[78832]で挙げた2つの問題のうち、明治21年法律第1号「市制町村制」に基づく「制度」に関する本論です。
市制町村制理由 33コマ右62頁の9~13行目の記載【適当に句読点と改行を入れました。】
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本制に制定する市町村は 共に最下級の自治体にして、市と云い町村と云い 都鄙の別に依て其名を異にするに過ぎず。其制度を立つるの原質に於ては 彼此相異なる所なし。
元来 町と村とは 人民生計の情態に於て其趣を同くせざるものありて、細かに之を論ずれば 均一の準率に依り難きもの なきに非ずと雖も、本邦現今の状況を察し 旧来の慣習に依て 之を考うるに、都会輻輳の地を除くの外、宿駅と称し町と称するもの、施政の大体に於て村落と異同あることなし。
故に 今之を同一制度の下に立たしめんとす。
其施治の細目に至っては或は多少の差異を見ることあるべしと雖も、此等は制度の範囲内に於て、執行者の処分斟酌宜しきを得ると否とに在る可きものとす。
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細かく見れば町と村との暮しは違うが、宿駅とか町とか言っても、施政の大体は村落と変わらないから、同じ制度を適用する。
「制度」として存在するのは、【都会輻輳の地を除けば】「町村制」だけ。
“宿駅と称し町と称するもの”とあるので、制度の名は「町村制」であっても、その対象とする「自治体の呼び名」は、「村」と「町」に限らず、「宿」や「駅」も許容されている と理解することができます。
「同一の制度」の下に立つのですから、
[78790]に挙げられた「日野宿、箱根駅、与瀬駅、吉野駅、府中駅」が、制度上「町」であるか「村」であるかを論じる必要はなく、もちろん市制町村制理由にも言及はありません。
[78790]の提案 “「1市22町1宿4駅293村設置」とした方がよいのではないでしょうか” は、変遷情報の中での案内目的の注記に関するものです。これを提案のように「自治体の呼び名」に基づいて記すのか、原案のように「制度」に基づく「変更種別」欄に合わせて記すのかは 編集者の裁量ですが、私としては提案の方がわかりやすいと思います。
個別入力データ「変更種別」については、「呼び名」でなく 法律上の「制度」に基づいて 記されるべきものでしょう。
既に明らかなように、「制度」として存在するのは「市制」と「町村制」だけです。
従って、変更種別欄の記載は、横浜市については「市制」、320町村についてはすべて「町村制」になる筈です。
[78797] 88 さん
見た目の名称に捕らわれず、市制町村制という法律上の位置づけで判断すればよいと考えます。
これは、まことに正論であると思います。箱根駅の変更種別を見た目の名称から「駅制」とすることはできません。
さりとて「町制」を選ぼうとしても、法律には この言葉がありません。
「町制」という言葉は、「市制」「町村制」という法律用語から類推して作られた「俗語」なのではないでしょうか。
現在の地方自治法においては、「市制」という言葉も 附則で使われているだけであり、第8条「市となるべき普通地方公共団体」のような使い方がされています。
しかし、「市制」は 昔の法律以来ずっと使われている言葉であり、市になれば 郡の範囲外になる扱い などの実質的な変化も、現行制度に継続されており、引き続き使用されているのも、それなりの理由があると思われます。
これに比べて、村か町かは「制度上」での実質的な違いがなく、ほぼ「自治体の呼び名」の違いに限られます。
現行法において「町となるべき普通地方公共団体」が「○○村」→「○○町」となる場合の「法律的根拠」に基づく変更種別は、「名称変更」でしょうか?
町村制時代の「○○村」→「○○町」も同様?
なんだかよく判らなくなってきましたが、とりあえず、「町制」「村制」という言葉は、昔も今も法律的な根拠が不確実なのではないか という疑いを記しておきます。
せっかく「市制町村制理由」の「町村制」序論部分を紹介したので、「市制」も記します。
“都会輻輳の地”に施行する「市制」についての序論は、33コマ右62頁13~17、18行目に記してあります。
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然れども都会の地に至ては 大に人情風俗を異にし 経済上自ら差別あり。故に之を分離して 別に市制を建て 機関の組織及び行政監督の例を異にせり。
是固より 町村制と其性質を異にするに非ず。其市民の便益と実際の必要とに出て然らざるを得ざるなり。
即現行の区制に継続する所のものなりと雖も、従来の区は郡の区域を離れずして 行政上別に吏員を置き 事務を処理するに過ぎざりしも、今改めて独立分離せしめ、従来区の下に町ありしも、之を改めて市を最下級の自治体と為さんとす。【中略】
今此市制を施行せんとするものは三府其他人口凡二万五千以上の市街地に在りとす。
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人口25000人以上の都会は、町村と大いに人情風俗が違い、経済力の差もある。そこで、町村制と本質的に異なるわけではないが、「市制」という別制度を作って市民の便益を図る としています。郡区町村制の下でも、郡と別に「区」の行政吏員を置いていたが、今回はその区域の「郡-町」構造を廃止して「市」に改めます。
【中略】の部分は、東京・京都・大阪について三市特例法を設けるという内容です。