今回のシリーズで最初に使った言葉は、「昔あった市町村」でした。
市区町村変遷情報【以下 変遷情報】
トップページには、市制町村制施行時の情報数 15335という数字が記されています。現在は 790市745町183村、合計1718 (
合併資料集)ですから、127年間に1万3千以上の市町村が廃止されたものと推測されます。
四文字熟語「廃置分合」。その冒頭にも「廃」という文字が使われています。
ところが、現実の
変更種別 では、「廃止」が使われていません。
その最大の理由は、「廃止」という言葉が 他の変更種別の説明中で使われており、大部分の廃止は その種別に該当するから「敢えて 廃止という結果を強調する 必要がない」からです。
新設 新設合併(合体):二以上の市町村を廃止し、その区域をもって新たな一の市町村を置くこと
編入 編入合併(編入):ある市町村を廃止し、その区域を他の市町村の区域に加えること
分割 ある市町村を廃止し、その区域を分けて二以上の市町村を置くこと
例えば、
変遷情報 長野県 の 1957(S32).3.31 の記録
# | 変更種別 | 郡名等 | 自治体名 | 変更対象自治体名/変更内容 |
179 | 編入 | 東筑摩郡 | 明科町 | 東筑摩郡 明科町, 北安曇郡 陸郷村の一部 |
180 | 編入 | 北安曇郡 | 池田町 | 北安曇郡 池田町, 陸郷村の一部, 広津村の一部 |
181 | 編入 | 北安曇郡 | 八坂村 | 北安曇郡 八坂村, 広津村の一部 |
182 | 編入/新設 | 東筑摩郡 | 生坂村 | 東筑摩郡 生坂村, 北安曇郡 陸郷村の一部, 広津村の一部 |
北安曇郡陸郷村と同郡広津村とが3分村された処分ですが、その変更種別はすべて「編入」となっており、この2つの村が「廃止された」ことを示しています。
これと対照的なのが、
変遷情報 福井県 1955/7/15 の記録です。
# | 変更種別 | 郡名等 | 自治体名 | 変更対象自治体名/変更内容 | 詳細 |
89 | 境界変更 | 坂井郡 | 金津町 | 坂井郡 金津町, 芦原町の一部 | 詳細 |
90 | 境界変更 | 坂井郡 | 三国町 | 坂井郡 三国町, 芦原町の一部 | 詳細 |
「詳細」ページには 境界変更処分の対象地名が記されています。その他の地名は記載されていませんが、実際には芦原町の大部分が そのまま残りました。
処分後も「芦原町が存続こと」は、変遷種別【「編入」でなく「境界変更」】により分かります。
もちろん、2004年「あわら市」の新設/市制情報でも、それまで芦原町が存続していたことが分かります。
[90584] 桜江村は、このような「変遷情報の読み方」を踏まえた上て、下記解釈も可能な例外的な事例であったことを示したものでした。
桜江村の一部→江津市の処分については、境界変更であるから、この時には桜江村が存続していた。
しかし、【同日だが】その後で旭村の「新設」という順序であったのならば、桜江村は那賀郡4村と共に消滅した可能性がある。
…と、ここまで いかにも「変遷情報の読み方」が分かっているような姿勢で書いてきました。
しかし 過去記事を見たら、当時の自分は理解不足で、読み方を誤っていたことが露呈されていました。
2年前に書いた
[85089]。この時は志紀町新設と美笹村への編入が行なわれた埼玉県内間木村が「廃止されたのか【中略】残っているのか不明」であると誤解して、「内間木村の廃止」という結果を、「その原因である編入や新設とは別情報として 明記しておく」ことを提案していました。
「変更種別の詳細説明」をよく読めば、美笹村への「編入」という処分は、自治体の廃止を伴ったものであり、廃止されたのれは内間木村以外にはあり得ない と解釈することができた筈でした。
反省を込めて、自らの誤解原因を明らかにし、皆さんが変遷情報を正しく読む資としたいと思います。
言い訳ですが、「編入」という言葉に「2つの用法がある」ことを 意識していなかったことが原因 でした。
一般的な用法:
団体や組織などに後から組み入れること。「編入試験」、「市に編入する」(大辞林)
地方自治法第六条第2項を見ると、「市町村の区域に編入」という用法は、廃置分合・境界変更を問わずに使える一般的な言葉であると理解できます。
しかし 地方自治分野の専門家たちが使う 業界用語 としては、次のような慣行があるように思われます。
「編入」という言葉は 廃置分合 の一種である 編入合併 に限定して用いる。
市町村の廃止を伴わない部分的な組み入れは「境界変更」として、「編入」と区別する。
# 境界変更であるか否かを決める市町村廃止の有無は、境界を変更する市町村だけでなく、同一告示に現れる市町村の範囲内で判断される。例えば
[90585]において、#2は旭村新設で廃止される村があるので、組み入れられるのが 桜江村の一部に過ぎないものであっても、「境界変更」として告示に現れることはない。
同日の#4は別の告示であり、桜江村の一部組み入れということでは同じであるが「境界変更」になる。
このような仕組みになっているので、変遷情報における「編入」とは 最初に引用したように
ある市町村を廃止し、その区域を他の市町村の区域に加えること
という意味で使われていたのでした。