今回の十番勝負「問八」の共通項は、「市内にある駅のすべてに市名を含む」という市でした。今回は、以前に「温泉駅」(第48回・問五)の時と同様、「市内の全駅に市名が含まれる」ようになった市と、その理由について、考察してみようと思います。
この表において、市の並びは、便宜上「お題」→「正答が出た」順とし、未解答で残った市は末尾に並べておくことにしました。
番号 | 市名 | 駅名・路線名 | 該当した日 | 理由 | 備考 |
1 | 塩竈 | 塩釜(東北本線)、西塩釜・本塩釜・東塩釜(仙石線) | 1941.11.23 | 市誕生 | 詳細は[72847]参照(注) |
2 | 牛久 | 牛久・ひたち野うしく(常磐線) | 1986.6.1 | 市誕生 |
3 | 幸手 | 幸手(東武日光線) | 1986.10.1 | 市誕生 |
4 | 山梨 | 山梨市・東山梨(中央本線) | 1962.1.15 | 「日下部」駅が現駅名「山梨市」に改称 | 市誕生は1954.7.1(注) |
5 | 尾道 | 尾道・東尾道(山陽本線)、新尾道(山陽新幹線) | 1964.8.1 | 尾道鉄道全線廃止 |
6 | 平塚 | 平塚(東海道本線) | 1932.4.1 | 市誕生 |
7 | 諏訪 | 上諏訪(中央本線) | 1941.8.10 | 市誕生 |
8 | 草津 | 草津・南草津(東海道本線) | 1954.10.15 | 市誕生 |
9 | 加茂 | 加茂(信越本線) | 1985.4.1 | 蒲原鉄道加茂~村松間廃止 | 全線廃止は1999.10.4。保存車両 |
10 | 荒尾 | 荒尾・南荒尾(鹿児島本線) | 1973.8.1 | 三井三池鉄道が一般旅客運輸廃止? | その後は専用鉄道化(注) |
11 | 土岐 | 土岐市(中央本線) | 1974.10.21 | 東濃鉄道駄知線廃止 | 1972.7.13より災害で長期運休、そのまま廃線 |
12 | 守山 | 守山(東海道本線) | 1970.7.1 | 市誕生 |
13 | 三沢 | 三沢(青い森鉄道[旧東北本線]) | 1958.9.1 | 市誕生 | 廃線となった十和田観光電鉄にはほかに市内の駅はなかった |
14 | 吉川 | 吉川・吉川美南(武蔵野線) | 1996.4.1 | 市誕生 |
15 | 戸田 | 戸田公園・戸田・北戸田(埼京線) | 1985.9.30 | 埼京線開業 |
16 | 笠岡 | 笠岡(山陽本線) | 1971.4.1 | 井笠鉄道全線廃止 | [80938] |
17 | 朝霞 | 朝霞・朝霞台(東武東上線)、北朝霞(武蔵野線) | 1967.3.15 | 市誕生 |
18 | 野洲 | 野洲(東海道本線) | 2004.10.1 | 市誕生 |
19 | 小金井 | 武蔵小金井・東小金井(中央本線)、新小金井(西武多摩川線) | 1958.10.1 | 市誕生 |
20 | 焼津 | 焼津・西焼津(東海道本線) | 1951.3.1 | 市誕生 |
21 | 白井 | 白井・西白井(北総鉄道) | 2001.4.1 | 市誕生 |
22 | 東久留米 | 東久留米(西武池袋線) | 1970.10.1 | 市誕生 |
23 | 菊川 | 菊川(東海道本線) | 2005.1.17 | 市誕生 |
24 | 高萩 | 高萩(常磐線) | 1954.11.23 | 市誕生 |
25 | 相生 | 相生(山陽本線)、西相生(赤穂線) | 1942.10.1 | 市誕生 | 同日に「那波」駅が現駅名「相生」に改称 |
26 | 蕨 | 蕨(東北本線[京浜東北線]) | 1959.4.1 | 市誕生 |
27 | 小林 | 小林・西小林(吉都線) | 1950.4.1 | 市誕生 |
28 | 清瀬 | 清瀬(西武池袋線) | 1970.10.1 | 市誕生 | 秋津駅が一部が清瀬市にかかっている(所沢市にも)が、住所は東村山市([68306]桜トンネルさん) |
29 | 八潮 | 八潮(つくばEXP) | 2005.8.24 | つくばEXP開業 |
30 | 和光 | 和光市(東武東上線・東京メトロ有楽町線) | 1970.12.20 | 「大和町」駅が現駅名「和光市」に改称 | 市誕生は1970.10.31 |
31 | 向日 | 向日町(東海道本線)、東向日・西向日(阪急京都線) | 1972.10.1 | 市誕生 | 向日町駅は京都市にもまたがっているが、住所は向日市(注) |
32 | 三郷 | 三郷・新三郷(武蔵野線)、三郷中央(つくばEXP) | 1973.4.1 | 武蔵野線三郷駅開業 | 市誕生は1972.5.3 |
33 | 北広島 | 北広島(千歳線) | 1996.9.1 | 市誕生 |
34 | 岩沼 | 岩沼(東北本線) | 1971.11.1 | 市誕生 |
35 | 古河 | 古河(東北本線) | 1950.8.1 | 市誕生 | 新古河駅(東武日光線)は埼玉県加須市 |
36 | 守谷 | 守谷・南守谷・新守谷(関東鉄道常総線) | 2002.2.2 | 市誕生 | 守谷駅はつくばEXPも共用 |
37 | 藤岡 | 群馬藤岡・北藤岡(八高線) | 1954.4.1 | 市誕生 |
38 | 桶川 | 桶川(高崎線) | 1970.11.3 | 市誕生 |
39 | 北本 | 北本(高崎線) | 1971.11.3 | 市誕生 |
40 | 蓮田 | 蓮田(東北本線) | 1972.10.1 | 市誕生 | (注) |
41 | 白岡 | 白岡・新白岡(東北本線) | 2012.10.1 | 市誕生 |
42 | 伊勢原 | 伊勢原(小田急小田原線) | 1971.3.1 | 市誕生 | 大山ケーブルの2駅は除外(第21回・問七と同じ…注)。愛甲石田駅が伊勢原市にまたがっているが、住所は厚木市 |
43 | 見附 | 見附(信越本線) | 1975.4.1 | 越後交通栃尾線全線廃止 | 上見附~栃尾間は1973.4.16廃止。上見附駅風景 |
44 | 能美 | 能美根上(北陸本線) | 2015.3.14 | 「寺井」駅が現駅名「能美根上」に改称 | 北陸の駅より |
45 | 藤枝 | 藤枝(東海道本線) | 1970.8.1 | 静鉄駿遠線全線廃止 | HP |
46 | 倉吉 | 倉吉(山陰本線) | 1985.4.1 | 旧国鉄倉吉線廃止 |
47 | 多久 | 多久・中多久・東多久(唐津線) | 1954.5.1 | 市誕生 |
48 | 神埼 | 神埼(長崎本線) | 2006.3.20 | 市誕生 |
…この想定解に当てはまる各市を眺めていると、その大部分は「市(市名)の誕生によって該当することになった」市(その大半は前身の同名の町がそのまま市に「昇格」したもの)と、「市域を通っていた私鉄などの路線が廃線となったことにより、市名の付く駅だけが残った」という市にほぼ綺麗に分かれる形となりました。
駅名改称がその理由と見られる市は、実質的には山梨市と能美市の2市ですが、山梨市の場合は事情が複雑で、市の誕生((1954.7.1)時には市域にあった駅は「日下部」(現・山梨市)駅のみで、その3年後、1957.2.5に「東山梨」駅が市域にできていますが(
こちら)、「日下部」駅はまだそのままで、市名の付く駅は「東山梨」駅のみでした。「日下部」駅が市名と同じ現在の駅名「山梨市」に改称されたのは、更にその5年後であり、この間は市名と同じ駅がなくて「東」駅だけがある、という状態が続いていたのでした。
お題に出ていた塩竈市と牛久市は、市名と異なる表記も認める、ということで、言わば「曖昧領域」ということでしょう。塩竈市内の駅と駅名の変遷は、
[72847]で述べているのでここでは詳細は割愛しますが、「塩釜」駅と「〇塩竈」駅が併存していた時期もあったことは興味深い事実だったのでした。
市域を通っていた路線が廃線となったため、結果的に市名の付く駅だけが残った例が多かったのは予想以上でした。中でも見附・藤枝・笠岡の各市は、市域を通り市内に複数の駅もあった「軽便」路線が廃線となった結果、市名と同名の駅が市内唯一の駅として残った、という共通点があるのが興味深いところです。「市内に1駅だけ」というと、かつて十番勝負で「『市内で駅が1社1駅だけ』という共通項を持つ市」が出たことがありましたが(第21回・問七)、このときの該当市に、今回の問八でも該当している市はかなりの比率があります。「市内に1駅だけ」という市の中で最古参なのは、平塚市。1932(昭和7)年の市誕生以来、合併を繰り返し市域も大きく広がった中にあって、ほかに新たな路線も駅も開業がなく、平成を経て令和の今日まで実に88年もの間、市内唯一の駅として「孤高」の地位を守り続けています。同様に戦前に市が誕生し、現在まで市内唯一の駅として続いている駅には、諏訪市の上諏訪駅もあります。
特殊な経緯をたどったのは、荒尾市。隣県の大牟田市とにまたがっている三井三池炭鉱とその関連施設・工場への従業員と貨物輸送を担っていた「三池鉄道」は、既に明治時代から運行されていましたが、戦後の一時期、1964(昭和39)年8月11日から73年まで、「地方鉄道法」により地方鉄道として運行されていた時期があり、荒尾市内にも旅客駅がありました。「地方鉄道」である以上、この時期には「部外者」である一般乗客の乗車も所定の運賃を払えば可能であったのではないかと思われますが、この期間中にも市販の「交通公社」などの時刻表にも載っていなかったような記憶があり、この時期でも実質的には事前に許可を取らないと旅客列車に乗車できなかったのかもしれません。もっとも、この三池鉄道の沿線は、ほとんどが「炭住」などの社宅や工場など、「三井三池」関係の土地の中を通っていたようで(公道などを横断する踏切もありましたが)、外部利用者の乗車を認めていたとしても、おそらく乗客は一部の「オタク」などに限られていたように思え、再び専用鉄道に戻っても大して影響はなかったような気がしますが。この辺の事情を分かる方はご教示願いたいのですが…。三池鉄道は、炭鉱の閉山、工場の規模縮小とトラック輸送への切り替えなどにより、従業員輸送は1984(昭和59)年9月末をもって終了、貨物線も次第に縮小し、路線は大牟田市内のみとなりましたが、現在も短い区間ながら「三井化学」の専用線として貨物列車の運行を続けているようです(
wikiより)。一方、その荒尾市には「
荒尾市営電鉄」という路線もありました。1949(昭和24)年に開業した全長僅か5km余りの短い路線で、「市電」と呼ばれたようですが、路面電車ではなく、「玉野市営電鉄」(
[60960]、
保存会HP)と同様、高床式の「普通の電車」が走っている路線でしたが、経営は苦しく、奇しくも「三池鉄道」が地方鉄道化した日から2か月近く後の1964年10月1日付で廃線となっています。「三池」が地方鉄道時代にも事実上一般旅客に解放されていなかったという見方に立てば、荒尾市がこの問に「該当した日」は「1964年10月1日」であった可能性があります。
「表記の揺れ」の話に戻りますが、「しんにゅう」の「テン」が2つの旧字体だったのを、「テン」が1つの新字体に「わざわざ」改称したという、ちょっと「やりすぎ」(
[94763] hmtさん)という「蓮田市」のケース。JRの「蓮田」の駅名が正式にはどっちの字体がなのか、公式の書類上では改称されていない可能性があり、駅や車内などの路線図・案内板などでも両者が混乱しているようです。
駅の敷地が複数の自治体にまたがっていたり、いわゆる「特殊路線」の扱いの問題で微妙になっている市もいくつか見られます。過去に類題として出された、第21回・問七の共通項「市内に1社1駅しかない駅」で「該当する市」として扱われた伊勢原市は、今回の問八でも同じく「該当する市」として扱われています。伊勢原市には「大山ケーブル」があり、線内の3駅はいずれも市名とは無関係。一方、
愛甲石田駅は一部が伊勢原市にかかっていますが、駅の住所は厚木市であり、ケーブルの3駅を無視するとすれば、伊勢原市内にある「普通の鉄道」の駅は、小田急の伊勢原駅のみということになります。第21回問七の時は、解答したメンバーの方々の間でも議論になっていました。
この問題、伊勢原市は外しても良かったような気がします([68216]なると金時さん)
山の中腹にあるあそこが「アレ」だという意識はあまりないです([68217]ぺとぺとさん)
「お山の方」の系統のものは「今回は対象外でないか?」([68219]EMMさん)
この「特殊路線」(ケーブルカー・ロープウェイなど)の扱いがそれぞれの回・問によってばらばらであり、統一性・整合性が取れていない、というのは、私も以前に書き込んだことがありました(
[85557])。
愛甲石田駅のケースのように、「自治体の境界線上にある駅の住所がどちらにあるか」ということが、該当するのか非該当なのかを分ける重要なポイントになっている市は、ほかにもいくつかあります。清瀬市はその一例で、隣の「秋津」駅が一部が清瀬市にかかっており、更に県境をもまたいで埼玉県所沢市にもまたがっているという珍しい駅ですが、住所は東村山市であり、清瀬市内にある駅は清瀬駅だけということになっています。向日市のケースは、「自治体またぎ」の駅が複数ある例で、市の玄関となっている「向日町」駅自体が
向日市と京都市にまたがっていて、住所は向日市となっているのですが、もう一つ境界線上にある駅があります。阪急京都線に近年新設された
洛西口駅で、こちらも向日市と京都市にまたがっているのですが、こちらの住所は京都市。この洛西口駅が京都市の駅ということになっているため、向日市にある駅はJR「向日町」と阪急の「東向日」「西向日」、いずれも市名を含む3駅ということになって、向日市は「該当する市」となっているわけです。
「平成の大合併」は、その前と後とでこの問の該当市・非該当市に大きな変化を与えていることが容易に想像できます。例えば、私が前回の「クイ図」の「問二」の共通項「市内にある駅で唯一市名を含まない駅」として答えた鴻巣市の吹上駅。鴻巣市は、吹上町との合併以前は、今回の問八に「該当する市」だったのでしたが、吹上駅が市内に入ったために非該当になったのでした。このようなケースはまだまだ多数ありそうです。また、ローカル線の廃止も相次いでおり、これによって「該当する市」の仲間入りした市もあるかもしれません。これらについては、後日、暇があったら調べて見ようか、ということにして、次回は「本題」の感想文を書き込むことにします。