近いところでは
[52900] 北の住人 さん,
[53170] 役チャン さん が「山って何?」と悩んでいらっしゃるようです。わたくし的には既にゲダツしておりまして(失笑),「そんなもん,テキトーでいいのよ,テキトーで」と思っておるところです(
[34307]中段)。
かつて futsunoおじ さんが
[34266]で
雑誌「山と渓谷」今年(2004,みやこ♂注)の7月号に”なにをもって「山」とするか”といった鼎談が載っていますが、統一した基準はない(作れない)というのが結論のようです。 多くの人が山だと認めたものが山であるようです。
と紹介されていますが,ここで「もうひとつの検討例」について,お示ししたいと思います。
例によって,国土地理院が平成3年に発行した「日本の山岳標高一覧 -1003山-」から引用します。お上がこの本を作るに際して,五百沢智也氏を委員長とし,ほか6名(みやこ♂お気に入りの西丸震哉氏
[49655]も含む)からなる「山の高さに関する委員会」が設立され,山の高さについて検討しました。当然,その経過途中で「何を持って一山とすべきか」という討論がなされたようなのですが,この本にその概要がありましたので,以下抜粋します(この本,去年筑波の「地図と測量の科学館」のミュージアムショップに行ったときには,まだ在庫がありました.)。
そこには主要な検討事項として以下の(1)~(4)が記され,説明されています。
(1) 山とは
眺めた感じで一つの山の範囲を定める。山には一つの頂上に斜面が集まる単純なものもあれば,複数の峰,複数の頂上を持ち,全体の総称としての山名と部分的な峰や山頂部に別の山名を持つものもある。
(2) 頂上のとらえ方
山体を構成する岩石圏の最高地点とする。人工的建造物も山体の一部とは見なさない(これについては[34823]も参照ください)。
(3) 山と山名の取扱いについて
〔例として富士山(山頂は9つの峰からなり,中腹に宝永山/小御嶽,裾野に大室山/長尾山などの多くの寄生火山を有する)や南アルプス北岳(白根山と呼ばれる一連の山並みの最高峰で,白根山の標高を北岳で代表させるなら,間ノ岳や農鳥岳は埋没されてしまう),北アルプス穂高岳(これも最高峰の奥穂高岳で代表させると涸沢岳,北穂高岳,前穂高岳が埋没する)を掲げ,〕このように,山にはたくさんのピークが寄り集まって全体として一つの山をつくるケース,あるいは一つ一つが立派な山となるピークで,そのピークのそれぞれに部分的な部分的な山名もあり,同時にそれらをまとめた全体の山名も存在するというケースもある。
こうした各種のケースについて1つの山の範囲を統一した基準であきらかにすることは困難である。一つの方法として,隣合う山頂間の距離とその間の谷の深さとから,山を区分することを検討したが,それだけでは,全国の山を対象とするには不十分であることが判明した。そのため山を遠望したときの直感的印象,地域住民・登山関係者間での慣用などを併せとり入れて山を区分した。
(4) 標高について
三角点,標高点,等高線の3種類で対応した。
(長い引用,終わり:なお引用文は,文意が変わらない程度にアレンジさせて頂いたものもあります)
こうして,宝永山・間ノ岳・中白根山・農鳥岳・西農鳥岳・涸沢岳・北穂高岳・前穂高岳など,数々の峰が「山として」残されました。一番肝心な部分は(3)の最後の方,「一つの方法として,隣合う山頂間の距離とその間の谷の深さとから,山を区分することを検討したが,それだけでは,全国の山を対象とするには不十分であることが判明した」のくだりでしょうか。結局のところ「ケースバイケースで落ち着いた」ということです。
どうです?大したこと書いてないでしょう?
たとえば(3)の中頃,「たくさんのピークが寄り集まって全体として一つの山をつくるケース」「一つ一つが立派な山となるピークで,そのそれぞれに部分的な部分的な山名もあり,同時にそれらをまとめた全体の山名も存在するというケース」とありますが,この2つのケースの違いがおわかりになりますか?ほとんど一緒です。
(1)の異端の例では,たとえば「山」というと360度下に向かった斜面で囲まれていないといけない,という気がしますが,ところがどっこい,たとえば「
前常念岳」などは一等三角点を有しているものの,実際には尾根の張り出しに過ぎない(里から見上げると立派な峰に見える,そういう意味では涸沢槍
[41882]も類似例)わけです。
(2)の場合では,一番低い山として知られる「天保山」や「大潟富士」などは人工物なので,「山じゃない」ということになってしまいます。長らく天保山が「一番低い山」の座を誇っていたのは,「盛り上がった場所にある三角点としては一番低い」というのが,その根拠でありましたでしょう(落書き帳アーカイブズ
地上で日本一低い場所はどこか?)。
本邦第3位の奥穂高岳山頂(3190m)に3mのケルンを作って,2位の北岳(かつて3192m,現在3193m)を凌駕しようとしたものの,ケルンは山の高さには認められないので結局シャレで終わった,のも有名な話(
[34266] futsunoおじ さん)。
だから結局,何か条件をつけをしないと山の定義は無理のようなんです。特に比較する場合,一般論として「何番目」とかというランキングしたりする場合は,「お楽しみ」とか「お遊び」の観点を忘れてはならない,つまりあんまり真面目に突き詰めないで,テキトーにやるのがいいのだ,とわたくし考えております。