[50529]hmtで、「全国市町村要覧」において、平成16年版まで「まなつるまち」になっていたものが、平成17年版から「まなづるまち」に改められたことを示しました。
この記事を書いた当時の私の考えは、
(1)地方自治体の「名前」やその読み方は国(自治省→総務省)が官報により公示している。
(2)「全国市町村要覧」は国による公示を反映している。
という一般論を前提として、個別的には上記「まなつるまち」→「まなづるまち」について、
(3)真鶴町は昭和31年の合併告示で「まなつるまち」と公示され、平成16年度までそれが継続していた。
(4)国は最近になり、地元からの訂正依頼を受けて、「まなづるまち」へと訂正の公示をした。
という推測を立て、これを裏付ける官報の記事を期待して、検索をお願いしたという事情になっております。
ところが、
[50623] 花笠カセ鳥 さん の記事により、昭和31年の合併告示のイメージ表示は字が細かすぎて判別が困難なものの
テキスト表示では(中略)「まなづる」になっています。
とのことで、まず(3)が否定されました。(調査ありがとうございました。)
そして、“官報の正誤表を調べていませんので”という注釈はありますが、最近(平成16年度)の訂正に関する官報記事もなかったのだろうと思われます。つまり(4)も否定。
更に、
[50649] スナフキん さん により、
市町村要覧の冒頭…には平成17年4月に各都道府県に照会したとあります。つまり問い合わせ先は国の機関たる総務省ではなく地方に直接問い合わせた、ということです。
というわけで、(2)も否定。
「全国市町村要覧」なのに、照会先が「市町村」でなくて「各都道府県」であるというのも不思議な気がしますが、それはともかく、
神奈川県のHP では、「まなづるまち」としていることが確認できます。なぜか国際課。
さて、このように(2)(3)(4)を崩されてみると、(1)として記した「国による一元管理」も怪しくなります。
そこで地方自治法を見ると、“普通地方公共団体の名称は、従来の名称による。”“普通地方公共団体の区域は、従来の区域による。”
なるほど、都道府県にしても市町村にしても従来の「名称」と「区域」を引き継いでいるわけであり、新たな公示の機会がなかった地方公共団体を含めて、すべての都道府県市区町村の名前、表記法、読み方が、国によって管理・公示されているわけでもないように思われます。
以前使われていた表記が現在のものと異なる極端な例が
巖手 です。
[36083]には、埼玉、群馬、栃木についても現在と異なる表記がなされていたことを記しています。
これらの名前は特別な変更手続なしに、「いつの間にか」現在の表記が定着するようになったようで、「巖手県」ではなく「岩手県」の形で現行法に引き継がれたと思います。
余談: (地方公共団体ではないが)「巌手郡」は中選挙区の区割(1950)に生き残り。
[35710] Issie さん
なお、現行法では都道府県の名称変更は法律によるものとなっているので、長野県→信州
[23441]を実現するのはハードルが極めて高く、せいぜい「信州知事」の名刺
[25624]を作る程度でしょう。
「巖手県」は少し古い事例でしたが、最近話題になった「ケ」と「ヶ」の表記問題もあります。
[48444] Hiro(&TOKO) さんによると、鎌ケ谷市の回答には
「鎌ケ谷」、「鎌ヶ谷」を統一することは困難であり、標記の定めがない以上、市役所以外の方々に指導することもできませんが、市役所内においては、「鎌ケ谷」の標記に統一するよう職員に指導しているところです。
とあるそうです。
引用文に“標記の定めがない以上”とあるのは、「ケ」と「ヶ」は“公式には同一視される”(この言葉も曖昧ですが)ことを意味しているのでしょうか?
鎌ケ谷市の歴史 の一番下に見える「鎌ヶ谷市役所」という看板の写真(
[187] M.K.さん)からすると、1971年には、市役所自身が「鎌ヶ谷」を使っていたことになり、「鎌ケ谷」へと変えてきたのは、比較的近年のことと思われます。
「巖手県」→「岩手県」ほど極端な例ではないにせよ、非公式な表記変更は、現行地方自治法の下でも進行していることになります。
ところで、現行地方自治法の下では、市町村の名称変更は条例で定め、知事の許可、国への報告、告示等の手続きが定められております。これが(1)で記した「国による公示」の根拠です。
但し、「名称変更」とはどこまでなのか不明です。表記の変更と言っても旧字体から新字体への変更、例えば廣島市→広島市は含まれず、「ケ」と「ヶ」も区別されないのでしょう。
ましてや真鶴のように「読み方」に清濁の違いが現れる程度の違いは「どうでもよいこと」のようにも思われます。
もともと「読み方」が「市町村の名称」自体に含まれているのか否かも疑問があります。
一方では、官報の告示文の中に「読み方」が明示されている例も多く、その効果はどのようなものなのか、気になります。
これは、正式の読みを公示するという性格ではなく、サービスないしはガイドラインとして、代表的な読み方を示したものなのかもしれません。
名前なんてものは、もともとは他と区別するための符牒です。
げんみつ姫
[19319]にとっては耐え難いことかもしれませんが、
塩竈市 では、「塩竈」と「塩釜」の両方共に使用を認められているそうです。
「竈」は「釜」を加熱するための「かまど」であり、明らかに異なる文字だと思うのですが、公式の「竈」の字を強制して、少しでも違うものを拒否していたら、市役所は仕事にならないのでしょう。
最後に、また真鶴町の読み方に戻ります。
[50529] hmtにおいて
真鶴町HPでは、…最近になって呼称を変えたという記事は見当たりません。
と書いたのですが、よく調べたら、行政情報>行政改革の中に、「行革15・16年度結果、17年度計画(PDF:103KB)」という文書があり、そのB-2「組織・機構の随時見直し」の中に次の項目がありました。
町の正式名称:読み方を「まなつる」から「まなづる」に変更
平成13年中の取り組み:検討継続(メールアドレスのローマ字標記をMANAZURUで決定)
ところが、平成14年度以降の取り組みや成果につて、それらしき記載がありません。
そして平成17年度から前記のように「全国市町村要覧」が読み方を変更。
県や国と相談しているうちに、この程度ならば「正式名称の変更」などと固く考えないでも、「実質的に変えてしまえばよい」ということになったのかもしれません。
「よく見えないところで、いつの間にか変っていた」という状態は、スナフキん さんのような仕事の方にとっては迷惑なのかもしれませんが。