[91965] グリグリさん
短い読み・長い読みの市区町村の一番最後に「新田」と称する長い読みを参考データとして掲載しています。
引用部分冒頭の記載
以下のリストの「新田」は「村」と同じ意味でもあるので、参考データとして提示します。
「新田(しんでん)」という言葉は、昔からの耕地「本田(ほんでん)」に対して「新たに開発された耕地」を意味するのが第一義でしょう。しかし、それは「地名」や「集落名」にも転用されています。
古代から営々と行なわれた新田開発は、時代により 事業主体・規模なども様々に変化してきました。
しかし、記録で目にする「新田」地名・「新田」村名の多くは、近世由来のものが多いと思います。
なお、明治以降の開発事業には「新開」という言葉が多用されました。
[48709]
「新田」は「村」と同じ意味に使われると共に、「新田村」単独 又は「○○新田村」という複合形で「村」と併用されることもありました。
変遷情報検索で「新田村」を検索すると
253件が抽出され、その大部分は背景赤色の旧村です。
町村制の「○○新田村」は10件【1889年と廃止年と2回抽出されるので、実質5件】で 1889年から昭和合併までの約66年間を存続したのは、長野県の「五郎兵衛新田村」
[16828]と静岡県の池新田村【→池新田町】だけでした。
これに対して旧村を含まない条件で「新田」を検索すると30件です。明治合併のなかった岐阜県の事例が示すように新田数は抽出件数より多く、「○○新田村」という表現は例外的であり、村と同じ意味で使われるのが普通であったと思われます。
それはさておき、「長~い読みの新田地名」で、ぜひ紹介しておきたい事例があります。
それは 町村制施行前の 旧村名 なのですが、今尾恵介さんの著書『地名の社会学』(角川選書, 2008)p.58に掲載されていた「上土新田 下足洗新田 川合新田 請新田」という長い連称名です。
現在は静岡市葵区流通センター付近、巴川の左岸・諏訪神社方面からの支流が合流するあたりです。
昔は沼地だったが、これを 周辺にあった村人たちの力で 耕地に変えたものと推察します。
Mapion
「あげつちしんでん しもあしあらいしんでん かわいしんでん うけしんでん」「読み」が 32かな文字、漢字で 16文字という大記録の旧村名は、明治合併後も千代田村の大字名として残り、静岡市編入後も 1977年の町名変更まで存続しました。
同類で現存する大字、静岡県藤枝市にある
久兵衛市右衛門請新田 は 16かな文字、10漢字です。
今尾さんは、この「上土新田 下足洗新田 川合新田 請新田」という地名を 次のように説明しています。
上土【あげつち】村が開発した上土新田、下足洗村が開発した下足洗新田、川合村が開発した川合新田の3つの新田村があり、これらが更に 新しい村請新田 を開発したところ、こんな寿限無ばりの長名となったのだろうが、さすがに日常的に呼ぶのに不便なので「三請新田」という通称があったという。(中略)これが昭和52年(1977)まで存続していたというのは なかなか驚異的だ。
変遷情報で確認すると、町村制施行の前月に行なわれた明治合併前の旧村です。
読みは32音で変わらないが、「上土…」が「上ヶ土…」となっていました。
市区町村の変遷 静岡県より抜粋
M22/3/1【明治合併】 静岡県安倍郡上ヶ土新田下足洗新田川合新田請新田が安倍郡上ヶ土新田, 川合新田, 川合村など7村、有渡郡下足洗村, 下足洗新田など5町村他と合併→安倍郡千代田村【旧村】
M22/4/1【町村制】 安倍郡千代田村【旧村】→安倍郡千代田村【明治合併前の12町村は大字となる】
S9/10/1【編入】 安倍郡千代田村など5村→静岡市に編入
【Wikipedia:静岡市の町名の変遷より抜粋】
S49/10/1 【分割・新設・住居表示】上土新田下足洗新田川合新田請新田の一部【支流東岸】→流通センター
S52/3/9 【分割・新設】上土新田下足洗新田川合新田請新田の各一部【支流西岸】→牛田、野丈
いろいろな「○請新田」
先に「事業主体も様々」と書きました。新田開発は 幕藩体制側 自らの開発計画に基づく「代官見立新田」や「藩営新田」もありました。落書き帳記事番号4桁の時代からお馴染みの
三富新田はその一例です。
民間で資金を出し合い事業を進める「百姓寄合新田」の代表的なものが「村請(むらうけ)新田」でしょう。
複数の村の共同事業となると連称になり、その一員が新田村の場合、孫会社のような地位になる新田は「○○新田 ☓☓新田 請【=請負】新田」という長い名前になります。
地元資本がその土地の有力者の場合は「土豪開発新田」。信州の「五郎兵衛新田村」は一人でしたが、駿河国の「久兵衛市右衛門請新田」は二人の連名。
都市で蓄財した投資家による「町人請負新田」、「寺社請新田」など外部資本による新田もあります。