[110053] スカンデルベクの鷲 さん
国土地理院HPによると、独立標高点の高さ精度は、3.3m以内(標準偏差)と案内されています。これに基づくと、標高点の値を信じてよいかどうかはともかく、佐久島における約4メートルの誤差も、大きすぎるということはないのではないかと思います。
高さ精度
ズームレベル15~17に記載の独立標高点の高さ精度は、3.3m以内(標準偏差)となっています。また、ズームレベル15~18に記載の等高線の高さ精度は5m以内(標準偏差)となっています。
そこの文章を見落としていました・・・というか、標高点の誤差の余りの大きさに衝撃を受けました。となると航空レーザ測量や写真測量の方が信頼が高いということになるのでしょうか?まあ三角点が近所にあるかどうかで状況が変わるのでしょうが・・・
一応誤差をまとめると以下の通りとなるようです。この内水準点は主要街道沿いなどに置かれるので余り山の標高とは関わり合いがありません。DEM1Aも山間部では本とんど測定されず、関係あるのは三角点、標高点とDEM5A以下です。
種類 | 高さ精度(標準偏差) |
1級水準点 | 0.002 m |
2級水準点 | 0.005 m |
3級水準点 | 0.001 m |
4級水準点 | 0.002 m |
簡易水準点 | 0.04 m |
DEM1A格子内に航空レーザ計測点がある場合) | 0.03 m |
三角点 | 0.1 m |
DEM5A(格子内に航空レーザ計測点がある場合) | 0.3 m |
DEM5B | 0.7 m |
DEM5C | 1.4 m |
DEM1A、5A(格子内に航空レーザ計測点がない場合) | 2.0 m |
DEM10A, 火山基本図の等高線 | 2.5 m |
標高点 | 3.3 m |
DEM10B, 地形図の等高線 | 5 m |
今改めて北海道、本州、四国、九州、沖縄島の本土五島の最高点付近の標高点、三角点、基盤地図情報による最高点の標高を調べると、以下の通りです。
島 | 三角点 標高 (m) | 三角点種類 | 三角点名 | 標高点 標高 (m) | 山名 <山頂名> | 標高点と三角点の 水平距離 (m) | 基盤地図情報の 最高点標高 (m) | 数値標高 モデルの種類 | 最高点 の場所 |
北海道 | 2,290.93 | 一等三角点 | 瓊多窟 | | 大雪山<旭岳> | 0 | 2,290.6 | DEM5A | 三角点近傍 |
本州 | 3,755.51 | 二等三角点 | 富士山 | 3,776 | 富士山<剣ヶ峯> | 17 | 3,774.4 | DEM5A | 標高点近傍 |
四国 | 1,920.94 | 三等三角点 | 石鎚山 | 1,982 | 石鎚山<天狗岳> | 810 | 1,975,1 | DEM5A | 標高点近傍 |
九州 | 1,788.50 | 一等三角点 | 久住山 | 1,791 | くじゅう連山<中岳> | 875 | 1,789.7 | DEM5A | 標高点近傍 |
沖縄島 | 498.00 | 一等三角点 | 与那覇岳 | 503 | 与那覇岳 | 116 | 502 | DEM10B | 標高点近傍 |
この内、現時点で問題ないのは、標高点が置かれていないもののの、三角点が事実上の山頂となっている北海道大雪山旭岳です。三角点の標高も基盤地図情報の標高も四捨五入すればどちらも2291メートルとなります。
他の四島はいずれも三角点と標高点が異なり、また基盤地図情報による最高点が標高点に近いにも関わらず、標高点の標高よりもやや低い傾向があります。
まずは富士山。富士山の標高点は実のところ測定点でもありますので、ここは標高点の数値の方が信頼できるはずですが、実のところ富士山の標高点の標高としてしばしばネット上にみられる「3776.12メートル」の公的なソースが見つかりません。ただ詳しく調べると、まず富士山の標高点に関しては、
国土交通省中部地方整備局富士砂防事務所の公式サイトに以下の記述があり、富士山の標高点の標高が測定されたのは平成3年(1991年)のことであることが分かります。
富士山の高さは一般に3,776mと言われていますが、剣が峰の最高点の標高は平成3年の測量成果(国土地理院)によると3,776.24mです。(又、剣が峰近くの二等三角点の測定結果は3,775.63mです。)
国土地位院のホームぺージによると、その後富士山には2002年9月12日付で電子基準点が設置されています。その電子基準点は標高点の位置に建てられており、電子基準点の標高(アンテナ底面)は3777.5メートルということになります。電子基準点は地面に3メートルほどの高さの棒が突っ立てられるため、実際の地面の標高よりもアンテナ底面は2.5メートルほど高くなります。
一方国土地理院は全国の三角点の標高を水準測量に整合した体系とするため、平成26年(2014年)4月1日に三角点の標高成果を改訂しています(
基準点成果等閲覧サービスでは2014年3月13日付で一斉に改算されています)。その結果富士山の三角点は、3,775.63メートルから3,775.51メートルと、12センチ低くなっています。どうやら3,776.12メートルという数字は平成3年に測定された標高3,776.24メートルを、平成26年の標高改算によって12センチメートル低くなったため、それに併せて12センチメートルを減じて得た数字のようです。
現在の富士山の三角点自体は、「
富士山の高さ」(地質ニュース, 2003, (10), pp. 23-50)によると、
12) 富士山山頂剣ヶ峰の二等三角点「富士山」も設置後30年あまりを経て,第11図のとおり周囲の岩石が崩れ,標石の大部分が露出する状態になってしまいました.そこで昭和37年9月に改埋(第12図)しました.改埋は,再び崩れるおそれがない高さまで低くして標石を埋め直すのが普通で,「低下改埋」といいます.これは,標石の水平位置を変えずに高さだけ低くする方法をとります.しかし日本一の富士山の標高3,776mの変更について,当時の報告書は「内外国に与える影響が大きいため,m単位にて現成果を維持出来る様に66.2cmの低下をし,3775.628≒3776mとした」とあり,低くした標石の周囲に石を積み,貴重な水でコンクリートを練って固め,3,775.63mという値に収めたことが伺い知れます.
以上、大雑把に富士山の山頂標高が3776メートルとなった1926年以降の標高の改訂の歴史をまとめると:
西暦 | 三角点 | 標高点 | 電子基準点 (アンテナ底面) | 電子基準点 付属標 | 備考 |
1926 | 3,776.29 | 3,776.44 | | | 関東大震災の地殻変動を受けての復旧測量で、山頂は15センチ三角点よりも高い |
1962 | 3,775.63 | 3,776.44 | | | 三角点の改埋による測量(3,775.628m) |
1992 | 3,775.63 | 3,776.24 | | | 標高点の測定 |
2002 | 3,775.63 | 3,776.24 | 3,777.53 | | 電子基準点設置(9月12日)※ |
2003 | 3,775.63 | 3,776.24 | 3,777.53 | 3,775.02 | 電子基準点付属標観測(8月17日)※ |
2014 | 3,775.51 | 3,776.12 | 3,777.41 | 3,774.90 | 三角点改算(三角点は3月13日付改算、電子水準点は3月20日付改算、プレスリリースは4月1日付改算) |
※電子基準点設置当時のプレスリリースでのアンテナ面の標高の公表値は3,777.5メートルと小数第一位まで。また電子基準点に付属標が取り付けられたのは2003年のことだが、その時はプレスリリースが出ていないため、2002年と2003年の電子基準点関連の標高は2014年の改算後の数値から逆算(【訂正はほぼすべて富士山の電子基準点がらみについて】)。
調べてみると、富士山の三角点は、最後に改測されたのが1962年と結構前のことで、2014年はあくまでも数値の改算です。標高点も1992年に測量されたのが最後で、2014年は三角点の改算による数値の改訂です。ただ、富士山の場合は電子基準点があるので、航空レーザ計測によるDEM5Aもそれなりに正確になるはずです。にも拘わらず、標高点付近のDEM5Aによる最高点の標高は3774.4メートルに留まっています。DEM5Aが建物と地面を識別するアルゴリズムに問題があるのかどうかは分かりませんが(電子基準点の柱のせいで、三角点や標高点付近の地面の標高が低く見積もられてしまっている?)、DEM5Aはある程度地面を平均化してしまい、狭い範囲での極大値を出すことができないのかも知れません。
沖縄島の与那覇岳の場合、標高点は三角点から116メートル離れていますが、DEM10Bによる最高点は、標高点の近傍で502メートル。ただDEM5Bは標高点よりも誤差が大きいので、標高点の標高503メートルで問題ありません。
残るは四国の石鎚山天狗岳と、九州のくじゅう連山中岳です。どちらも三角点から800メートル以上離れた位置に標高点が設置されており、標高点の誤差も大きそうです。くじゅう連山中岳の場合、DEM5Aによる最高点の標高が1790メートル、標高点による標高が1791メートルです。まあ誤差範囲ですが、富士山の事例を見るように、DEM5Aの方が実際よりもやや低く見積もられる原因があるようですので、標高点の1791メートルを最高点として問題なさそうです。
そして問題となるのが四国の石鎚山天狗岳です。実は石鎚山の場合、天狗岳のほかに南尖峰もまた標高1982メートルで、メートル単位での標高点が2箇所あります。一方
DEM5Aを利用すると、南尖峰の方が1974.9メートルとやや低く、天狗岳の方に1975.1メートル地点を見つけることができます。まあそれよりも、1975メートルという数字が標高点の標高とされる1982メートルに比べて7メートルも低く出ている点です。DEM5Aの標準偏差が2.5メートル、標高点の標準偏差が3.3メートル、かつDEM5Aがやや低めに出る傾向があるとしても、7メートルも違うとなると、標高点とDEM5Aのどっちを信じた方が良いの?という問題が出てきます。
まあ取り留めもなく書きましたが、今のところDEM5Aの最高点の標高が近傍の標高点の標高を下回ることの方が普通で、DEM5Aの最高点の標高が近傍の標高点の標高を上回ることの方が希(今のところ125箇所ほど調べて、三角点が最高点なのが約50箇所、標高点が最高点なのが約30箇所(これらはすべてDEMの方が低く出ている)、三角点近傍にDEMによる最高点が存在するのが25箇所、標高点から離れた位置にDEMによる最高点が存在するのが16箇所、標高点の設置されていない三角点近傍に最高点が存在する(佐久島や大黒島などのケース)が3箇所)な点です。「標高点の方が極大値を正確に判定できている」、しかしながら「DEM5Aの方が標高点よりも誤差が少ない」となると、標高点による標高とDEM5Aの最高点による標高に大きな違いが生じた場合、今後は何も考えずに両者を比べてより高い方を採用するという方が正解かも知れません。