長文失礼します。ただ以下の情報は、何名かの方には非常に興味深い情報だと思いますので。
[103711]で明治22年の市区町村別人口を見直すと書きましたが、早々に『明治二十二年十二月三十一日調 日本帝国民籍戸口表』収録の「各地方現住一万人以上市区町戸口表」と「各地方郡市戸口表」、
『明治四十一年十二月三十一日 日本帝国人口静態統計』収録の「人口一万人以上ノ市町村現住人口 (自明治十九年末至同四十一年末)記載の甲種現住人口の数字が非常にいい加減な計算の上になりたっていることがわかり、行き詰っています。
見直そうと思ったきっかけは、総務省統計図書館所蔵の戸籍表に町村別の外国行、陸海軍在営艦者、囚人及懲治人、失踪等の統計が存在することを見出したからです。これにより、
[82295]でも触れていた
さらに「官報による現住人口」を『日本帝国民籍戸口表』記載の現住人口に計算し直すためには、各市町村別で、【外国行・在監行・軍務行・失踪などの出寄留の統計】が必要ですが、自分が知る限りそのような統計は公表されていないので、現状では「官報による現住人口」から人口を修正する術がありません。
という問題が解決し、
[68620][68621]のリストを増やすことが可能になるわけです!
しかしながら、いざ計算してみると・・・
1.京都市や神戸市、姫路市、金沢市、その他多くの市、伊豆・小笠原に関してはデータを欠いています。なお『明治二十二年十二月三十一日調 日本帝国民籍戸口表』の「各地方現住一万人以上市区町戸口表」と「各地方郡市戸口表」とで、姫路市(27,055, 25,487)・金沢市(94,257, 95,812)の人口が異なる点が以前より気になってきましたが、両者の差は入寄留側の陸海軍在営艦者(兵庫県: 1,568; 石川県: 1,555)と一致することに改めて気付きました。しかしながら現住人口自体は、姫路市に関しては「各地方現住一万人以上市区町戸口表」の方が1568人多く、金沢市に関しては「各地方郡市戸口表」の方が1555人多い?この段階でなんかいい加減な処理をしている疑惑が出てきました。
2.明治22年に関しては入寄留側の陸海軍在営艦者の統計が記載されていません(明治23年に関しては駐屯地毎の陸海軍の統計が存在する)。ただ府県別データは『日本帝国民籍戸口表』「各地方人口出入表」に掲載されていますので、郡市別データと監獄の統計からの加除により、ある程度は推測できます。
3.町村の現住人口を計算するにあたり、他町村出入寄留の処理がいい加減!
とりあえず1万人以上の人口を有する東京府・京都府・大阪府・神奈川県の町村で検証しました。[入]無籍在監人、[入]有籍囚人及懲治人は『日本帝国民籍戸口表』「各地方在監有籍者及無籍者人口表」により、[入]陸海軍在営艦者は「各地方人口出入表」等からの推定値です。
その結果官報記載の現住人口は以下の計算式で計算していることがわかりました。
官報記載の現住人口=本籍人口-[出]外国行-[出]他府県出寄留-[出]他郡区出寄留-[出]他町村出寄留-[出]失踪+[入]他府県入寄留+[入]他郡区入寄留+[入]他町村入寄留+[入]無籍在監人
また明治23年以降の日本帝国民籍戸口表記載の現住人口は以下の計算式で計算していることがわかりました。
民籍戸口表記載の現住人口=本籍人口-[出]外国行-[出]他府県出寄留-[出]他郡区出寄留-[出]他町村出寄留-[出]囚人及懲治人-[出]囚人及懲治人-[出]失踪+[入]他府県入寄留+[入]他郡区入寄留+[入]他町村入寄留+[入]無籍在監人+[入]有籍囚人及懲治人+[入]陸海軍在営艦者
【外国行・失踪・無籍在監人】のデータは官報記載の現住人口に織り込み済みであることが判明し、あとは出ていく側の【有籍の囚人及懲治人と陸海軍在営艦者の人口】を減じ、これに各監獄の有籍囚人及懲治人と駐屯地等の陸海軍在営艦者を加えれば、現住人口が求まることになります。しかしながら実際に計算してみると、明治22年に関しては民籍戸口表記載の現】住人口の計算方法がいい加減で、とりあえず半数ぐらいは以下のように他町村出入寄留が計算から除外されているケースが混ざっていることがわかりました。
民籍戸口表記載の現住人口=本籍人口-[出]外国行-[出]他府県出寄留-[出]他郡区出寄留-[出]囚人及懲治人-[出]囚人及懲治人-[出]失踪+[入]他府県入寄留+[入]他郡区入寄留+[入]無籍在監人+[入]有籍囚人及懲治人+[入]陸海軍在営艦者
A. 他町村出入寄留の加除が行われているケース
町村 | 千住町 | 難波村 | 曽根崎村 | 浦賀町 | 小田原町 |
本籍人口 | 11,584 | 23,741 | 10,557 | 13,016 | 15,148 |
[出]外国行 | 0 | 2 | 0 | 2 | 10 |
[出]他府県出寄留 | 171 | 1,179 | 170 | 163 | 876 |
[出]他郡区出寄留 | 738 | 1,292 | 197 | 640 | 538 |
[出]他町村出寄留 | 57 | 156 | 33 | 441 | 81 |
[出]陸海軍在営艦者 | 3 | 20 | 8 | 65 | 20 |
[出]囚人及懲治人 | 9 | 64 | 22 | 12 | 7 |
[出]失踪 | 113 | 1,259 | 142 | 46 | 170 |
[入]他府県入寄留 | 1,966 | 3,958 | 872 | 959 | 196 |
[入]他郡区入寄留 | 1,509 | 1,579 | 231 | 542 | 150 |
[入]他町村入寄留 | 42 | 311 | 73 | 321 | 37 |
[入]無籍在監人 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
[入]有籍囚人及懲治人 | 0 | 0 | 0 | 0 | 16 |
[入]陸海軍在営艦者 | 0 | 0 | 0 | 156 | 0 |
官報記載の現住人口 | 14,022 | 25,701 | 11,191 | 13,546 | 13,856 |
日本帝国民籍戸口表記載の現住人口 | 14,010 | 25,617 | 11,161 | 13,625 | 13,845 |
B. 他町村出入寄留の加除が行われていないケース
町村 | 品川町 | 伏見町 | 東平野町 | 天王寺村 |
本籍人口 | 12,586 | 16,349 | 10,186 | 13,529 |
[出]外国行 | 3 | 1 | 8 | 0 |
[出]他府県出寄留 | 323 | 253 | 129 | 91 |
[出]他郡区出寄留 | 297 | 343 | 228 | 202 |
[出]他町村出寄留 | 44 | 39 | 38 | 83 |
[出]陸海軍在営艦者 | 46 | 12 | 12 | 13 |
[出]囚人及懲治人 | 9 | 14 | 20 | 68 |
[出]失踪 | 212 | 202 | 350 | 989 |
[入]他府県入寄留 | 4,048 | 757 | 1,614 | 1,441 |
[入]他郡区入寄留 | 1,364 | 885 | 1,049 | 1,092 |
[入]他町村入寄留 | 102 | 44 | 175 | 57 |
[入]無籍在監人 | 0 | 0 | 0 | 0 |
[入]有籍囚人及懲治人 | 0 | 0 | 0 | 0 |
[入]陸海軍在営艦者 | 0 | 337 | 0 | 0 |
官報記載の現住人口 | 17,221 | 17,197 | 12,281 | 14,754 |
日本帝国民籍戸口表記載の現住人口 | 17,108 | 17,503 | 12,102 | 14,699 |
同じ府県でもこんな具合に異なる現住人口の計算方法が混在しています・・・
C. 他町村出入寄留の加除が行われているが、元となる本籍人口から異なるケース
町村 | 横須賀町 | 戸太村 |
本籍人口(日本帝国民籍戸口表) | 17,086 | 10,323 |
本籍人口(戸籍表) | 9,806 | 6,156 |
[出]外国行 | 8 | 5 |
[出]他府県出寄留 | 142 | 102 |
[出]他郡区出寄留 | 56 | 232 |
[出]他町村出寄留 | 437 | 37 |
[出]陸海軍在営艦者 | 77 | 4 |
[出]囚人及懲治人 | 8 | 1 |
[出]失踪 | 140 | 89 |
[入]他府県入寄留 | 7,118 | 3,108 |
[入]他郡区入寄留 | 515 | 1,492 |
[入]他町村入寄留 | 515 | 37 |
[入]無籍在監人 | 0 | 11 |
[入]有籍囚人及懲治人 | 0 | 752 |
[入]陸海軍在営艦者 | 0 | 0 |
官報記載の現住人口 | 17,171 | 10,339 |
日本帝国民籍戸口表記載の現住人口 | 24,366 | 15,253 |
官報による現住人口は戸籍表の本籍人口からの計算と一致します。『日本帝国民籍戸口表』「各地方現住一万人以上市区町戸口表」記載の現住人口は、『日本帝国民籍戸口表』「各地方現住一万人以上市区町戸口表」記載の本籍人口から戸籍表の出入寄留の加除を行うことで一応同じ数字が求まりますが・・・翌年の現住人口と比較する限り、「各地方現住一万人以上市区町戸口表」の本籍人口・現住人口の方がおかしい。
なお横須賀監獄は横須賀町ではなくて豊島村に存在することを確認しています(明治22年と明治23年のデータで検証済み)。逆に横浜監獄は横浜市ではなくて戸太村にありました。明治23年には横須賀町に3,494人の海軍関係者がいますが、明治22年は陸海軍併せて神奈川県内156人、すべて三浦郡内で、浦賀町の156人で計算が合いますので、明治22年の横須賀町内の[入]陸海軍在営艦者は0人と推測しました。
D. なんか知らないが数字が一致しない・・・
町村 | 神奈川町 | 八王子町 |
本籍人口 | 13,503 | 13,998 |
[出]外国行 | 5 | 1 |
[出]他府県出寄留 | 403 | 160 |
[出]他郡区出寄留 | 1,029 | 96 |
[出]他町村出寄留 | 152 | 606 |
[出]陸海軍在営艦者 | 13 | 1 |
[出]囚人及懲治人 | 10 | 4 |
[出]失踪 | 203 | 62 |
[入]他府県入寄留 | 2,622 | 3,121 |
[入]他郡区入寄留 | 1,331 | 4,283 |
[入]他町村入寄留 | 218 | 1,243 |
[入]無籍在監人 | 0 | 2 |
[入]有籍囚人及懲治人 | 0 | 38 |
[入]陸海軍在営艦者 | 0 | 0 |
官報記載の現住人口 | 15,882 | 21,721 |
日本帝国民籍戸口表記載の現住人口 | 15,382 | 21,555 |
八王子町に関しては、官報掲載の現住人口が1人(計算値は21,722人)ずれており、また現住人口が計算値(21,755)と200人ずれていますが、これらは印刷ミスがそのまま残ってしまったのではないかと推測します。神奈川町に関しては官報記載の現住人口は無問題ですが、『日本帝国民籍戸口表』記載の現住人口と計算値(15,859)ではそれなりに大きなずれが生じており、その原因は不明です。監獄や駐屯地があれば、むしろ現住人口は官報掲載の現住人口よりも増えるはずなのに減ってますので、監獄や駐屯地の見落としではありません。
このほか・・・『明治四十一年十二月三十一日 日本帝国人口静態統計』「人口一万人以上ノ市町村現住人口 (自明治十九年末至同四十一年末)に示された北海道の人口の内、江差に関しては、他町村出入寄留の計算を除外したほか、江差分署の有籍囚人及懲治人7人を計算に入れていないが、福山では他町村出入寄留のみならず、ちゃんと福山分署の有籍囚人及懲治人6人を計算に入れている。函館区はちゃんと監獄、駐屯地の人口が加味されている。
というわけで、明治22年の統計は市制施行後の最初の人口統計として非常に重要なのですが、世間で知られている肝心の明治22年の現住人口の計算がいい加減という問題が様々見つかりました。数字自体はむしろ官報掲載の現住人口の方が計算方法が安定していてそれなりに信頼できます。すでに明治22年の現住人口は集計結果がいろいろ引用されており、今更現住人口の計算が結構間違っていたと指摘しても仕方ないし、正直計算し直す気力がなくなりつつあります。現状ではデータがよりしっかり残っていて、徴発物件一覧表に大字別人口まで残っている明治23年(1890年)ベースの方からまとめることになるかも知れません。
【】の部分の言い回しを微修正(有籍の囚人及懲治人の出入寄留は官報掲載の現住人口では無視)