[92700] 伊豆之国 さん
●2つの「高千穂」について
戦前、その「高千穂」はどこにあったか、と言うことを巡って「宮崎県と鹿児島県が裁判で争った」
その名が示すように 地上ではないらしい「高天原」(たかまがはら)は別として、天孫降臨神話を通じて 日本発祥の地と言われている「高千穂」。
私は、
初等科国史により、宮崎県と鹿児島県との境界地帯にある霧島火山群の「高千穂峰」が、その地であると教え込まれていました。
紀元二千六百年記念切手(四銭)の画像も 高千穂峰でした。
宮崎県の北端・五ケ瀬川上流の「西臼杵郡高千穂町」の存在を知ったのは ずっと後のことでした。
1889年の町村制で旧三田井村など3村の合併により成立した高千穂村の他に岩戸村も生まれており、この付近も神話に地であったことが知れます。大正9年に高千穂町になった後、昭和合併で岩戸村を含めて再発足しました。
延岡から五ケ瀬川沿いに遡る鉄道は、戦前に日ノ影線が開通。日ノ影-高千穂間は 戦後の 1972年に完成。高千穂線の深角 - 天岩戸間には水面から105mという高い鉄道橋がありました。
北にも「高千穂」が存在することを知ったのは、高千穂峡への交通が便利になったこの頃のことかもしれません。
その先、阿蘇・南郷谷の高森とを結ぶ九州横断ルートの鉄道も引き続き着工しましたが、1977年高森トンネル出水事故などもあり全線開通を断念。
1989年第三セクター・高千穂鉄道に転換後、2005年の台風で全線にわたり橋梁流失などの被害で運休となり、2008年に全線廃止。
高千穂町岩戸の奥にあった鉱山が「土呂久」です。銀山だった時代もありますが、戦前から戦後にかけて殺虫剤などに使用された亜ヒ酸の製造が行なわれ、
公害病をもたらした苦い歴史があります。
天孫降臨に関連して2つの「高千穂」の間の本家争いが、大審院にまで持ち込まれていたことは初耳でした。
資料を見ると、日本書紀「襲の高千穂峯」、古事記「日向の高千穂の久士布流多氣」、日向國風土記逸文「臼杵の郡の内、知鋪の郷」など まちまち。二上の峯→「ちほの郷」。
また、北→南の移動説だけでなく、南→北の移動説もあるとか。
もともと、神話ですから現実の地名に当てはめることに無理があり、裁判で黒白を決すべき適切な対象ではないのでしょう。
高千穂大学が冠する「高千穂」は、やはり日本書紀に記された「高千穂峯」をイメージしているのだろうと思います。
自治体を異にする2つの「高千穂」ではあるが、「同一地域を表す地名が、都道府県境、市町村境、区境によって分断された地名」ではない。従って
『自治体越えの地名』コレクションの対象外。そのように理解します。
●紀元節の歌
「高千穂」という地名を聞いて、私が反射的に思い出すのは
♪雲に聳(そび)ゆる高千穂の… という句で始まる唱歌です。毎年2月11日に学校の紀元節式典で歌いました。
明治21年に発表された山田流箏曲の作品に基づく曲で、その後間もなく学校教育の唱歌に採用。
解説
私が入学した 1940年(昭和15年)は 皇紀【神武天皇紀元】二千六百年にあたり、日本中に「神がかり」の宣伝が流れた 異常な時代を象徴する 国を挙げての記念行事が行なわれた年でした。
秋の記念式典で演奏されたと思われる儀式用の「紀元二千六百年頌歌」は記憶にありませんが、一般向けにラジオで流されていたのは、行進曲風の奉祝國民歌でした。
もっとも、人々は政府の宣伝に踊らされていただけでなく、
タバコ値上げを皮肉った替え歌も作り、流行らせていました。
●当時の市町村の動き
市区町村変遷情報を見ても、
昭和15年の2月11日には 洲本市
[74036]、飾磨市、川内市と24町【新設合併2町を含む】が誕生するなど、お祝い気分を感じることができます。
合併期日は少し遅れていますが、戦時合併の一種としての「紀元二千六百年記念事業」と銘打った合併もありました
[37842]。
●4自治体の微妙な境界
[92700]
微妙な4自治体接点の近く
大縮尺(#16)の地理院地図により、東の高千穂峰と西の御鉢の間にある1408m鞍部の西側境界線【グレーとジャンクションもどき】を示しておきます。境界線の北:宮崎県小林市、東:宮崎県高原町、南:宮崎県都城市、西:鹿児島県霧島市で、南北の自治体は隣接せず。
この高千穂峰から少し北西に位置する霧島山の最高峰・
韓国岳1700.1mの地理院地図も示しておきます。
ここは現在では 北:宮崎県えびの市、東:宮崎県小林市、南:鹿児島県霧島市の3自治体接点です。
しかし、2005/1/7の霧島市新設合併前までは 西:鹿児島県牧園町、南:鹿児島県霧島町の境界でもあり、真のグレーとジャンクション【4自治体境界】であった可能性があります。
[24021]ペーロケさん参照。
【重要でない追記】
●高千穂大学のある東京都杉並区和田堀
現在地に大学の前身である高等商業学校が開校したのは1914年です。日向の高千穂とは無関係と思いますが、11世紀創建の大宮八幡宮と隣接しています。祭神は当然のことながら応神天皇。
付近の善福寺川沿いは和田堀公園になっている東京近郊の景勝地で、子供の頃にも訪れたことがあります
[35838]。
東京府東多摩郡和田堀内(わだほりのうち)村は連称自治体名。
「土呂久」で話題にした亜ヒ酸
●1998年の和歌山カレー事件で使われた毒物です。