[80214] N-H さん
たとえば、「架」と一文字書いてなんと読むか?
これへの解答ではないけれど,昨日の「ブラタモリ」(←もう,おとついになっちゃいました)。
鉄道総研の専門家の前でタモリは「架線」を何て読んでいたかなぁ。
ただし、こういうのは誤読と言うものとはまた違って、業界用語として特殊な読み方が半ば認知されているといっていいのかもしれません。
ずいぶん前に話題になった「首長」を「くびちょう」と読むのもこの例ですね。今日(これも昨日)の国会でも連発されたようです。彼らは「法律を施行する」の「施行」も「せこう」と読みますね。「施工」でもあるまいに。こういったお役所用語も,いわゆる業界用語。
[80213] 実那川蒼 さん
実はこれはつくりの「番」に引きずられた誤読が定着してしまったものです。
地理ネタから離れるけれど,「消耗」を「しょうもう」と読むのも有名な“誤読”ですね。
「耗」の正しい音は「コウ」。この字は本来「耕」と「毛」の組み合わせによる会意文字だそうで,「毛」の方が意味を表し,「耕」の「井」を省略した「耒」の部分が音符なので「コウ」と読むのだとか。ややこしいことに,音符となった「耕」は「耒」と「井」の会意文字なのだけど,こちらでは「井」の方が「ケイ」と読んでその延長で「コウ」という音を表しているそうで,意味を表す「耒」の部分自体の音は「ライ」で「すき(犂)」という意味。
それはともかく,だから「消耗」は“正しく”は「しょうこう」と読まなければならない。実際に,「心神耗弱」は「しんしん“コウ”じゃく」と読みます。
ところが,「毛」の方が音を表し「モウ」と読むと誤解されて「しょうもう」となったのですね。「消耗」を「しょうこう」と読む人は普通いません。でも,そのような“誤読”が定着したのがそう古い話ではなさそうなのは,「耗弱」という読みを見ればわかりそう。
高校の政治経済の教科書に「固定資産減耗」という用語が出てきます。GNP(国民総生産)からこれ(減価償却とも)を引いたものがNNP(国民純生産)。さらに間接税を引いて補助金を加えたものがNI(国民所得)…。この「減耗」に教科書では「げんもう」という振り仮名が振ってあるのですが,これも本来の読み方は「げんこう」。漢字辞典などには両方の読み方が書いてあります。今まさに,「げんこう→げんもう」という“誤読の定着”が進行中なのでしょう。
なぜ播磨国に関する単語だけ誤読が定着してしまったのかは謎です。
まずは最初に播磨国を中国風に呼んだ「播州」が現れて,そこから「東播」以下の呼称が派生したのだろうと思うのですが,「播州」を“正しく”「はしゅう」と読むのでは,何か座りが悪いと感じられたのでしょうかねえ。
日本語一般のクセとしては「房州」や「信州」のように“2音+州”というのが座りがいいのですが,「武州」「紀州」「土州」のように“1音+州”だって例外とは言えないくらい普通にあります。そうすると「播」という字,あるいは「播磨」という読みにわざわざ「ばん」と読ませる秘密があるのかもしれません。
古い時代の中国語,あるいは漢字の音を“復元”(もちろん推定ですが)したことで知られる藤堂明保博士が編纂に携わった学研の漢字辞典によると,「播」という字の上古(秦・漢代)音は puar ,それが隋・唐代の中古音では pua となり,これが音韻体系の極めて貧弱な日本語に入って「ハ」(←実際の発音は“唇をかまないファ”)と読むようになりました。
ちょうどその時代である奈良時代,従来は「針間」などと表記してきた ハリマ という地名を“おめでたい漢字2文字”で表記するに当たって,「ハ」という音の「播」という漢字に“聞こえないはず”の r の音を無理やり聞いて「ハリ」と読み,「磨」と合わせて「播磨」という表記が律令国家の公式表記とされました。「播磨」のどこが“おめでたい”のか,全然わかりませんが。
“聞こえない音を無理やり聞く”というのはこの時に多用された手法で,たとえば「相摸」(2文字目は本来“手へん”)を「さがみ」と読むのも,「相」sang(サウ)の語尾に無理やり a という母音を聞いて「サガ」と読んだからです。山城国(京都府)の「相楽郡」は,さらに「楽」lak(ラク)の語尾にも a を聞いて,だから「さがらか郡」(現代の読みは「そうらく郡」)。
奈良時代,ハリマに漢字を当てる際に「播:ハ」という字に無理やり r を,ついでに i という母音まで聞いて「ハリ」としたことが後の世に「ばん」と読ませることにつながったと結論づける根拠は何もないので,そのような主張をするつもりもないのですが,やっぱり「はしゅう」では何となく物足りなくて,それで“つくり”の「番」に引きずられて「ばんしゅう」となったのかも。
で,こちらは「播州赤穂」のように,少なくとも「消耗:しょうもう」よりはずっと前から行われていたのでしょうね。
※【お詫び】
上の文章の中で「会意文字」とあるのは,いずれも「形声文字」の間違いです。
久しぶりに使って間違えてしまいました。お恥ずかしい限り。
以上,謹んで訂正させていただきます。