能性はきわめて低いと思われます。