はじめて書き込みします(というか、ネット上の掲示板に投稿するのはこれが初めてです)。
少し前に、市町村合併のリンクからこのHPを偶然発見し、「ツボ」にはまってしまい、以来楽しく見させていただいています。私は現在アメリカのマサチューセッツ州在住の者です。
[9903]でZzzさんがアメリカの地方制度について触れられていたので、私の知っている範囲で補足できればと思い書き込みします。
アメリカの地方自治制度は、基本的には、連邦政府の下に、州(State)、郡(County)、市・町(City, Town等:以下まとめて「市」とします。)の三層構造(連邦政府を合わせれば四層)となっています。日本と違って、州が内政に関する広範な権限を持つため、例えば消費税は州によって異なります。マサチューセッツ州の消費税は5%、その北隣のニューハンプシャー州には消費税が存在しません。高速で小1時間もあれば州を越えてしまうので、州境のニューハンプシャー側には、税金が安いことを売り物にしたショッピングモールや酒屋が立ち並ぶ…という状況です。日本では、県境を越えた瞬間消費税が安くなるという制度は考えも付きませんでしたが…。
カウンティは、州の出先機関で、州の授権の範囲内でその職務を行います。都市部では、普段生活していてカウンティを意識することはまず無いと思います。なお、カウンティはいくつかの市を包含しており、例えばボストン及びその近郊都市は、Suffolk Countyに属します。ただ、例外的にCountyに属しないCityがあるようで、その場合、CountyとCityの境界が一致しないかも知れません。
さて、基礎的自治体である「市」ですが、この具体的な権限は州によって異なります。なぜなら、地方自治制度の設計や市の設置そのものが各州政府の判断に委ねられているからです(地方自治権の根拠は連邦憲法ではなく、州憲法)。州が基礎的自治体を設置する際制定する憲章(Charter)によって、市の権限や組織も多様なものとなります。このため、日本のように「市」と「町」の一般的な違いを論ずることはあまり意味がないようです。都市部には一般に市が存在しますが、農村部においては法人格を持つ基礎的自治体は存在しないことも少なくないようです。この場合、法人格を持たないタウンシップ(Township)なるものが存在しますが、地方自治制度としては州・郡の二層となります。(冒頭に「基本的に三層構造」と書いたのはこのためです。)
「市」や「町」といっても、その規模はニューヨークのような数百万規模のものから、数十人のものまで、極めてバラエティに富むものです。このため、行政組織も、市長-議会という形態とは限りません。むしろ、そのような例は少ないといえるでしょう。私の手元に、マサチューセッツ州東部166のCity, Townの行政組織に関するデータがありますが、その範囲では、基礎自治体の行政形態は次の4つに分類することができます。
1.市長(Mayor)-議会(Council)型
2.市支配人(Manager)-議会(Council)型
3.理事会(Representative Town Meeting)型
4.住民総会(Open Town Meeting)型
1.のパターンは、166市のうち、26に過ぎません。その殆どは人口5万人以上の市です。ボストン(人口58.9万人)やその周辺の都市が、ほぼこの類型になります。
2.のパターンは、議会の議員は住民の選挙で選ばれ、政策決定の全権と行政の監督権限を持ちますが、行政全般の運営を行政の専門家として雇った市支配人(Manager)に委ねる仕組みです。それなりの規模(人口3~10万人)の都市にいくつか見られます。ハーバード大学があるCambridge(人口10.1万人)がこの類型に属します。
3.のパターンは、住民に選挙された代表が、理事会で政策決定を行うものです。全住民の総会を開くにはちょっと大きい市・町(人口2万人~5万人程度)にこの例が多いです。
4.のパターンは、住民が直接、総会で重要事項の決定を行うものです。2万人以下の町で多く見られます。(でも、2万人の町で住民総会って…)
初等・中等教育の充実度が自治体によって全く異なるため、結果、税金は高いが、潤沢な予算を背景に良い教育を受けられる市には高所得者が住む傾向があります。また、自動車保険に加入する際にも、その町の治安(車の窃盗、いたずら等の可能性)を勘案して保険料にプレミアムが付きます。契約時に保険屋さんに見せてもらったのですが、郊外にある所謂高級住宅街と、都心のスラム街では、同じ車でも年間1000ドル(=12万円!)の差がありました。極めて合理的ではありますが、もし日本で「あなたは治安の悪い市に住んでいるから自動車保険料が高くなります…」とかやったら、いろいろ問題が生じるでしょうね。
では、今後ともよろしくお願いします。