何かとトラブルの多いセンター試験でも,今回最大のトラブル源となった「地歴・公民科」。何しろあまりに複雑な実施方法,1回聞いただけではわかりません。
今のセンター試験は色々な要求に対応しようと増設を繰り返した温泉旅館のようで,複雑怪奇。一度きちんと整理した方がいいと思うのですけどね。
で,「地理B」の問題。一応,お仕事の関係もあるので解いてみたのですが,個々の問題は極めてオーソドックスで,ごく基本的。それぞれの分野について一通りの知識と,それを応用する力があれば行けるかな。ただし出題範囲が余りに膨大で(要するに,これが地理Bで扱う範囲の広大さということです),たとえば高校3年生になってからの1年足らずで全部をカバーしようとするのは難しいかもしれませんね。
私立の個別入試や国公立の2次試験はともかく,センター試験は学習指導要領のしばりが強く,要するにこれが文科省が高校に求めている「地理B」の内容です。もはや,をぢさんたちが30年以上前に教わった“国別の産物地理”ではないのですね。「世界地誌」という別名がついていた30年前の「地理B」とは全く別の科目です。さらに同じ現行の学習指導要領の中でも「地理B」と「地理A」は,かなり違う科目です。センター試験では一部に共通問題があって,あまり違いがわかりませんけどね。
[80160] k-ace さん
地理B第6問
この大問の問3,大井川上流の山村集落と牧之原台地の農業の特徴を問う問題。写真と説明文を読めばすぐに正解できそうな問題ですが,山村集落の方の(と思われる)説明文を読んで「おやっ?」と思いました。
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近世には焼畑と組み合わせた労働集約的な茶栽培が営まれ……
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別に次のような点に突っ込まなくても正解できてしまうので受験生たちはスルーしてしまうでしょうが,「焼畑」と「労働集約的」という言葉の組み合わせには少し違和感を感じたのでした。
普通,地理の教科書で出てくる「焼畑」は,主に熱帯雨林気候の地域で伝統的に行われてきた「粗放的」(で,いくぶん原始的)な農業として登場するからです。それ以前に今の受験生には,温帯の先進国である日本と「焼畑」とが結びつかないかも知れない。実際は,ほんの数十年前まで東北以南の山村の多くで焼畑をやっていたのですが。
「労働集約的」というのは焼畑よりも「茶栽培」の方にかかるのだろうと思うのですが,焼畑を維持するには雑草取りなどに結構手間がかかり,そういう意味では「労働集約的」かもしれない。
…この問題を見てそんなことを考えました。
というのは,たまたまその直前に 佐々木高明 という人の『稲作以前』という本を読んでいたから。初版が1971年という,その意味では「古典」と言えそうな本ですが,それを洋泉社が一部改訂の上,昨年末に新書(“歴史新書y”)に復刻しました。この人は元々,人文系の地理を専門としていて,40年以上前の日本の山村をフィールドとして研究するうちに,弥生時代の稲作受容以前,縄文時代末期に主に西南日本で焼畑による雑穀(とイモ)栽培を中心とする農耕が稲作に先行して行われていたのではないか,ということを文化人類学(←広い意味で地理学の一部,あるいは隣接学問ですね)の立場と方法で検証したものです。
この学説には発表当初から,主に文化人類学とは違った視点と方法でアプローチをする考古学者を中心に強い批判があり,今でもそのような意見はあるようです。私にはこの学説やそれに対する批判の当否は判断できないのですが,とても面白く読みました。
いや,この本の本題とは別に,ときどき出てくるいくつかのキーワード(「焼畑」という意味の「コバ」(九州)・「サシ」(関東)とか,収穫作業に関連する「穂刈」など)から現実に存在する諸々の地名が思い浮かんできて,そういう意味でも面白かったのでした。
ま,センター試験からは離れちゃいましたが,これが今年のセンター試験問題に関する感想です。