なにやら「誤用」の話が白熱しておりますが、ここで一つの話題を振ってみます。
まず、トヨタ自動車の本社は「名古屋市」にはありませんので、その意味では「名古屋市の企業」ではありません。
また「名古屋県の企業」でもありません。「名古屋県」など存在しないからです。
しかし「名古屋市」のことではなく、愛知県の間違いとしての「名古屋県」でもない「名古屋」もありうるのです。
何も付かない「名古屋」の範囲はというと、使われるたびに違うことでしょう。厳密に定義できる代物ではありません。しかし、そこに豊田市が含まれるかというと違和感があるかもしれません。私は現地の事情に詳しくないので多くは語らないことにしますが、豊田が名古屋と呼ばれるとすれば、話し手あるいは話相手の無知が原因であろうと考えられます。
無知という言葉を使いましたが、名古屋から遠く離れた地域の人たちに名古屋周辺の詳しい地理的知識を求めるのは酷でしょう。大府とか春日井とか稲沢とか言っても通じないので、あえて「名古屋から来た」と言うこともあるはずです。詳しく説明しようとしても「名古屋の近くの西春」のように、やはり名古屋が出て来ることになると思います。
そういうわけで、ある意味で「間違い」と言っていいと思いますが、すべてを正すことは不可能であり、「誤用の定着」を止められない例は多くあることでしょうね。
さて、名古屋市の範囲は(境界未定部分があるにしても)明確ですが、名古屋平野…は「そんなものはない」としても、濃尾平野の範囲を厳密に定義した資料はあるのか、あっても簡単に見ることができるのか、という問題がありまして、地元も含めて大方の人たちにとっては「よくわからない」ということになると思います。あ、「知多半島は入るのか」などの細かいレベルだけではなく「何で伊勢平野と別になってるの?」くらいの話もありますよ。
学会レベルの厳密な議論においては、そこで必要ならば改めて厳密に用語を定義すればいいのであって、一般の庶民には無関係なことです。「平野」「盆地」などは学会の外でも広く使われる言葉であり、学会でコントロールできるものではありません。
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地理関連学会連合に加盟している学会の数は25にも及ぶそうなので、これでは各学会での統一にも苦労するかもしれません。
従って、誤用であったとしてもそれを止めようがない場合、地名コレクションの方針としては排除はしない、ということになっているのだと思います。