この話題については EMMさん(
[67734]) もおっしゃるとおり,ずいぶん前に盛り上がった記憶があって,そこで書いたことをもう一度…なんてことにもなりそうですが…。
[67743] 蒼の狼 さん
地理学が理系学部というのはあまり聞かないですね。
近代日本の地理学教育には大きく2つの流れがあります。
1つは,1898年に当時の 東京高等師範学校(後に併設された 東京文理科大学 とともに 東京教育大学 を経て 現・筑波大学) に設置された教室を源流とするもので,1911年には 東京帝国大学 に地理学講座が設置されて,主に“東”の方で大きな影響を持つようになります。一方,“西”の方では1907年に 京都帝国大学 に地理学講座が設置されています。
その際,東京帝国大学では「理科大学」(現在の理学部)に,京都帝国大学では「文科大学」(現在の文学部)に,それぞれ地理学講座が置かれました(ただし,京都帝国大学の“文科”大学に地理学講座を開いた先生自身は,もともと“理科”の地質学が専門だったそうです)。
そのせいで,特に“東”の方の旧官立(国立)系の大学では,東京高等師範/文理科大学 → 東京教育大学 という流れもあって“理系”方面に地理学教室が置かれることが多く,大学の先生も「理学博士」や「理学修士」の方が多くいらっしゃいます。
ただし,“東”ではあっても私立の中で地理学教育に定評のある 明治・日本・駒沢・立正 などの大学では“文系”の学部に地理学の教室が置かれています。
※戦後の教育改革以前の制度では,初等教育学校(小学校)の教員を養成する学校として「師範学校」が設置され,中等教育学校(旧制中学・高等女学校・実業学校など,今の中学校・高等学校に相当する)そして師範学校の教員を養成する学校として「高等師範学校」が設置されていました。
「師範学校」は,当初は旧制中学校などと同等の“中等教育学校”として位置づけられ(高等小学校[現在の中学校におおよそ相当。ただし義務教育ではない]卒業段階で入学する5年制の「一部」が基本。旧制中学校卒業段階で入学する3年制の「二部」もあった),府県立で各府県に設置されていましたが,戦時中の教育改革で1943年から従来の後期3年間を「本科」,国民学校高等科(1941年に高等小学校から改編)卒業段階で入学した最初の2年間を「予科」として,府県立から「官立」に移行,学校としての位置づけも「本科」の部分は「専門学校」(現在のそれではなく,大学相当の高等教育機関)と同格とされました。それで,戦後の教育改革で「本科」部分が 新制大学 に統合されて,各都道府県に最低1校はある国立大学の教員養成学部(または教員養成大学)となりました。
「高等師範学校」は中等教育修了者を受け入れる“高等教育機関”であり,男子は東京のほかに広島,女子は東京と奈良に置かれました。東京の男女高師と奈良の女高師はそれぞれ現在の筑波・お茶の水・奈良女子の各大学につながりますが,広島の高師は師範学校とともに広島大学に統合されました。
蛇足ながら,ご参考までに。
[67734] EMM さん
「地理学科」の設置されている大学が「どこの学部」に地理学科を置いているのかを見てみると、文学部系・理学部系・教育学部系の3種に分かれるがその中では文学部系が比較的多い…と言うことになるかと思います。
教員養成学部(「教育学部」が必ずしも教員養成学部とは限りません)でも地理学を学ぶことはできますが,義務教育(小中学校)の教員養成を目的とする学部(旧制師範学校を源流とする各都道府県の国立大学教育学部)では,「社会科専攻」の一分野として地理学を学ぶ(養成するのは「地理の教員」ではなく「社会科の教員」)ので,文学部や理学部などの地理学科で学ぶよりも専門性はやや劣るかもしれません。最近の教員養成カリキュラムは,私が教育学部の学生であった四半世紀前よりもずっと,「教科専門」よりも「教職専門」の方にシフトしていますから,なおさらです(早い話,地理学ばっかりを勉強しているわけにはいかない)。
[67743] 蒼の狼 さん
やはり、地歴というカテゴリーで地理と歴史はまとめられるので、
歴史も地理も同じところで学ぶ必要があるのではないでしょうか。
教科の枠組みというのは,ある意味便宜的なもので,その組み合わせが絶対的なものというわけではありません。
小中学校よりは個々の教員の専門分野を気にする高校では,実際には教員人事の上でも,日常の授業科目の受け持ちに関しても,今でも「地理歴史」と「公民」とはセットで,つまり1994年の教科分割以前の「社会科」という単位で教員は動いていますが(もちろん,最近はどちらか一方の免許しか持っていない教員が増えていますから,やがてはそのような扱いはできなくなるでしょうが。「社会科」の免許を持っている私は「地理歴史」と「公民」の両方の免許を持っているものとして扱われています),ほかの分野の専門の先生には「地理」は教えづらいらしく,あまり地理の授業を持ちたがらない傾向があるようです。逆に「地理」の私には,たとえば「倫理」は最も教えづらい科目です。地理で多少なりとは扱う宗教はともかく,近代哲学などは(自分が高校で“倫理社会”(←“倫理”ではない)を教わった時から)全く理解できません。…でも,倫理を担当させられたことがあるけど。
先日,案が公表された新しい高等学校学習指導要領では「地理歴史」の中で3分野(世界史・日本史・地理)間のつながりがこれまで以上に意識されて,特に必修科目である世界史で地理的要素に多く触れることが求められていますが,これに溜息をついている世界史の先生は多いかもしれませんね。世間では英語で英語の授業することに目が向いていますけど。
早い話,“理系”か“文系”かという枠組みも絶対的なものではなく,地理(学)はその両方にまたがる性格のものです。文系学部に置いてある大学もあれば,理系学部に置いてある大学もあります。ただ,“文系”学部で学ぶにしろ,高校で学ぶ理数系の知識はあった方がいいとは思いますよ。