「四千万歩の男」というように、長い間、“地球を測る”のは、地表で行なう測量でした。
ところが、20世紀になると人類は「翼」を手に入れ、その前に完成していた写真術と結びつけた空中写真の撮影が可能になりました。写す角度をずらした2枚の空中写真撮影により、高さを含めた情報の記録が可能になり、ステレオ写真の立体図化機によって地図を作れるようになりました。
この方法で2万5000分の1地形図が作成された際(1968年)、剱岳の高さが見直されたエピソードは、
[43689]で記しました。
飛行機よりも高い空中を飛ぶ人工衛星も、地球を測るための、有力な手段になりました。
人工衛星の軌道は、地球の重力の影響を受けて微妙に変化します。これを電波で追跡すれば地球の形を測定できます。
[45211]では、地球は僅かに扁平な回転楕円体ではあったことを記しましたが、詳しく調べると、みかん形の回転楕円体から、更に様々な「ゆがみ」を持っていることがわかりました。
地殻の表面にはヒマラヤ山脈やマリアナ海溝のような凹凸がありますが、それだけでなく、仮想の海水面(ジオイド)にしても、回転楕円体からずれていました。北極側が突出した洋梨形にも譬えられます。
赤道面も完全な円ではなく、インド洋のモルジブの付近は回転楕円体から凹んでおり、逆に ニューギニアは突き出ているという具合。そのようなジオイドの凹凸を示す地図は、例えば理科年表で見ることができますが、
引用サイトもあります。
人工衛星を利用した「地球を測る」手段として、欠かすことができない存在になっているのが「GPS」 Global Positioning Systemです。
位置の知られている星を観測すれば、時刻の情報と共に処理して自分の現在位置がわかる…という事実は、「天測」として利用されてきました。フラムスチードに始まるグリニヂ天文台が整備してきた航海暦がその代表的なものでした。
GPSは、直接的にはロランC(Long Range Navigation-C)のような地上局を使う電波航法の後継でしょうが、1日に1周する星空を利用した「天測」の現代版であるとも言えます。こちらは、高度2万km、12時間で1周する人工衛星NAVSTARを24個(他に予備)用い、昼夜を問わず4個以上の衛星から電波を受信することができます。元来は軍事目的のために米国が開発したシステムですが、1993年から民間でも使えるようになりました。
NAVSTARには、極めて正確な時刻を刻む原子時計が積み込まれており、1ミリ秒毎に信号を発信しています。地上では、受信した時刻と衛星が電波を発信した時刻の時間差を測って衛星までの距離を知ります。衛星の位置は厳密に管理されていますから、3個の衛星までの距離を知れば、理論的には自分の位置がわかります。
実際には、受信機を安価に作る必要があり、1000万円もする原子時計を使うわけにはゆきません。クオーツ時計では誤差は免れず、これが距離、従って位置の誤差になります。その対策として、 GPSでは4個目の衛星からも受信することで、受信機の時計の誤差を消去します。とても巧い仕組みです。
# GPSの開発は、ノーベル賞に値する仕事だと思うのですが、誰がやったのか知りません。
GPSでは、地球の重心を原点とする直交座標で位置を表わします。
三角測量の時代は、地球の表面(ベッセル楕円体)が基準でしたが、測量方法がGPSになると、地図作りの基準も見直され、地心座標に基づく世界測地系に移行しました。2002/4/1に施行された
改正測量法では、地図を投影する楕円体も世界測地系のGRS80になっています。
具体的には、東京付近で経線が東に290m、緯線が南に350m程度(距離にして南東に約450m)ずれ、経度の値がマイナス12秒、緯度の値がプラス12秒程度変わりました。
この落書き帳では、変更された地形図の図取りの重複などが話題になりました。
「地形図」に親しもう!
なお、海上保安庁所管の海図はWGS84に基づいていますが、GRS80との実用上の差異は殆どないそうです。
GPS測量と言えば、世界最高峰エベレスト(チベット語でチョモランマ「世界の母神」、ネパール語ではサガルマータ「大空の頭」)の高さを測り直したという
ニュースが入っています。
中国の国家測量局は9日、世界最高峰のエベレスト(中国名:チョモランマ)の高さは今年5月から行った測定の結果、これまでの公表値より3.7メートル低い、8844.43メートル(誤差0.21メートル)だったと発表した。
1999年にアメリカの研究チームがGPSで測った結果は8850m、中国が1975年に測定した値は8848.13m。
頂上が氷雪に覆われていることも、数字が変る要因の一つでしょうか。地球温暖化で低くなる傾向?
なお、チョモランマQomolangmaは、「珠穆朗瑪峰」と書き、「珠峰」と略記されるようです。
余談ですが、昔、世界最高峰は崑崙山脈のアムネマチンという説を聞いたことがあります。調べてみると、
世界一高い山は? というページがありました。これによると、アムネマチンは9041m。崑崙・チベット・ヒマラヤの大きな山塊が重力の向きを狂わせたせいだという説明ですが、それにしても違いすぎる。
上記ページには、ジオイドからの標高の他に、地球楕円体からの高さ(最高はK2の8859m)にも言及しています。おまけの「地球中心からの高さ」については、
[29173]日本最高峰?沖ノ鳥島 参照。
地球楕円体面からの高さとジオイド面からの標高の
説明図。
GPSから山の高さに脱線しましたが、ここで本筋に戻し、「更に遠い空の彼方から地球を測る」方法を一つだけ追加。
それは、 VLBI(Very Long Baseline Interferometry:超長基線電波干渉法)です。詳しくは、国土地理院の
VLBIのページをご覧ください。
最後のあたりになると、業績をあげた個人名が出なくなりましたが、これで「地球を測った人々」のシリーズを終ります。
シロウトの断片的な知識をつなぎ合わせて作ったストーリーです。誤りなどあればお許しください。
長文におつきあいいただき、有難うございました。