[82204]で、明治31年以降の
『日本帝国人口統計』などによる郡市区別現住人口をまとめましたが、明治30年以降のデータでは、府県別の現住人口と郡区別現住人口の合計、東京・京都・大阪市の現住人口と区別現住人口の合計、官報による現住人口と内務省の戸口表による現住人口が一致しないなど様々な問題があるため、まとめるにせよ一筋縄には行きません。
まず統計局のサイトでも国勢調査以前の都道府県別人口を掲載しておりますが、ここで採用されている人口は「乙種」現住人口と呼ばれ、生の統計情報である府県別の「甲種」現住人口に、全国の入・出寄留者の差数を各府県別の入・出寄留者数の比で各県に按分修正して算出するという、統計的補正を加えたものです。しかしながら乙種現住人口も実際の人口との乖離が激しく、さらにあくまでも「府県別人口」レベル以上でしか算出されていないものです。
一方の生データの現住人口に関しても、ある程度全国規模のものが系統立って把握できるものとしては、内務省内閣統計局がまとめた『日本帝国民籍戸口表』記載の「現住人口(甲種)」、内務省警保局が各所の交番を通じてまとめた「警察署調査現住人口」、各府県がまとめた「道府県調査現住人口」、そして官報掲載の「官報による現住人口」、この他、文部省や陸軍省も現住人口をまとめていますが、いまいち時系列情報に欠けるようです。
この内「警察署調査現住人口」がもっとも実際の人口に近いようですが、全国規模で把握できるのは明治41年と大正2年だけで、他の年次については警察署の発行する府県統計書を調べる必要があります。「道府県調査現住人口」は各府県の発行する府県統計書に掲載されているようですが、こちらも各府県の発行する府県統計書を調べる必要があります。
「官報による現住人口」は、官報が市区町村別に公表している現住人口で、本籍人口に対して入出寄留者の人口を加除して求めていますが、逃亡失踪者、陸海軍の兵営艦船に在る者、監獄に在る者、外国行きの者の人口の加除という補正を行っていません。
さて、問題は『日本帝国民籍戸口表』において、例えば『明治三十年十二月三十一日調 日本帝国民籍戸口表』を例にとると、
「郡市別戸口」の現住人口の総計4452万0736人(註:リンク先では4452万0936人と記載されているが、
『国勢調査以前日本人口統計集成』収録の『明治三十年十二月三十一日調 日本帝国民籍戸口表』では、手書きで「九」に「七」という修正が加わっており、府県別現住人口の合計と一致する)と、
「府県別戸口」の現住人口の総計4397万8495人が一致しない点です。一般に明治30年の甲種現住人口として採用されているのは、後者の府県別戸口による現住人口の方ですが、改めて、明治28年~明治30年の府県別または郡市別戸口による本籍人口、本籍人口、府県別戸口による現住人口、郡市別戸口による現住人口をまとめると、
区分 | 明治30年 | 明治29年 | 明治28年 |
本籍人口(府県別・郡市別戸口による) | 43,227,776 | 42,706,979 | 42,269,301 |
本籍人口 | 43,228,863 | 42,708,264 | 42,270,620 |
現住人口(府県別戸口による) | 43,978,495 | 43,499,833 | 43,048,227 |
現住人口(郡区別戸口による) | 44,520,736 | 44,072,233 | 43,618,619 |
脚注(分かり易いように自分判断で句読点や段落を入れてます)によると
現住人ハ府県本籍人ヲ本トシ、之ニ他管ヨリ来往スル者、即チ入寄留者、陸海軍在営艦者、監獄ニアル囚人、懲治人、無籍人ヲ加ヘ、而シテ本籍地ヨリ他ヘ出往スル者、即チ外国行、寄留者、陸海軍入営艦者、囚人、及失踪者ヲ除キ算出セシモノナリ。
総計ニ於テ本籍人ヨリ現住人多キハ、入寄留者ノ現住地ニ入寄留届ヲナシ、本籍地ニ出寄留届ヲ為サザルモノアルト、寄留地ヲ去ルモ地主家主又ハ其地所ヲ管理スル者ヨリ退出届ヲ怠リシモノアルヨリ、一人ヲ両地ニ算入セシニ依ルナラン。
又第三府県別現住人ト本表合計現住人ト符号セザルハ、都市ニ係ル出入寄留届ノ差アルニ依ル。
まず府県別・郡市別戸口による本籍人口と、総計の本籍人口の違いは、無籍在監者の人口を加えるかどうかです。無籍在監者の所在地は明らかにされており、なぜこれを府県別や郡市別戸口による本籍人口に加えないのかは謎ですが・・・
区分 | 明治30年 | 明治29年 | 明治28年 |
本籍人口(府県別・郡市別戸口) | 43,227,776 | 42,706,979 | 42,269,301 |
無籍在監者 | 1,087 | 1,285 | 1,319 |
本籍人口(総計) | 43,228,863 | 42,708,264 | 42,270,620 |
次に府県別戸口での入寄留者の合計は:
区分 | 明治30年 | 明治29年 | 明治28年 |
他府県より入寄留 | 1,993,334 | 1,887,534 | 1,781,536 |
有籍者他府県より在監 | 56,340 | 63,116 | 64,131 |
陸海軍在営者 | 116,980 | 95,597 | 90,759 |
入寄留者合計(府県別戸口) | 2,166,654 | 2,046,247 | 1,936,426 |
次に府県別戸口での出寄留者の合計は:
区分 | 明治30年 | 明治29年 | 明治28年 |
外国行 | 51,733 | 48,363 | 49,762 |
他府県より出寄留 | 911,577 | 762,862 | 659,157 |
有籍者他府県ヘ在監 | 43,737 | 46,247 | 46,108 |
府県より陸海軍へ入営者 | 125,665 | 102,898 | 104,560 |
失踪 | 284,310 | 294,308 | 299,232 |
出寄留者合計(府県別戸口) | 1,417,022 | 1,254,678 | 1,158,819 |
本籍人口(総計)に、入寄留者合計(府県別戸口)を加え、出寄留者合計(府県別戸口)を減じることで、一般に甲種現住人口とされる現住人口(府県別戸口)が求まります。
区分 | 明治30年 | 明治29年 | 明治28年 |
本籍人口(総計) | 43,228,863 | 42,708,264 | 42,270,620 |
入寄留者合計 | 2,166,654 | 2,046,247 | 1,936,426 |
出寄留者合計 | 1,417,022 | 1,254,678 | 1,158,819 |
現住人口(府県別戸口) | 43,978,495 | 43,499,833 | 43,048,227 |
一方、実際の郡市別現住人口の総計と府県別現住人口の間には人口差があるのですが、これは、同一府県内での、異なる郡市間の寄留寄留の人口移動を、わざわざ除いてやっているためです。今明治28年から明治31年までの現住人口の変化を見ると:
明治28年→明治29年 45万1606人の増加
明治29年→明治30年 47万8662人の増加
明治30年→明治31年 142万4546人の増加
と、いきなり明治31年で人口増加率が3倍に跳ね上がっています。
一方明治28年から明治30年までの郡市別現住人口の変化と、明治31年の甲種現住人口(4540万3041人)と明治30年の郡市別現住人口の変化を見ると:
明治28年→明治29年 45万3614人の増加
明治29年→明治30年 44万8503人の増加
明治30年→明治31年 88万2305人の増加
これでも明治31年で人口増加率が2倍に跳ね上がっています。
以上の状況証拠からすると、明治30年までは、(1) 郡市別現住人口の計算に当たり、同一郡内、同一市内の人口移動に伴う出入寄留者の人口を、合計からわざわざ除外する
(2) 府県別現住人口の計算に当たり、同一府県内の人口移動に伴う出入寄留者の人口を、合計からわざわざ除外するというこれらの作業を行っていたが、明治31年以降はこれらの努力を放棄し、ひたすら市町村別人口を単位として足しただけに変わったのだと推測できます。【むしろ明治30年以前は、わざわざ出入寄留の人口を各階層レベル除外するという余計な作業をおこなったため、「府県別人口」レベル以上の出入寄留人口だけが特別扱いで全国の現住人口に考慮されてしまっているともみなせます。】
府県別戸口による現住人口に、郡市間の出入寄留人口を加算すると、
区分 | 明治30年 | 明治29年 | 明治28年 |
現住人口(府県別戸口) | 43,978,495 | 43,499,833 | 43,048,226 |
他郡市区より入寄留 | 1,206,951 | 1,179,615 | 1,147,650 |
他郡市区へ出寄留 | 755,416 | 694,326 | 655,910 |
計算上の現住人口(郡市別戸口) | 44,430,030 | 43,985,122 | 43,539,966 |
現住人口(郡市別戸口) | 44,520,736 | 44,072,233 | 43,618,619 |
なんかまだ郡市別戸口による現住人口との間に差が残っていますが、東京市、京都市、大阪市の三つに関しては、市内に区が設置してあり、市の現住人口(
「現住人口一万人以上市区及町村別戸口」参照)と区の現住人口の総計が一致しておりません。
そこでこの三市の人口を区単位に修正すると:
区分 | 明治30年 | 明治29年 | 明治28年 |
計算上の現住人口(郡市別戸口) | 44,430,030 | 43,985,122 | 43,539,966 |
東京15区と東京市の人口差 | 82,164 | 81,345 | 85,573 |
京都2区と京都市の人口差 | 0 | 1,483 | 0 |
大阪4区と大阪市の人口差 | 8,540 | 5,668 | 6,216 |
計算上の現住人口(郡区別戸口) | 44,520,734 | 44,073,618 | 43,631,755 |
現住人口(郡市別戸口) | 44,520,736 | 44,072,233 | 43,618,619 |
差 | 2 | -1,385 | -13,136 |
明治30年は2人違う・・・が、概ね正しい。一方で明治29年、明治28年はもっと違いが見られる、など、何故か最後まで数字が一致しません。ただ「現住人口一万人以上市区及町村別戸口」記載の市の人口と、「郡市別戸口」記載の市の人口は、本来なら一致するはずなのに、明治30年の例では鹿児島市、札幌区の人口が微妙に異なります。明治29年、明治28年の例でも、人口が異なる例が散発して存在し、ここまで来るとどちらが誤記なのか判断できません。【上の数字が一致しない原因は、京都市の人口にありそうです。京都2区内での人口移動が年によってゼロだったりそうでなかったりするのが不自然です。】
さらに「官報による現住人口」を『日本帝国民籍戸口表』記載の現住人口に計算し直すためには、各市町村別で、【外国行・在監行・軍務行・失踪などの出寄留の統計】が必要ですが、自分が知る限りそのような統計は公表されていないので、現状では「官報による現住人口」から人口を修正する術がありません。【よって明治30年以前の市町村別人口は、一般に都市人口として標準とされている『日本帝国民籍戸口表』の「現住人口一万人以上市区及町村別戸口」の数字に合うように、「官報による現住人口」から再計算し直すことはできません。】
【誤字修正、【】の部分の文章を修正】