[9024] start さん
よく地図帳のメルカトル図法の世界地図でで日本から見た方角の線が引かれているものがありますが、
地図の世界から話をすれば,この場合,見てる世界地図が適当ではありませんね。
「方位」について,地図の世界では次のような定義があります。
(1) まず,方位を判断する基準となる点を設定する。
(2) その地点を通り,両極を結ぶ線の走る方向が「北」もしくは「南」であり,この線を「
子午線」とよぶ。また,これは「経線」と同じものである。
(3) この「子午線」または「経線」と直角に交わる線が「東西」に走る線である。
(4) ただし,地球表面は平面ではなく,地球は「ほとんど球に近い」立体である。
(5) したがって,基準点において「子午線」と直角に交わるように地球を分割する線は無数に存在し得る。
(6) ところが,地球中心を通るようにして地球を完全に2分割する割り方(切断面)は1つしかない。この場合の切断面と地表面の交点を結んだ線を「大円」と呼ぶ。
(7) そこで,ある基準点について「東」および「西」の「方位」を表す線は,
「子午線(経線)に対して直角に交わる“大円”と地表面の交点を結んだ線」
と定義される。
これは「東西」の方位線以外でも同様。
要するに,基準点に対してある「方位」を示す線は,地球中心を通り地球を2分割する「大円」をつくる線でなくてはならない。
…というわけです。
「緯線」でもって地球を輪切りにした場合,その切断面が地球の中心を通り地球を完全に2分割できるのは「赤道面」でもって輪切りにした場合のみです。
だから,「赤道」すなわち“緯度0度線”のみは線上の任意の地点に対していつでも「東西」を結ぶ線たり得ますが,それ以外の緯線はどれも「東西」を結ぶ線となることはできません。
ただし,これはあくまでも「基準点に対して」の「方位」です。
たとえば東京を出発点に「東」の“方位”へ向かうとしましょう。
この線は東京を出発した瞬間は,東京を通過する子午線(経線)に対して直角に交わっています。ところが一歩,東京から「東」へ向かったときから子午線との角度は“直角”ではなくなります。
出発点が北半球である場合,「出発点に対して東の方位」に進むにしたがって子午線との間の角度は徐々に変化し,途中の通過点では「南東」へブレてゆきます。そしてそれは赤道を越えるときに最大となる。南半球に入ると徐々に「東」へ戻り始め,出発点のちょうど裏側(対蹠点)で再び子午線に対して直角に交わるようになります。
これが東京ではブエノスアイレスの東沖合い,ということになるのですね。
この関係を平面上で「正しく」表現するために工夫されたのが「正距方位図法」と呼ばれる投影法です。この図法による地図であれば,“地図の中心点”に対する地図中の任意の地点への距離と「方位」とが正しく表現されます。ただし,地図の中心点以外ではいかなる情報も正しくありません。
こうして引かれた「方位線」は,その線上の2地点間を最短距離で結ぶ線でもあります。「大圏航路」とも呼ばれます。
ところで,地球を一周する「経線」で地球を輪切りにすると,地球の中心を通り地球を完全に2分割することができます。つまり,経線はすべてが「大円」を作る線であり,したがってこの線は常に経線上の任意の点に対して「南北」を結ぶ「方位線」たり得ます。
けれども,ここまでの説明は私たちの通常の感覚からはかなりズレたものですね。
現に私たちは方位磁石を見つつ「東」の“方角”を確認しながらまっすぐに進もうとします。
こうして進む針路も「直線」ではあるのですね。しかしこれは出発点に対する「東」の“方位”へ向かう直線とは別のものです。
地球表面を通り,経線に対して直角に交わる「直線」が複数存在し得るのは地球表面が曲面であるせいです。
ともかく,磁石の針を見つつ“北に対して右90度”つまり「東」の方角へ針路を維持して進んでいけば,同じ緯線上の目的地へ到達することができます。
これは「真東」だけでなく,“北に対して右45度”つまり「北東」でも,“北に対して左135度”つまり「南西」でも同じです。
この理屈に基づく航海法を「等角航法」とよび,羅針盤(方位磁石)の普及とともに発達しました。そして,このときの針路(等角航路)を常に直線で表すことができるように工夫された地図が「メルカトル図法」の地図でなのです。
しかし,この地図では子午線(経線)に沿って南北に移動する,あるいは赤道上を東西に移動するとき以外の大圏航路,つまり2地点間の最短距離線および「方位線」を直線で表現することはできません。
それもこれも,大地が平面ではなく,地球が丸いせいです。
「西に10km移動する」というのは緯度を変えずに移動するのとは違うので、
北極点からスタートすると少しずれた位置にゴールするのではないでしょうか?
ですから start さんのこの疑問は正しいのです。
厳密に言えば,北極点からスタートしても完全に元の位置に戻ってくることはできないでしょう。
…とは言っても,「西へ10km」程度ではほとんど無視してかまわない程度の誤差であろうと思います。
日常生活の中,たとえば20万分の1地勢図1枚分程度の範囲では私たちはこのようなズレを気にする必要はほとんどないと思います。
けれども定規を地図の上または下の輪郭線に当ててみればわかるように,この大きさですでに「方位線」を“東”へ向かう場合と「緯線」にそって“東”へ向かう場合のズレは生じています。
図郭の左上・北西隅を基準にして左側つまり西側の図郭線(経線)に対して直角な線を右へ引いてみましょう。徐々に上の図郭線つまり北側の「緯線」から離れていくことに気づくでしょう。
これが「緯線」と「方位線」のズレです。
これが積もり積もって,「東京の東」が赤道を越えた地球の裏側,ブエノスアイレス沖になってしまうのです。