兵庫開港と神戸との関係について
[54297]「兵神市街之図」、
[54322] [54339]兵庫開港の3編を記しました。
関連して、「神奈川」開港と横浜との関係について続けます。
[54340] ezekiel さんの
神戸の場合と横浜の場合との相似と差異とを比較すると面白いだろうなあ~と思います。
の趣旨にも沿うものになるかどうかわかりませんが。
最初に、「神奈川」(実際は横浜)開港の日付から。
日米修好通商条約による「神奈川」の開港日は、条約締結の翌年・1859年の7月4日(米国独立記念日)となっていましたが、続いて締結されたロシア・イギリスとの間の修好通商条約において、切りのよい7月1日開港とされたので、最恵国条項により3日繰り上がりました。当時の暦では安政6年6月2日。
横浜開港記念日は、7月1日(西洋流の日付)だったものが、わざわざ6月2日(日本流の日付)に変更されたのですね。
「兵庫」(実際は神戸)開港は、
[54322]で詳しく記したように8年半後の1868年1月1日。明治になる直前とも言える時期で、この間に、政局も治安の状態もも激変しています。
さて、地形条件に目を向けると、もちろん横浜と神戸とは大幅に異なります。
中世文書に神奈河として現れる神奈川(金川)は、近世には東海道でこの付近で最も大きな宿場町として繁盛していました。
神奈川港もあり、三浦方面の産物を江戸に運ぶ中継地でもありましたが、貿易港としての長い歴史を持つ兵庫津には及ぶべくもない、ローカルセンターという程度の存在でしょう。
神奈川宿と海を隔てた横浜村は、大岡川低地の前面をふさぐ砂洲の上の漁村でした。横浜村の漁師が、対岸の神奈川宿に船で魚を運び、納めていたという関係でしょう。
かつて砂洲の内側に入り込んでいた入り江は、江戸時代後期に干拓されて、横浜新田・太田屋新田・吉田新田などが開発されていましたが、本土との間には水路が残り(派大岡川)、ここに大岡川の分流の中村川が流れ込んでいました。現在の横浜市中区に、太田町1丁目~6丁目、吉田町という名を残しています。
条約文の「神奈川」の解釈を巡って、米国総領事ハリスは、商売上の見地から東海道神奈川宿を主張しましたが、幕府は横浜村を出島化して外国人を隔離しようと対立します(安政6年「神奈川宿本陣対話書【誤記訂正】」)。
結局のところ、幕府は外国側の反対を無視して横浜に開港場の建設を開始し、既成事実化してしまいました。
パークスの賛同
[54339]を経て神戸に建設された「兵庫居留地」とは大きな違いです。
万延元年(1860)、幕府は中村川の川尻から海岸までを直結する長さ580間の堀川を開削。
これによって居留地は、北を海、西を内海(大岡川末端部)、南西を派大岡川、南東を堀川に囲まれた「出島」になりました。
派大岡川の大岡川への合流点の南側にある吉田橋などには木戸門と見張番所が設けられました。
このような関門に囲まれた内側が「関内」、外側が「関外」です。
[54297]で参照した講談社「日本の古地図7」(1976)には、横浜も収録されていますが、安政6年の「横浜御開地明細之図」では堀川が未開削の時代、また文久の頃と思われる「御開港横浜正景(YOKOHAMA CHART)」や「御開港横浜大絵図」では、堀川開削後の島状になった横浜居留地が描かれています。
現代の地図 では、首都高速道路の石川町JCTから海岸までの間が堀川の上を覆い、石川町JCTから桜木町駅の少し南までが派大岡川の跡で、島状の横浜居留地の形がわかります。
【1】 N-H さんのご指摘
[54352]により、“堀川の跡”を“堀川の上を覆い”と修正
Mapionの中心・神奈川県庁の位置には、絵図で「御運上屋舗」があり、その南側・横浜新田の中には、目立って大きく外国人向けの遊郭街(岩亀楼など)が描かれています。現在の横浜スタジアムの位置でした。開港神戸之図にも福原町遊郭がありました
[54297]。
そうそう、
[54297]に、明治13年の地図で“兵庫県庁の海側には「神戸市役所」らしい文字”と書いた部分がありました。実は印刷の解像度が低くてよく読めないものの、この年代には、もちろん「神戸市」ではあり得ません。「神戸区役所」と書くべきところを、誤記していました。
兵庫と神戸の間には、湊川や宇治川があるだけで、神奈川と横浜のように、複雑な地形条件によって隔てられるということはありません。
兵庫開港の時代には、「居留地」とは言っても、警備の厳重な「関内」を作る必要性も少なくなっていました。居留地造成工事の遅れが理由ですが、臨時の措置として「雑居地」が設定され、しかも居留地完成後も既得権として存続を望んだ外国側に応えて混住状態が維持されたくらいです。
「関内」という言葉に象徴される横浜と、特有の「雑居地」を生んだ神戸では、外国文化の流入に違いが生じたはずです。