今回は高校の修学旅行についての話です。しかし
[1770] で既述した様に、実は私の出身校には
正式な修学旅行がありません。戦前、在校生の余りの血の気の多さに、時の校長が戒めの意味で
無期限中止として以来の事らしく、その原因となった、傍若無人なる振舞いとしては、投宿先の畳を
全滅させた、投宿先を半壊させた、投宿先の厨房で脱糞した、などの未確認伝説があるのですが、
こうした背景から修学旅行を中止した例は、少なくない様です。
その代わり、行事の開始時期から考えて、軍事教練がルーツと思われる長距離遠足があり、毎秋、
総計約70kmの行程を全校生徒が一昼夜かけ歩破します。コースは、バスで移動した遠隔地から
水戸を目指したり、水戸を発ち周辺地区を一周してから水戸に戻ったりと様々です。そんな中私が
体験した最も印象深い奥久慈コースについて以下に記します。
出発地は福島県矢祭町の矢祭山。学校からバスを仕立て移動し、一部生徒は水郡線で現地集合。
出発式を経て、応援団のエールの下、クラス毎に集まり、各々意匠を凝らした幟を立て昼頃に出発。
この応援団、旧制からの伝統の常で、むくつけき 「漢の城」 的な意識を長らく良しとして来ましたが、
女生徒の比率増加に伴い、最近は自ら学ランを着る女性団員も増えて来ました、実際に目にすると、
宝塚よろしく中々凛々しいものです。
序盤は、風光明媚な奥久慈の自然を愛でつつ、時々、直近の模擬テストの解法とか論じ合う嫌味な
奴もいますが、総じていかにも遠足らしい談笑の輪。数kmごとに休止を取っての行軍となりますが、
何せ全校生徒数が一千名少々おり、一列渋滞だと先頭と最後尾が 2kmは空くので、統制の号令も
実行委員のスタッフが無線を介しながらの仰々しいものとなります。
次第に皆の口数が少なくなり、陽が傾いて来た頃、水郡線上小川駅付近の小学校の校庭で中休止。
ここで持参した弁当を平らげ、地元父兄が手伝って、ちょっとした温かい物の差し入れ。これが旨い。
足マメ対策のテーピングなど、めいめいに夜間に備えた対策を施して、二時間ほど休憩します。
そして日没後に出発。温かいものを食べるなどして、ある程度は回復するのですが、水郡線の下り
最終列車を見送った野上原付近から、足の変調を訴える者、ハイになる者が続出します。この頃に
自宅付近を通過した際、 「御町内の皆様、只今、地元の星○○君が通過中です。」 と囃し立てられ、
その後一箇月は近所に顔向けできなかった気の毒な生徒もいました。地元警察が警備に出向いて
下さる一方、週末の深夜という事でファンキーな御兄様方との邂逅もあります。「何だおめら? あぁ、
○○高校の遠足げぇ。こんだ寒い夜に御苦労さんだね。こんな事して楽しいべか? ま、頑張れや。」
(そして 「ゴッドファーザー」 の主題曲を高らかに流しつつ颯爽と去って行く。)
時間を追う毎に過激化する一行は、特定教諭に対する悪口雑言の替え歌や成人ネタ的歌の大合唱、
部活動等の都合で欠席した仲間を 「あん野郎は今頃、枕元に○○本置いて、暖けぇ布団で惰眠を
貪ってるに違ぇあんめぇ !!」 などとコキおろす中傷誹謗でヤケクソ的に盛り上がります。小休止毎に
国道のセンターラインの上に仰向けになる者、地勢を知る地元の生徒に対する 「あと、どれくれぇで
大休止地さ着ぐのげ?」 という質問の嵐、そろそろ限界、もう駄目だ、という頃に、常陸大宮駅近くの
小学校に到着し、クラス毎に教室や体育館で仮眠。教室の黒板には小学生の書いた歓迎メッセージ。
「○○こうこうのおにいさん、おねえさん、おつかれさまでした。あしたもまた、がんばってくださいね。」
「…… 俺達、男子クラスなんだけど ……」 誰かがぽつり。嗚呼、トドメの一言。時は既に午前様。
翌朝未明、スタッフの無慈悲な起床号令がかかります。皆、むさくるしい顔で起き出し、ラジオ体操を
済ませて、いよいよ最大イベント。残り20km余はマラソンです。一位でゴールした者にはラジオ茨城
放送のインタビューという栄冠。当然、体育会系はノルマを課せられるので、必死に走ります。「なお、
1000番丁度狙いなんて低い志でキリ番ゲットした奴は過去いないからな !!」 という教諭の釘刺しに
私を含む少なからぬ輩がギクリとしつつも一同大爆笑。そして午前六時頃、スタート。
必死に走りますが、いかんせん、マメが潰れた足が嘲笑しています。「雑魚君、お先にね ♪」 隣の
クラスの女子集団に抜かれました。ナイスミドルの教諭陣にも集団で抜かれました。教頭先生にも
抜かれました。しまいには校長先生にも抜かれました。校長、定年間際なのに御元気ですねー (泣)
この極限状況ですから、どこを走ったかコースは定かではありませんが、確か那珂川東岸の県道と
記憶します。国際マラソン大会宜しく、沿道の父兄が飲み物を用意して待っていてくれます。ゲットに
三回失敗しました。「ほーんと、あんたらしいドン臭さよね。」 (女房) このコースだと、比較的手前から
水戸の街が見えます。しかし中々着きません。蜃気楼状態です。伴奏していた友人が体調を崩して
リタイア、後続のバスに収容されます。貴様ァ、こんな所でくたばるんじゃない !! 傷は浅いぞ !! さあ、
一緒に水戸へ帰ろう !! (涙声)
最後の最後に 「心臓破りの坂」 を駆け上がって校門に辿り着くと、そこでヘタリ込む事暫し。そこへ
先刻追い抜かれた女生徒集団が 「あら雑魚君、遅かったのね。あたし達もう帰るから。じゃあね。」
股関節の異常で、通常は 10分弱の駅までの道中が、この時ばかりは実に 20分以上を要しました。
その後、常磐線で高萩に帰る友人が疲労困憊で平 (現いわき) まで寝過ごしてしまった事を、誰が
責められましょうか。
(次号予告/大学編 ← え?)