このところスイッチバックに関する話題が続いているようですが、EMMさんの
[67593]に反応して立山砂防軌道についてつらつら書かせていただこうと思います。
まずは一般人が砂防軌道に乗ることができる唯一のチャンスである「立山カルデラ砂防体験学習会」ですが、毎年夏季に30回程度が実施されています。EMMさんが参照されたwikipediaの記述は少々説明不足でして、富山県在住者に限るという条件がなくなったのは1998年のこと。ただし、この年オープンした立山カルデラ砂防博物館の見学歴があることが新たな条件となりました。具体的には博物館の入館券に応募券がついており、これを所定の応募ハガキに貼る必要がありました。つまり応募のためには最低一度は立山へ行かなくてはならなかったわけで、依然としてハードルが高いものでした。
私などは一時、本気で富山県に移住しようかと考えたほどこの軌道に乗りたいと熱望していたのですが、博物館オープンを記念して「訓練軌道」に乗れるというイベントが実施されると聞き及んで開館初日に行ってきました。訓練軌道は延長800mほどと短いものですが、使用される車両は「本線」と全く同じものであり、途中には2段のスイッチバックも設けられているので砂防軌道の雰囲気を手軽に味わうことができました。
とはいえ、これで満足できるわけもなく、むしろますます本線に乗りたいという欲求が強くなりました。応募券も入手できたのでさっそく翌年の体験学習会に応募したものの、高倍率の前にあえなく落選という結果に終わったのでした。
それから数年、ついに博物館見学歴という条件も撤廃されました。正確な年次がわかりませんが、2003年あたりだったかと思います。応募方法もハガキのほかにネット経由が可能になり、1シーズンに何回でも応募できるなど、それまでより格段にハードルが低くなりました。
私が応募したのは2006年。博物館のwebサイトにある応募用ページには前年の開催日ごとの倍率が載っており、それによると7月の実施分が最も低倍率で2.5倍程度、お盆休みや紅葉シーズンと重なる8月中旬や10月中旬の実施分が4~5倍という数値です。そこで7月実施の2回分に応募したところあっさりと第2希望に当選。ついに砂防軌道に乗るチャンスを得たのです!
……が、この見学会は「雨天中止」なのです。ただでさえ土砂が崩落しやすいエリアだけに、ちょっとした雨でも安全最優先で中止の決定が下されます。聞くところによると前日午前発表の天気予報で降水確率が60%以上だと中止で、年間の実施率は66%前後。せっかく当選しても3分の1という高確率で中止の可能性があり、中止になっても代替日などの救済措置はありませんからまた応募からやり直しです。
かくして、喜び勇んで在住地の千葉県から前日に富山入りしたというのに、なんとそこで中止が決定。失意のうちに帰途についたのでした。
翌2007年、今度は比較的倍率が低く、かつ梅雨明け後の8月上旬に狙いを絞って応募したところ運良く当選! やっとのことで十数年来の夢をかなえ、実施当日を迎えたのでした。
体験学習会1回あたりの参加人員は40人で、現地では2班に分かれて行動します。1班は「往路バス・復路軌道」、2班はその逆となっており、これは応募の際に選択可能です。私は希望を出さずにいたら1班に組み入れられました。
まずは博物館で砂防に関する簡単なレクチャーを受けたのち、マイクロバスで有峰林道を経由して、通常は立ち入りを禁じられているエリアに突入。六九谷展望台、湯川砂防堰堤、立山温泉跡地(ここでお弁当)、泥鰌池、白岩下流展望台などをめぐります。
これらのダイナミックな山岳風景はまさしく絶景と呼ぶにふさわしく、一見の価値があります。明治以来いまだに砂防工事が進行しており、しかもいつ終わるとも知れないことは予備知識として知ってはいても、その途方もない規模の大きさを目の当たりにするとしばし言葉を失います。そもそもこの体験学習会は軌道に乗るのがメインではなく、砂防工事への理解を深めるのが第一義なわけですが、眼前に広がる迫力ある光景を前にすると、たとえここで軌道に乗れないまま引き返すことになったとしても悔いはないな~とさえ思えるほどでした。
さて、水谷連絡所からはお待ちかねの砂防軌道です。わずか18kmの道のりですが多数のスイッチバックがあり、所要1時間45分と乗りごたえはバッチリ。ボランティアガイドさんが解説してくれるほか、見どころでの一時停止もあります。編成はディーゼル機関車+6人乗りの客車3両という陣容。乗ってみると意外にスピードが速いのですが、それより驚かされるのがスイッチバックの切り返しの素早さです。行き止まりに突っ込んだかと思ったら一瞬だけ停止してすぐにバック。次の行き止まりに突っ込んだらまた一瞬だけ停止してすぐに前進。なんだか鉄道模型を操作しているような感覚で前進後進を繰り返します。有名な樺平の18段スイッチバックでは眼下にジグザグのレールを見下ろしますが、木々が生い茂っているのと列車のスピードが速いのとで撮影はなかなか困難です。
千寿ケ原に到着したところで体験学習会は終了です。
ということで、だらだら長文をしたためてしまい恐縮ですが、鉄道好きのみならず地理好きな皆さんにぜひとも体験学習会への参加をお勧めします。砂防軌道にこだわらなければバスだけのコースもあり、こちらは先着順ですから難なく参加できます。
なお、このエリアでは関西電力の見学ルートも人気があります。黒部ダムを出発して、トンネルバス→インクライン→黒部川第四発電所→上部軌道を経由して黒部峡谷鉄道の欅平に至るコース(逆もあり)です。
私は2005年に参加しましたがこちらも倍率は3倍前後。見学会開始当初は30~40倍というすさまじい状況だったことを考えると難易度は高くありません。参加される際には事前に吉村昭の「高熱隧道」を一読しておくとより深い感動を得られることと思います。