日本の国土面積は国土地理院が測定していますが、
国土地理院の公表値 と
統計局の長期統計 における国土総面積 とが一致するのは、沖縄が復帰した昭和47年(1972)以降です
[67221]。
一例として、平和条約発効から3年後の 昭和30年(1955)の国土面積を示すと、統計局の長期統計値は 377,002km2となっています。
この値は国土地理院(地理調査所)の公表した 369,660.74km2よりも 7,341km2も大きな値です。
この違いを探ってみました。
実は、この2つの面積統計値、少し性格が異なるのです。
国土地理院の公表値は、地理調査所であった時代を含めて、公表当時の「ナマ」の数値と思われますが、統計局HP掲載の値は、長期統計という見地から、後でかなり「加工した」数値を用いているようです。
同じ統計局のデータでも公表時の印刷物、すなわち「第7回日本統計年鑑(昭和30・31年)」の冒頭には次のように記され、369,665.37km2となっています。完全には一致していませんが、国土地理院HPの昭和30年と近い面積です。
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この表は、他の諸表との関連的利用の見地から、現に行政権のおよんでいる地域のみについての数字を示す。【以下、簡略化して引用】小笠原群島、琉球諸島、歯舞群島および色丹島ならびにいまだ帰属が確定していない千島列島・国後島・択捉島・南樺太は便宜上含まれていない。
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# サンフランシスコ平和条約で既に放棄した千島列島・南樺太に、まだ言及しています。
要するに、統計局の方針は次のように理解されます。
昭和30年当時は、実態に合わせて、わが国の行政権が及んでいなかった外周地域を除外した面積で公表していた。
しかし、現在は、小笠原と琉球だけでなく、北方四島を含む外周地域すべての面積をも1945年に遡及して含めるようにしている。
# この記事では、琉球・小笠原・北方四島・竹島の総称を仮に「外周地域」と呼んでおきます。
類似の用語としては、1946年にSCAPIN-677によって日本の統治から外された際に用いられた「特定外周領域」
[56190]という言葉がありました。こちらは、奄美群島も含み、一時的ですが伊豆諸島も対象になっていました
[24269]。
遡及はしませんが、国土地理院の面積データも、小笠原が復帰した昭和43年(1968)から外周地域を含むように改められました。
昭和25年~平成17年の国土面積公表値の推移 を見ると、昭和43年には前年より 7,531.82km2増加し、備考に“小笠原諸島、琉球諸島(硫黄鳥島除く)、北方四島、竹島追加”と記されています。
この年(1968)の
埋立面積 は 43.45 km2、従って追加された外周地域の面積は 7488.37 km2であり、その内訳は次の通りです。
小笠原諸島は 昭和43年現在の5万分1地形図により測定した 106.14 km2。未返還の琉球諸島 2386.24 km2
[67073] と 北方四島合計 4995.76 km2
[67072] とは 戦前(1935)の値を使用。竹島は 国有財産台帳上の 0.23km2。これが 1968年当時の数値でした。
外周地域の面積については、
統計局HPでも、“一部の地域の基礎面積”として説明されています。
こちらは、北方四島・竹島・小笠原については上記国土地理院と同じですが、沖縄だけは 2239.22 km2と、異なる数値になっており、外周地域を総計すると 7341.35 km2になります。まさに最初に注目した国土地理院の公表値と統計局長期統計との差です。
これまでの検討から、面積に相違が生じたポイントは沖縄にあることがわかります。
沖縄の面積は、昭和46年復帰の前年に 4.36km2埋立があったにもかかわらず、復帰の昭和47年に再測定したら、古い面積より 145.26km2少なかったことが判明しました。更に、昭和44年より前のデータには、硫黄鳥島
[28741](2.60 km2)が未算入でした。
従って、戦前から用いられていた沖縄の面積 2386.24 km2は、これら3点の修正を考慮した結果、実は 2239.22 km2が正しかったものと考えられます。
長期統計に遡及して用いられた面積は、このように後になってから「加工して作られた」数値だったわけです。
細部の検証になりましたが、これでようやく国土地理院の発表した測定値と、統計局HPの長期統計で使われた面積との整合性がとれました。
なお、上記の説明で使われた面積データは「過去の値」です。北方四島の面積は、1992年の再測定により 5036.14 km2に修正
[67072]。小笠原諸島は 1988年に改測と西之島新島
[56162]の加算が行なわれた結果 104.41 km2となっています。