県境などの行政境界線や区域を公式に定めるのは、何かを管理する「目的」に応じたものだということを記しました
[66510]。
このような境界線を、自己責任で「目的外」に利用することは、もちろん差し支えありませんが、不都合が生じるかもしれないことは心得ておくべきでしょう。
わかりやすくするために、実際にはあり得ないような極端な「目的外利用」の例を挙げます。
土地は、1筆毎に境界線で囲まれ、「地積」があります。この地積を積算すれば、市区町村の面積、ひいては「日本の面積」が算出できるだろう…と思うのは、誤った考えなのですね。
個々の地積の不正確さもさることながら、「登記のない土地」(「無番地」)が存在するわけです。
[48795] 88 さん
もともと、不動産登記法は“国民の権利(財産権)の保全”を目的とした法律ですから、「公共用」である国有財産は対象外というのが建前です(土地台帳法44条)。このような法律の趣旨を無視して、「目的外」である日本の面積の算出法に使おうとすることが、本質的な誤りなのです。
市区町村の面積、ひいては日本の面積に関する公式資料としては、国土地理院が地形図からの計測に基づいた
「面積調」 を毎年発表していることはご承知の通りです。
しかし、これは毎年10月1日現在の面積を翌年2月1日に発表するわけですから、例えば新潟市に新設された区の面積を即日知るわけにゆかず、グリグリさんが苦戦することになります
[57516]。
なお、市区町村面積の増減については、“官報または県公報等により告示された境界変更や埋立による異動面積値について関係都道府県に照会し、確認された値をとりまとめたもの”とされており、国土地理院でも、一部は地形図計測データでなく、他の行政データを転用するケースがあります。
[57480]で例示した関空2期の場合は、不動産登記法36条により申請する「新たに生じた土地」の地積を「目的外」に利用したものであろうと思われます。
一方、摩周湖の場合
[57433]は、宮内庁によって減失登記
[57441]がなされても、無登記の公有水面として国の管理下にあるので、弟子屈町の面積には影響がないはずです。
掘り込み港湾の場合、
[57441]88 さんは、
「掘り込み工事→土地の滅失登記→土地でなくなる→住所がなくなる(面積から除かれる)」
とお考えですが、国の管理下の公有水面(陸水部)ならば、土地登記・住所の消失が、国土面積からの除外に直結することはないと思います。
事例が適切だったかどうかわかりませんが、法律というのは、その目的に応じた適用対象を持つということで、法律の定義を「目的外」の他分野に使って、適切な結論が得られるとは限らないことに注目したかったわけです。
このシリーズで最初
[66487]で言及した東京港における「港湾区域」とか「河川区域」とかいうのも、それぞれの法律の目的とする港湾管理、河川管理の必要に応じた区分です。
なお、港湾と河川とが重複することは、たしかに「河港」(
[66499] にまんさん)の存在を考えれば自明でした。
海岸法も含め、法律的な区別を落書き帳のような「法律の目的外」の話題に適用すべきかどうかは、ケースバイケースです。
[66488]でも書いたように、東京臨海部の運河地帯が「河川」の対象になっていないのは、普通の地理的感覚と相違します。
江東内部河川…の対象として…おおよそ越中島-須崎の線よりも北にある河川が挙げられています。
言い換えればそれよりも南、汐浜運河・豊洲運河など「○○運河」いう名の水路は建設局の「河川」ではなく、「海」を扱う港湾局の管轄区域であることになります。
東京都の基準によれば、臨海部の「○○運河」は海ということになります。
これは普通の地理的感覚とはかなり違いますが、この基準ならば、「海上架橋」は大幅に増えます。
東京都は「○○運河」を積極的に「海」だと言っているわけではないので、これは少し言いすぎだったかもしらませんが、「河川」として管理しない運河は「海扱い」なのかと思った次第です。
なお、この文中「須崎」は「洲崎」の誤記です。
1969年に地下鉄駅ができて知名度抜群の存在となっている「東陽町」の方がわかりやすかったのですが、いかにも海岸であることを示している「洲崎」という地名を使ったら、誤変換を見逃してしまいました。
「洲崎」で検索すると、館山の地名と共に東京の地名に関する
記事 も登場。現在の「東陽町」と同様に交通の要衝で、その関係が多いですが、1958年まで存在した遊郭にも言及されているところはさすが落書き帳。
江戸時代のごみ埋立により現在の永代通りまで南下していた海岸線は、近代になってからも南下を続けます。
洲崎の湿地(現在の東陽一丁目)が埋め立てられて遊郭になったのは大正時代。
初期のプロ野球に使われた洲崎球場は、水浸しコールドゲームという珍記録もあったとか。
東京港の黎明期には現在の汐浜運河が海岸線だったことを考慮すれば、
[66488]のように海上架橋に
汐浜橋 が含まれるのも一応の裏付けがあるわけです。
しかし、完全に埋立地の内部になった現在では、“陸でなければ海”という単純な図式でなく、「運河地帯」というの境界領域の存在を考えるべきなのかもしれません。
河川関係以外にも、「目的外使用」のために地理的感覚と合わない結果を出した事例が過去にありました。
国連海洋法条約の「至近距離」という言葉に釣られた、直線基線に基づく近接候補の提示
[66032]が、その例です。
公海と区別された領海の起算を目的とする直線基線を、国内の都道府県の近接判断に使うのは、まさに「目的外」。
静岡・三重、高知・宮崎、石川・新潟の3組は、直線基線で結ばれていても相互を結ぶ航路もなく、これを県の近接と言うのは、いささか無理な感じがします。