今日、6月10日は「時の記念日」です
[42204]。
「少年易老学難成 一寸光陰不可軽 …」 これは南宋の儒者朱熹の作と伝えられている詩。
ベンジャミン・フランクリンは自伝「Advice to a Young Tradesman」に記しているそうです。
無為に過ごさず、自らを益する行動を選べ。これが「Time is money」の原点である。
「時の記念日」も、1920年制定から99周年。かなりの歴史があります。
東京天文台と共に制定に関与し、時の展覧会も開催したのは 文部省外郭団体の生活改善同盟会でした。
欧米並みの生活改善・合理化を目標に、約束時間を守る啓蒙を進めていた大正時代の社会動向が推察されます。
振り子式の柱時計は既に各家庭に普及し、懐中時計・腕時計を持つ人も増えていたとは思います。しかし、正確なクオーツ時計が極めて安価に供給されている現在と比べると、生活インフラの整備は比較にならない時代でした。
もちろん、更に正確な原子時計を積んだ人工衛星により、地球上の位置を容易に知ることができる GPS
[45617]の出現など、想像もできないことであり、「時間の測定」に関係する技術の進歩には瞠目するばかりです。
時間の測定からは離れますが、計測技術に関する雑談を記します。
最初に引用する
日経記事は 昨年11月に開かれた国際度量衡総会における「キログラム」の定義改定を伝えています。
その後 日本でも
計量単位令の改正が行なわれ、先月(2019年5月20日)施行されています。
なお、5月20日は 1885年
[45385] メートル条約が締結された日であり、世界計量記念日になっています。
法令や記念日の名からわかるように、現在は「計量」という言葉を使うのが普通ですが、以前は 計量に用いる道具の名 に由来する「度量衡」という用語が一般的でした。第二次大戦後の 1952年に旧・計量法が施行される前の法律名は 度量衡法 でした。
度は長さを測る「物差し」、量は体積を量る「枡 = ます」、衡は質量をはかる「秤 = はかり」です。
パリ郊外・セーブルにある国際度量衡局(BIPM = Bureau international des Poids et Mesures)の末尾は「分銅と物差し」であり、歴史話にふさわしい「度量衡」をタイトルに使いました。
度量衡法の公布は 1891(明治24)年です。当時の日本社会で使われていた計量単位の基本は、尺・升・貫でしたが、西洋列強が新たに原器を製作して度量衡を統一するという情報を知った明治政府は、1886年にメートル条約に加盟し、副原器の頒布を申し込んでいました。
1889年には 条約に基づいて メートルとキログラムの基準となる 原器と副原器とが作られ
[45385]、加盟国に配布されることになりました。我が国は、抽選により メートル副原器No.22 と キログラム副原器No.6 とを入手し、国内で使える体制を整えました。
2012年重要文化財指定
これに基づき、度量衡法第二条は 基本単位の「尺」を、「33分の10メートル」として定義しました。
この寸法に近い折衷尺は、伊能忠敬も全国測量に用い
[67006]、明治8年(1875)の度量衡取締条例にも引き継がれたようですが、江戸時代から枡座において枡の寸法を定めるために用いられた基準とも伝えられているようです。
1891年の度量衡法におけるもう一つの基本単位「貫」は、1871年新貨条例に記載された3.756521グラムから改め、少し軽いが換算に便利な値を採用しました。
(キログラム)分銅の質量四分の十五を貫とす
ここで昔話から現代に戻ります。
冒頭に記したように、1889年に作られた原器を用いて 130年間定義されてきた「キログラム」。
その座が交代することになり、誕生した新しい定義は下記の通りでした。
プランク定数を十の三十四乗分の六・六二六〇七〇一五ジュール秒とすることによって定まる質量
シロウトにとっては、とても「キログラム」のイメージを掴むことができません。
先月末に Eテレで
ヘウレーカ!という番組【注】を見たら、「なぜ単位はいるのだろう?」というタイトルで、キログラムの定義変更問題を取り上げていました。
【注】
番組名の由来:入浴中のアルキメデスが浮力の原理を発見し、嬉しさのあまり裸で「ヘウレーカ!【わかった、見つけた】」(古代語の εuρηκα)と叫びながら街中を走った、という故事。
解説者は国際度量衡委員会のメンバーでもある 産総研の臼田孝さん。
厳重な金庫の前にに集まった委員たちが顔を見合わせ、「Still there.」(確かにまだあるね)と確認して扉を閉める。こんなエピソードは面白かったのですが、限られた放送時間内に盛り沢山な内容を解説し尽くすことは不可能でした。
恣意的に選ばれた国際キログラム原器ではなく、いつでもどこでも不変なプランク定数による、未来永劫不変な合理的定義と言えます。
同時にこれまでの定義「国際キログラム原器の質量」に比べ直感的にわかりにくいことは否めません。
この定義では意味がさっぱりわからないという方も多いことでしょう。
ということで、「ヘウレーカ!」とは程遠い状態で終りましたが、次のことはよく理解できます。
キログラムの定義を変えたら、測定値が変わるのでしょうか。
はっきり申し上げましょう。「何も変わりません」
補足をすれば、何にも影響しないよう、慎重に定義を変えるので、皆さんは気づかないのです。
それでも、臼田さん名を知ったので、昨年の
Web記事や、その末尾に紹介されていた著書により、理解を深めることができそうです。