[66802] [66803] 88 さん
“海上部で各地方公共団体同士は「接している」”というご意見
[66057]に対して、
[66732]で疑問を投げかけたところ、参考文献や国有財産法などを引いて詳細な解説をしていただき、ありがとうございます。
領海の外側である接続水域は対象外ということになりましたが、“内水及び領海は、各都道府県、各市町村の区域に含まれる”という結論は変らないご意見でした。
これまでの対話から、海上に地方自治体の区域はあるか?という問題について、私は「地先の海」と「海洋」とを区別してみたらと考えるようになりました。
ここで「海洋」とは、“海洋(「地先の海」を除く)”という意味で、便宜上括弧を付けて表示しました。
いわば「陸の視点」と「海の視点」により、取り扱いが区別されるという考えです。
実は
[66057] 88さん の問題提起は、領海・接続水域といった「海の視点」からの制度を根拠とするものでした。
これに対する
[66732]hmtも、同じく海の視点での疑問を呈したつもりでしたが、文中に地方自治法第5条という「陸の視点」からの発言が混ざっていました。
そこから88さん の得意分野に移ってしまい、
[66802]で「陸の視点」の代表的な見解を示されたわけです。
地方自治法には、地方自治体の区域が海上に及ぶか否かについては明記されておりません。
しかし、「陸の視点」からして、地方自治体の区域が内水及び領海に及ぶ「場合がある」ことについては私も否定しません。
例えば
[66732]で及した海水浴場。このような「陸地に接続した海面」は、地理的には 満潮時水涯線より先の「海」ですが、社会的には 「いわば陸地の付属物」です。
そのようなわけで、「逐条 地方自治法」の下記の記載は、特に違和感なく受け入れることができます。
市町村の地先の水域等は、やはりその区域に含まれるものとして取り扱うことが適当である。
落書き帳の過去記事で「地先」を検索すると、“住所未確定の場所を表す”とありました
[19985]。
多数の具体的な事例中には、「木更津市中島地先海ほたる」
[46757]という、○○地先△△形式もありました。
香川県宇多津町にあるという「海底の私有地」という記事(
[19987]太白さん)も、興味深い事例でした。
「地先」という言葉は、このように土地の延長・付属物の性格をもち、土地の表示に「地先」という言葉を加えて、「その付近」であることを示しています。
参考
地先漁=海岸から見える程度の沖での漁(大辞林)という用法もあります。
最初に示していただいた、地方公共団体成立の三要素のうち、場所的構成要素と人的構成要素とは、“その一定の区域内に住所を有する者”というように、相互に関連した存在です。
さて、「海」はそこに“住所を有する者”(定住者、住民)が現れる可能性のある地域でしょうか?
浅い海中には、厳島神社の例が示すように建築が可能です。このような海ならば、定住者が出る可能性があります。
例えば沖ノ鳥島環礁内には、人工地盤上に3階建ての建物を含む
気象観測基地 があります
[26266]。但しこれは無人。
外国ならば、海上集落の例があります。大東亜戦争の激戦地ホーランディア、現在は
ジャヤプラ(西イリアン) は 湾口の砂嘴の先端にあります。その他にも、よく似た水上集落がいくつかリンクされています。
埋立てによる土地造成(地方自治法第九条の四)が可能性な海面も、住民が現れる可能性があります。
このように、自治体を構成する人 の定住地ないしは定住的社会活動の場となり得る「地先の海」については、「地理的」には海であっても「社会的」には陸に準じた扱いをして、自治体の区域と認めることは妥当と思われます。
「逐条 地方自治法」に示された見解によると、
市町村の区域は、(中略)その地域に接続する領海及び上空、地下に及ぶと解されている。その限度は自治権の及び得る範囲である(行判昭12.5.20)。
とのことです。
限度として示されている“自治権の及び得る範囲”とは、海上の場合、例えば自治体構成住民による定住的活動の及ぶ範囲、平たく言えば“地先漁”という言葉に示された海岸から見える程度の沖、少し広く解釈しても 住所から日帰り仕事のできる「地先の海」 という程度の範囲の海と解することができるのではないでしょうか。
昨年制定された
海洋基本法 の第二十五条では、陸域の活動に起因する沿岸の海域の諸問題に注目し、沿岸域の総合的管理につき規定しています。
[66716]で言及した閉鎖性海域は、そのような陸地の影響の大きい海の一例でしょう。
「地先の海」は、このような総合的管理の面からも、陸上の地方自治体との関係を明らかにしておく必要が生じてくることでしょう。